第7話 暗躍する者

       

 ギルド会館に着いた僕は、ドアを開け中へと入る。

 出迎えてくれたお姉さんに、軽くお辞儀をし、言われていた、①ーAの窓口へと向かう。昨日面接の話をくれた青髪のお姉さんに話しかける。


「こんにちは! 面接を受けにしました。トワです」


 青髪のお姉さんも、待っていました! と、言わんばかりの勢いで。


「こんにちは! お待ちしておりました。中にある、応接室で、面接を行いますので、こちらへどうぞ」


 お姉さんに案内されながら世間話をしつつギルド会館の内部へと進んだ。


 周りを見ていると色んな人が働いているのが分かる。事務所には五、六人の女性職員の人が書類を整えたり、パソコンを当たったりしている光景が見える。突然、お姉さんが立ち止まり。


「着きました。こちらのお部屋の中に、ギルド会館ウガルンダ支部の、総務部、部長のゴールドさんがおられます。優しい方なのですが、少し気難しい方なので……心の準備が出来たら入りましょう」


 それを言われると少し緊張するのだが、僕は待たせまいと、分かりましたと伝え、扉をノックして扉に手をかける。


「失礼します! 本日はアルバイトの面接を受けに……」


 僕が言いかけると。

 ソファーに座っており、年老いた、銀髪なのか白髪なのか、はっきりしない色の女性が僕の言葉を遮り。


「今日、この時間にアルバイトの面接があるのが、知っているからこうして待っていたのです。あまり私には時間がありません。手短にいきましょう。お座りください」


 もう少し優しい言い方はないのかと思うのだが…。

 お辞儀をして、ソファーに座る。


「本日はよろしくお願いします」


 部屋の中に入ってきたお姉さんが、ゴールドさんに挨拶すると、僕の隣に座る。


「こちらこそよろしくお願いします。私が、『ウガルンダ支部』の総務部、部長の『マリー・F・ゴールド』です。では、早速。ここの支部は、新人冒険者や新人プレイヤーがかなりいらっしゃるので、とても忙しいです。そして今、人手不足っていうのは、そこにいるメルさんに聞いていますよね? みんながみんな、心に余裕がある訳ではありません。忙しくて、言い方がきつかったり、急かされたりするかと思います。それでも、ここで働いてみたいと思いますか?」


 隣に座った青い髪の女性が、メルさんって人なのか。そういえば、名前も知らなかったな。

 

 そんな事を思いつつ、僕の気持ちは変わらない。      

 目立つのが苦手な、この性格を治したいと言う気持ちもあるが、大変なこの状況でも、みんなの力になりたいっていうのが大きい。現実ではアルバイトなんか出来なかった訳だし。僕は決心して口を開く。


「はい、お話は聞いております。自分は目立つのが苦手で、この性格を治したいって言うのもありますが、アルバイトをした事がない僕が言うのも変ですし、お役に立てるかは分かりませんが、みなさんのお力に少しでもなれたならなと…」


「分かりました。もういいでしょう。自分を変えたい、ここの人たちの力になりたいと言う強い気持ちは理解できます。実際人手不足ですし。それに、君はまだ若い、これからの人生において、良い経験にもなるでしょう。ですが、プレイヤーを雇うのは特例です。人手不足が解消されるまでという条件で雇わせて頂きます。モンスター退治の依頼や採取の依頼などもこなしてもらいたいので、経験値を稼いでレベルをある程度上げていて下さい」


 途中で話を遮られた時は焦ったけど合格みたいで良かった。

 数日だけでも、社会勉強出来るのはありがたい。

 モンスター退治とかもするんだ。レベルもそうだけど、まずは腕を上げなきゃ話にならないな。

 メルさんの方を向くと。


 一安心したのか、深呼吸しているようだった。


「はい! それで、大丈夫です! 不束者ですがよろしくお願いします!」


「こちらこそよろしくお願いしますね。いつから働けますか?」


「いつでも大丈夫です!」


 僕は元気よく返事をした。ゴールドさんはメルさんを見ながら。


「そうですか。では今から少し、館内を見てもらって、場所の確認をしましょうか。メルさん。あなたが持ってきた案件です。責任を持ってトワくんを見るように。いいですね?」


 慌てた様子でメルさんは返事をする。


「ひゃ、ひゃい! 私が責任を持ってお世話をしますぅ!」


「では、これで面接は終わります。何か分からない事があれば、メルさんに聞いてみて下さい。まだ君のレベルは3。プレイヤーでレベル一桁は、ここ最近では見ないですね。戦闘のコツなどが分からなければ、ザーハックさんを頼ると良いですよ。これからの活躍に期待していますよ。私は少し用事があるので離れます」


