第9話 あの日の約束

 

 自己紹介と食事が終わり、作戦を立てていたその時だった。


「お嬢様方! お困りかな!」


 その声の主は、眩しい笑顔で、真っ直ぐに強い眼差しを向けた。

 そして、黒くツヤツヤした質感の、肩口まで届かないくらいの長さの髪。

 黒をベースに縦に赤色の線が入った鎧と鎧靴、紫色のロープを装備した美少女だった。この人も年上の様に見える。

 全身暗い色を纏ったその女性は、両手を腰に当て、自信ありげなドヤ顔をして立っていた。


 ルナさんが立ち上がり言う。


「はい!グズリグリズリーを討伐したいと考えております。そこでパーティメンバーを探していたところでございます」


「ふっふっふー! グズリグリズリーだね! お姉さんに任せなさい! よろしくねぇ! えいえいおー!」


 ルナさんにグーファーさん、そして黒い女性と僕を合わせて四人になった。


「「「よろしくお願いします!」」」


 僕とルナさんとグーファーさんも挨拶をする。


「作戦はどうしましょうか? 僕はナイトのままで良さそうですか?」


「全く問題なーい! とりあえずやってみよー!」


 一時的なパーティとはいえ、相手はグズリグリズリーだ。連携は大切。

 連携を図る為にワープゲートを使い、軽いクエストを4.5回くらいクリアする。

 

 ツヤツヤの女性の職業は、『アーチャー』系の中級職、『スナイパー』と『メイジ』系の中級職、『ウィザード』が使えるらしい。レベルも23でかなり高い。

 

僕たちはお話しをしながら、依頼のグズリグリズリーがいる東側の公園へと向かう。


_______


 公園に着いた僕たち。


 現実世界によくある、ブランコや砂場がある小さな公園だ。

 

 公園の周りには森があり、どこからモンスターが出てきてもおかしくはない状況だ。


「着きましたね。どこにいるのでしょうか?」


 最初に口を開いたのは、グーファーさんだった。

 僕たちはグズリグリズリーに見つからない様、茂みの中に隠れている。


 すると、先程の女性が魔法を使う。


「感知スキル! 対象、グズリグリズリー」


 感知スキルだ。『探索スキル』や『千里眼』など色々なアクティブスキルがある。

 『感知スキル』は対象の名前や、条件を言葉にするだけで、対象などがいるのかが分かる。

 

 感知出来る範囲や時間などは、スキルの枠の色で変わったり、練習次第では伸びるらしい。


「いるねー! 公園の奥にある茂みにいるよー!」


「感知魔法ありがとうございます。場所が分かれば、不意打ちで先制できます。先程の作戦で行きましょう」


 作戦はこうだ。僕とグーファーさんは公園の中央で、グズリグリズリーと対峙し、ルナさんと女性に攻撃がいかない様にヘイトを稼ぐ。

 

 その間に女性には、アーチャー系が得意とする、『状態異常付与』で麻痺を付与してもらい、グズリグリズリーの動きを止めてもらう。

 ルナさんきは動きが止まった、グズリグリズリーに攻撃魔法を行ってもらう。

 それだけだ。そう、俗に言う、麻痺ハメだ。


 僕は買っておいたアイテム、『任せて安心!ヘイト君』を取り出し、公園の中央に置いてスイッチを押す。


 プレイヤーには効果はないが、モンスターやNPCには効果がある。

 ヘイト君は、モンスターに刺激を与える周波を放ち、効果を受けたモンスターはヘイト君を狙うようになる。

 

 耐久値があり、その耐久値を超えるほどの攻撃を受けた場合は壊れてしまう。


 ヘイト君は、目覚まし時計のような音をあげ振動する。


 すると、茂みに隠れていた、グズリグリズリーが。


「グオオオオォン!!!」


 と、大きな雄叫びをあげながら、こちらに向かってくる。

 僕の前にいた、グーファーさんは剣を構える。


 グズリグリズリーがその、鋭利な爪でヘイト君を攻撃する。

 それを合図に。


「パラライズアロー!」


「フラッシュボール!」


 二人が魔法を放つと、グズリグリズリーにヒットする。


「グオオォォ」


 グズリグリズリーは、ヘイト君を持ち上げながら二人の方向へ振り向いた。


「今です! グンファーさん! 『挑発』を!」


 グンファーさんは頷き、挑発を使う。


「挑発ぅ!」


 挑発を使った、グンファーさんは赤黒いオーラを纏う。その赤黒いオーラを纏っている間が、挑発の効果時間になっている。


 グズリグリズリーはグンファーさんの方へ、振り向き、鋭利な爪を振り下ろそうとするが。


「フラッシュスピアー!!」

「パラライズアロー!」


 二人の攻撃で、グズリグリズリーの動きが止まる。

 ナイスアシストだ。そして、ツヤツヤの女性のパラライズアローの麻痺効果が付与されたようだ。

 グズリグリズリーが四つん這いになり、動きが鈍くなった。

 

