いじめに迫る真由美さん

第17話 いじめは許さんワトソン

「なぁんだ…ただの勘違いだったんですね」

「なぁんだってことはないでしょ。何もないのが一番だよ」

暖房のきいた車の中で、私はココアを、家入さんはコーヒーを飲みながらそのような会話をした。何もないのが一番…間違いないね。


「送ってくよ」

「ありがとうございます。あと、ココアも」

「いえいえ。…左見ててね」




家の近くに停めてもらい、私は降りた。

「お疲れ様でした。…長谷川もありがとね」

後部座席の真ん中を陣取る長谷川にも声をかけた。

「ええ…長谷川さん後ろにいたんだ…」

家入さんはまだ慣れていないようだ。

「僕がいなければ解決しませんでしたね!」

長谷川はドヤ顔をする。


「…送ってくれてありがとうございます」

「いいんだよ、通り道だし。…それじゃ」

「えー…無視ですかー…」


不満を垂らす長谷川を乗せたまま、黒いセダンは夜道に消えていった。




木曜日。昨日は探偵らしいことができたと思い返し、興奮気味に家を出た。

朝いつも通り自分の席につき、頬杖をついてニヤニヤしていた。直也はやってきた。


「おはよう。なんかあったのか?」

「うん。いや、昨日ね?」

私は意気揚々と話した。1人で勝手に変装をして尾行したこと、旦那さんは知り合いの多い良い人だということ、そうかと思えばホテルに行き、そうかと思えばそれは奥さんへのサプライズだったこと…長谷川の話はしなかった。


「楽しそうだな。旦那さんも浮気してなくてよかったな」

「うん。とにかく昨日はいい1日だった」


その日はずっと調子がよかった。英語の小テストは10点満点中4点もとれたし、数学もいつもより数式をアレンジしなかった。

そんなこんなで、あっという間に放課後となり、(スキップになっていないと評判の)スキップをしながら事務所に向かった。


キィイ…きしむドアを思いきり開けた。

「家入さんこんにちはー!…あれ?」

お客さんがいた。学ランを着た男の子だ。


「和村さん…もうちょっと静かに入ってくれると助かるんだけど…」

コソコソと注意をされてしまった。

「すみません…あの子は依頼者ですか?」




「うん。なんでもこの子は、学校でいじめを受けてるとか…」


「…お話聞かせて」

入口に家入さんを残して、私は彼と向かい合うように腰かけた。


「…家入さん、この人は?」

学ランの少年は不思議そうに私を見つめる。

「助手だよ。この子は高校生だけど、ちゃんと任務は果たしてくれるし、秘密も守る」

家入さんに褒められた…

「その通り。私は高校生だけど、大船に乗ったつもりで話してください」


学ラン少年は話し始めた。

「僕は西園中に通ってるんですけど、1学年上に松山っていう生徒がいるんです」

西園中というと…私の母校じゃないか。

「その人はいま中2で、いわゆるヤンキー…みたいな感じの人で…」

先輩はヤンキーで、この子は大人しそう。

いじめがあっても何もおかしくない。


「それで、そのヤンキーからいじめられてるのね?」

「…多分そうなんだと思います」

多分…?


「多分ってどういうこと?いじめられてるかどうかは分かるでしょ?」

「いやそれが…ヤンキー文化に疎いからよく分からないんですけど、あれがいじめなのかどうか探偵さんに確かめてほしくて」

意味が分からない…


「確かめてほしいってのはどういうことなのよ。私らが、個人的にジャッジすればいいってことなのか?えぇっ?」

「和村さん、スケバンみたいに責めないであげて…」

いけないいけない。つい責め立ててしまった。学ラン少年も少し縮こまっている。


「…どうします?家入さん。やっちゃいます?」

「やっちゃいません。とりあえずボイスレコーダーを忍ばせて学校で過ごしてもらおうと思う。それは構わないかな?」

「はい…暴力を振るわれたりとかはないんで、そこは大丈夫です」




次の日の金曜日。学ラン少年については例によって…「霊」によって長谷川に観察をお願いしたので、ひとまずは安心した。

朝、いつも通り学校に向かっていたところ…




「それっ!」

自動販売機の横にある空き缶を、私の方へ転がすように投げる幽霊の姿が見えた。


「…何やってんすか?」

「ええっ!?見えてるの!?」

分かりやすく白装束しろしょうぞくで、黒髪ロングまで再現しているその女の幽霊は、自分が見えていることに大層驚いていたようだ。

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