第10話 ギルド対抗戦・模擬戦のその前に


 ヒロさんたちと出会った翌日。

________



 初めてのアルバイトでの出来事。


「やりたいよぉ! やろうよぉ! 私もやりたいぃ!」


 ギルド会館に、ヒロさんの悲痛な声が響く。

 

 何でこんな事になっているかというと。遡る事一時間前の事。

 

 お昼休憩が終わった僕は、窓口の近くでメルさんに頼まれていた、本日行われるメインイベント、『ギルド対抗戦』の貼り紙を出していた。

 

 内容は、今日の夕方17時から、ギルド『紅の炎』がギルド会館ウガルンダ支部で、『ギルド対抗戦』の模擬戦を行うらしく、模擬戦の対戦相手を募集しているらしいのだ。

 僕は知らなかったが、ここウガルンダではそこそこ有名なギルドらしい。


 『ギルド対抗戦』に出るにはギルドに所属している必要がある。

 

【ギルド】に所属すると、ギルド別で行われる、イベントに参加できたり、『ギルドハウス』を設立する事も可能になる。

 

 ギルドにはメンバーの人数制限はない。そのギルド別のイベントの1つに、【ギルド対抗戦】が存在する。

 【ギルド対抗戦】とは、ギルド同士が行うバトルの事である。

 

 フィールドに、戦闘要員として5人が出場し、残りのメンバーは、【ギルドロビー】と呼ばれる、控え室で待機する事になる。制限時間は最初の作戦会議で15分、バトル時間は45分間おこなわれ最大時間は1時間である。


 不定期に行われるのだが、【ギルド対抗戦 本戦】と呼ばれる大きい大会もある。

 

 本戦はギルドに、『ギルドランク』と呼ばれるものがあり、同じランク帯のギルドとマッチングされるのである。

 ギルドランクは、Dランクから始まり、一番上はSランクとなっている。

 

 本戦は練習戦と違い、ギルドランク毎だが、順位を決められる。最強のギルドを決めるのが目的なので、上位ランクになるほどとても白熱する。


 ルール及び勝利条件は以下の通りである。


① 各ギルドには、守護獣ギルドガーディアンと呼ばれるモンスターが存在するため、守護獣の討伐。


② 相手のギルドメンバー全員をキルすること。一度キルをされたプレイヤーは、ギルド対抗戦用のアイテムを使用しない限りは、そのバトル中は復活出来ない。


③ ギルドロビーにいるプレイヤーは、専用ボイスチャットを使って、仲間メンバーに指示を出すことができる。ギルドロビーのプレイヤーが、専用アイテムを使用したり、交代申請を行うことが出来る。


④ 45分経っても勝敗が決まらなかった場合は、キル数が多いギルドが勝利となる。


 と、まあこんな感じのルールだ。ギルド対抗戦でキルされても実際に死ぬ事はない。

 

 ギルドロビーで指令する人が居なくなるが、ギルドメンバーが最低5人居れば、ギルド対抗戦に参加する事ができる。

 

 守護獣は、基本のベースとなる種族が多数存在する。例えば、『ゴーレム』、『スピリット』、『ビースト』、『ドラゴン』などがある。

 守護獣は、アイテムを捧げることで、経験値を獲得し、レベルアップして成長する。

 

 レベルアップする事によってスキルポイントが貰え、そのスキルポイントを使用する事で、アクティブスキルやパッシブスキルなどを習得する事が出来る。

 

 なかなか同じ型の守護獣はそうそう見ない。色んな、育て方があり色んな戦略方法があるからだ。


 ヒロさんはそのギルド対抗戦の模擬戦に出たいと言っているのだ。そこそこ有名なギルドが来るのであれば、人が自然と集まるだろう。そうすれば、目立ってしまうので恥ずかしいのだ。もちろん、この性格は少しずつでいいから直したいと思ってはいるが、いきなりPvPは難易度が高すぎると思う。


「僕は、この世界でPvPをした事ないので、人を攻撃するのに、結構抵抗があるんですよね。あと、僕丁度仕事終わりなので間に合わないと思います。それに、ギルドに所属していないので参加資格がない気がするんですが……」


「今日のは模擬戦だから、誰でも参加していいんだって! そこそこ有名なギルドだから、いい練習になると思うよ!」


 仕事で間に合わない事はスルーですか……。

 ヒロさんと話していると、笑顔を浮かべたメルさんが話しかけてきた。


「トワさん、貼り終わりましたか? 次は、受付の研修を行いたいのですが」


「すみません、あと、外に貼り出せば終わりです」


「分かりました。慌てずゆっくりでいいですからね」


 そういって、立ち去ろうするメルさんにヒロさんが。


「あー! メルさーん! お久しぶりでーす! 元気でしたか?」


「あら、ヒロさんこんにちは。お久しぶりですね。元気ですよぉ! ヒロさんもお元気そうで」


「二人はお知り合いなんですか? ヒロさんは冒険者だから、ギルド会館に来てるだろうし、知り合いでもおかしくはないのですが」

 