「おっとぉ。ヒヤッとしました……。あの一撃を受けていれば危なかったです! 支援感謝します」


 僕は麻痺している、グズリグリズリーの足に剣を刺す。

 グズリグリズリーは、仰向けになり、じたばたして、暴れ出す。

 グズリグリズリーのHPバーを確認する。

 じたばた始めたのは、残りの体力は三割を切ったからだ。

 グズリグリズリーの名前の由来である、グズリは愚図るからきている。

 体力が三割を切るとグズって暴れ出すのだ。その状態の間は、物理防御と魔法防御が半分になり、じたばたするだけなので、その間に攻撃をすれば勝てる。そう。三割をきることができればもう、勝ったも同然だ。

 

「もうすぐで討伐完了です! 攻撃をお願いします」


 と、僕は声をあげる。


 作戦の通り、黒髪の女性は、『プリセット』からスナイパーからウィザードに職業を変える。



「ふっふっふー。ついにウィザードの魔法を見せる時が来ましたね! みなさーん! 離れてて下さいねー」


 女性は杖を前に突き出し、詠唱を唱え始める。

 すると、ツヤツヤの女性の周りから、小さいが眩しい光とともに無数の星が現れる。

 持っている杖の一部が白く輝き。


 「煌めく星!」トゥインクルスター


 杖の先から放たれたその光は強く輝き、グズリグリズリーや周りに直撃するとともに、周りを巻き込みながら、大爆発を引き起こした。


「「うわぁぁぁぁ!?」」


 グズリグリズリーの近くに居た僕とグーファーさんは、逃げる事が出来ずに、その爆発に巻き込まれる。

 

 その女性の近くに居た、ルナさんとユナちゃんは、眩しい以外は被害がなさそうだ。


「い、生きてた……。し、死んだかと思った……」


 僕はこの世界で初めて死を感じた。だが、その魔法の迫力は凄まじいものだった。


「大丈夫ー? ごめんねー。つい張り切りすぎちゃって、威力の調整間違えちゃったよ」


と、手を後ろに当てながら、てへへっと女性がこちらに走りながら言う。

ルナさんもユナちゃんを連れ合流する。


「皆さんご無事ですか? 怪我はありませんか?」


 爆発に巻き込まれた僕とグーファーさんは地面に倒れていた。


「なんとか……。ありがとうございます。グズリグリズリーはどうなりましたかね?」


 ルナさんはニコッと微笑み。


「先程の魔法のおかげで討伐できたみたいです。みなさんの、ご協力ありきの勝利です。本当にありがとうございました」


「それは良かったです。お恥ずかしいお話しですが、僕は何もしてませんので……。ルナさんの魔法も、グーファーさんの挑発も助かりました」

 

 僕とグーファーさんは立ち上がり続ける。


「さっきの魔法、凄かったですね。流石はウィザードです」


 魔法の主は照れながら。


「えへへ、巻き込んじゃって、本当にごめんね。私なんか、まだまだだよ。トワ君が、この作戦を考えたんだよね? 流石だよー! 【孤高のジーニアス】の名は伊達じゃないね!」


 いやいや、ご謙遜を。

 ん?、、え? 孤高のジーニアス? 確かに僕は、ゲーム時代に一部のプレイヤーにそう言われていたけども……。この人は僕の事を知っているというのか。


「いやーそれにしても、魔法はやはり、迫力が違いますね! 俺は魔法使えないので、羨ましい限りです」


 と、グーファーさんが言う。それに続けるように、ルナさんが、


「では、そろそろギルド会館に戻って依頼主さんに報告しに戻りましょうか。心配されてるかもしれませんし」


 ギルド会館へ帰ろうとその帰り道。ルナさんとルナちゃん、グーファーさんは僕たちの後ろを歩き、僕と黒髪の女性は先頭を歩いていた。

 僕は先程の話が気になりその女性に話しかける。


「あの、今日はありがとうございました。僕の事を『孤高のジーニアス』と言ってましたが、僕の事を知っている方ですよね? 名前をまだ伺ってないもので……」


「トワ君は私の事覚えてないの? ショックだなー。あ、そうだ。私の方見ながら、『ステータス』って念じるか言ってみて?」


 僕は言われた通りに、ステータスと呟く。

 すると、右上にステータス画面が出てきた。

 

ヒロ レベル23

職業 ウィザード


その名前を見て。


「えぇー!? ヒロさん!? 僕なんかと仲良くしてくれてた、あのヒロさん!?」


「あー! やっぱりぃ! ステータスと名前の確認方法知らなかったんだね。でもショックだなぁ、乙女心傷ついちゃったー」


 

「すみません! 本当に知らなくて! その、リアルな姿を見せるのは初めてだし、今まで、ゲーム画面越で姿とか分からず、、、急の事で頭が混乱してますが、いつか会えたらなと思っていたので、再会できて良かったです」


「そうだねー! 初めてだもんね。私も会えたらなって思ってたよ。私との約束は覚える?」


 「もちろんです。『いつかまた一緒に冒険しよう』ですよね? その……ヒロさん。僕とまた……一緒にこの世界を冒険してくれませんか?」


 僕がそう言うと。


「喜んで! 一緒にこの広い世界を、冒険して色んな体験をしていこうね! この世界でもまたよろしくね。でも、乙女心を傷つけたのは減点だけどね」


 夕陽をバックにヒロさんは、小さな口から舌を出しながら、笑顔で答えた。


 そして、ギルド会館に着いた僕たちは、依頼の達成報告をし、ドロップアイテムや報酬を山分けにしたのち、みんなと【フレンド登録】を行い、解散した。

 

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