 ゴールドさんはそう言うと、ドアの前で一礼をして外に出た。


「お忙しい中ありがとうございました! 失礼します」


 緊張のあまり、言うのが遅くなりゴールドさんに聞こえてたのかは分からない。

 メルさんが小さな声で。


「ぶ、無事に終わりましたね……良かった……。怒鳴られるかと思いました……。これで、トワさんも短期間だと思いますが、ギルド会館ウガルンダ支部のスタッフの一員です! これから一緒に頑張りましょうね! 困った時は、先輩の私に相談してください!」


 メルさんは、鼻下に人差し指を擦りながら当て、ムフッ! と胸を張る。


 そのメルさんが、自分の教育係になるのかと思うと、頼もしくて優しそうだから嬉しい。学校とは違う、先輩後輩って感じがして新鮮な気持ちになる。


「改めまして、メル先輩よろしくお願いします」


 メルさんは照れながら言う。


「先輩だなんて照れますね。私にとって初めての後輩……ますますやる気が湧いてくるってもんです! まずは着替えの為、更衣室に行きましょう」


 部屋を出た僕たちは、メルさんの案内で更衣室に向かった。 

 更衣室で待っていると、メルさんが僕の制服を持ってきてくれた。


「多分、これくらいで丁度いいと思いますので、これに着替えてもらえますか?」


「分かりました。めっちゃかっこいいですね。僕に似合うかな」


「大丈夫ですよ! ザーハックさんも着た事ありますが、似合ってましたよ。今はすぐに、モンスター退治に行けるように、装備を着たまま接客していますが」


 毎回着替えるのも大変だもんな。

 プレイヤーなら、ゲームパッドから装備を変えればその武器や防具を装備できるし、アバターだけだったらすぐに変えることも出来る。

 

 制服を持ったまま立ち止まっていると、メルさんが不思議そうに尋ねてくる。


「着替えないんですか?」


 僕は恥じらいながら……。


「いや、着替えたいとは思うのですが……その…メルさんに見られながら着替えるんですか? 恥ずかしいですけど」


 すると、メルさんは慌てて。


「……あ! あぁ! そうですよね! 見られていたら着替えにくいですよね! すみません、気がつかなくて! すぐに出ます」


 メルさんは走って物に体をぶつけながら、更衣室から出る。

 

 最後、躓いて転んでいたのは見なかった事にしよう。意外と天然だったり、ドジっ子属性な人なのかな?

 そんな事を思いながら、着替えを終える。


 ネイビー色のタキシードのような、その制服は上品で、余裕のある大人を演じさせてくれる。

 光沢感がありかっこいいと思う。まあ、背が小さくなければ良かったな。


「メル先輩! お待たせしました! 着替えが終わりました。入ってきてください」


 ガチャッと、ドアが開きメルさんが近づいてくる。


「おぉ! いいじゃないですか! とってもお似合いですよ!」


「ありがとうございます。蝶ネクタイとか普段しないので慣れないですね……」


「いつか慣れますよ! 今日は時間もあんまりないので、見学だけして終わりましょう。案内しますね」


 メルさんと挨拶をしながら、各エリアを案内してもらった。


_____


 数時間たち、日が暮れ出した頃。


「今日はありがとうございました。プレイヤーとアルバイト、両立してみせます」


 そういうとメルさんは笑顔で。


「それは頼もしいですね。私もうかうかしてられないですね。明後日の朝の9時前に①−Aに来てください。皆さんに挨拶をして、本格的にアルバイトを始めましょう。それまでは、ゴールドさんに言われていた、プレイヤーレベルを上げをしたりして下さいね。私は上に報告をしなければならないので……ではまた……おやすみなさい」


 僕は挨拶をして宿屋コロンに戻り、コロンちゃんたちと少し話したのち、眠りについた。

_______


 とある施設にて。


「彼は無事、アルバイトの面接を合格しました。明後日から、アルバイトを行います。いっときは、この町から出ないかと思われます」


「そうですか。報告ありがとうございます。では、そろそろあの子を向かわせるとしましょう。あの子が合流するまで、見張っておいて下さい。合流した後の事は彼らに任せるとして。我々も動き出しましょう。では、手筈通りに…頼りにしてますよ。」


「承知しました。マスター」


「御意」

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