「ヒロさんはウガルンダで有名ですよ? 積極的に依頼を受けてくれたり、困っている新人さんがいたら、パーティを組んで助けてあげたりと。とても優しい方ですよ」


 それを聞いたヒロさんは、えへへ、それほどでも〜、といいながら頭を撫で照れている。

 確かに、ゲームの時も実力がありながらも、新人から上級者まで、色んな人を手伝っていた。

 メルさんは続けて。


「今日はギルド対抗戦のイベントがあるんですが、観戦しに来られたのですか? それとも参加されるんですか?」


 その言葉に対し、ヒロさんは早口で。


「私はね、ギルド対抗戦の模擬戦に出たいから、トワ君を誘いに来たのに、仕事がどうとか、ギルドがどうだって言うんだよ!? 酷くないですか!?」


「あら、そうだったのですね。トワさんは17時に上がりですし、少し早く上がってもらったら参加できるのでは?」


「え! これって参加する流れですか? でも、人数が足りませんねぇ。最低でもあと三人も必要ですよ?」


 すると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「こんにちは。お話し中でしたか? ヒロ様に呼ばれて来たのですが」


 その声の持ち主はルナさんだった。ヒロさんが呼んでいたらしい。

 ルナさんはグーファーさんとユナちゃんと一緒に来た。


「あ、来てくれてありがとう! あのね! 今日の17時からギルド対抗戦の模擬戦があってね、それに出たいんだけど、人数が足りなくて。だから一緒に出てくれると嬉しいなって」


「あら、そうだったのですね。昨日お手伝いして頂きましたし、お役に立てるかは分かりませんが、わたくしたちでよろしければ、是非参加させてください」


「俺も参加させて下さい。昨日助けて頂いたご恩をお返しする時です。強い方の戦いを直で見られるのはいい勉強になると思いますし」


「二人ともありがとう! 助かるよぉ。私に、ルナちゃんに、グーファーさんにトワ君でこれで4人 あと1人だね!」


 勝手にカウントされている。出ると言った覚えはないぞぉ!? メルさんは窓口の方を向きながら言った。

 

「あと一人なんですね。なら、ザーハックさん入れたら丁度五人じゃないですか? これで出られますね! いいですよねっ? ザーハックさん?」


 いきなり話を振られた、ザーハックさんは驚いた表情を浮かべ。


「え!? 俺!? ギルド対抗戦がどうとか聞こえましたが、俺も出るんですか? ルール知らないですよ」


「最近、窓口のお仕事ばかりで、体が鈍ってるかと思って、、たまには、体を動かすのもいいんじゃないですか? それに、ゴールドさんからトワさんを鍛える様言われてたじゃないですか? いい機会だと思いますよ♪」


「う、うむ。まあそうだが……そうなのだがな……俺と、坊主が抜けたら、窓口がいなくなるぞ? それはいいのか?」


「そこはご心配なく! フィリスさんと私でやれますよ。みなさん、模擬戦を観戦する人が多いでしょうから、暇になると思いますし。トワさんをよろしくお願いしますね」

 

 フィリスさんは僕の先輩に当たる人で、綺麗な眼と白髪のお姉さんだ。

 

 メルさんはニコッと笑顔を浮かべた。メルさんの笑顔に負けたのか、ザーハックさんは諦めたのか、はぁ。っとため息をつく。そして僕の方を向きながら言った。


「坊主も諦めて参加しろ。お前も道連れだ。俺が鍛えてやる」


 んなバカな。


 「わーい! やったー! ザーハックさんありがとう! よろしくお願いしますねー!」


 ヒロさんは子どものようにはしゃいでいた。



__________


 数時間後。


 アルバイトを終えた僕は、ヒロさんたちと合流していた。

 今から、『紅の炎』の対戦するチームが、抽選によって決められるらしい。

 ギルド会館に参加したいギルドや一時的なチームが集まっている。このチームの数から一つのチームが選ばれるのだ。

 この数だったらそうそう、当たることはないだろう。僕はそう慢心していた。

 そして、運命の瞬間が訪れる。紅の炎のギルドマスターの『紅葉』さんが抽選発表する。


「僕たち、紅の炎と対戦できる、ラッキーなチームは……」


 外れろ、外れろ、外れろ、外れろー!


「チーム名! 『チームトワ君』だ! おめでとう! 熱い戦いをしようぜ!」


 絶対おかしい。ツッコミ所が多すぎる。なんだよぉ、チームトワ君って……もうちょっと名前考えてよぉ。

 それを聞いた、ヒロさんが、ルナさんとハイタッチしながら。


「やったね! 私たちだ! みんなに恥ずかしくない戦いをしようね」


 僕は既に恥ずかしいんですけど。


「精一杯頑張りますね」


「俺も頑張ります。よろしくお願いします」


 と、ルナさんとグーファーさん。


 ザーハックさんは、一人でで頭を抱えていた。


「何故こんな事に……」


 同感です。

 こうして、僕たちとギルド紅の炎とのギルド対抗戦・模擬戦が行われる事になった。

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