第12話 お話きかせてワトソン

「さっきチラッと聞こえたんだよ。妻子持ちがどうとか言ってなかったか?」

「いや、それはほら…」

まずい、このままでは暗躍する探偵としてのイメージが…


「あの人はね?私の将来を約束してくれたも同然なの!」

そう、手に職をつけたのだからきっと安泰。


「なっ!?だけどお前…!」

「もちろん難しいこともたくさんあると思う。だけど、私たちでなんとかするから!」

探偵なのだから、覚えなければいけない難しい仕事もあるだろう。


「なんとかするじゃねぇよ!」

ビックリした。直也がいきなり大声を出したのだ。心臓に悪い…

「真由美を騙したあいつのことはムカつくよ!だけど…あいつだって腐っても父親なんだろ…?真由美に…なんの関係もない奥さんと子どもを…傷つけてほしくないんだ…」

今にも泣きそうな声で意味不明なことを話す直也。


「…なんか勘違いしてない?」


机に両腕をつき、うなだれる直也が顔を上げた。なんだか分からないが、ここまで心配してくれているのだ。不本意だけど、本当のことを話すとしよう…


「実は私、仕事を見つけたんだ」

「パパ活か?」

「違う。探偵の仕事だよ」

「探偵…?」

直也は鼻をすすりながら疑問を呈する。

「うん。進路に迷ってたときにあの人の職場を見つけて…あの人と一緒に車に乗ってるとこ見たでしょ?あの日はただ仕事に付いていっただけなんだ」


「じゃあ、妻子持ちがどうとかいうのは?」

「あの人のことじゃないよ。仕事の話」

「なんだ…俺てっきり、あの男の人とお前が浮気してるのかと…」

「そんなわけないでしょ! …ほら直也、部活あるんでしょ?早く戻らないと!」


直也はうんと頷き、去っていった。あいつの勘違いにも困ったものだな…

いけない、途中で切ってしまったのだった。

「…もしもし。すいません、色々あって切っちゃいました。…7時までなら大丈夫です。いえ、是非とも勉強させてください!」


もうすぐ事務所に依頼主の女性が来るらしい。私は急ぎ足で学校を出た。

学校から事務所まではそれほど離れていないのだが、急いでいるときに限って赤信号に引っかかるのは本当に参ってしまう。

このままでは依頼主が来てしまうのではないかと思ったが、意外にも余裕を持ってたどり着いた。

「やぁ、和村さん」

「こんばんは、家入さん」

余裕があってこそ探偵を名乗れるのだ。

依頼主が来るまで、どっしりと構えていようと思う。


キィ…

「すみません」

私が来てから5分ほど経った頃、彼女はやってきた。

「こんばんは。お待ちしておりました」

家入さんが出迎えた。こちらへどうぞとソフトへ誘導する。…私はどこに座ればいいのだろう?

「和村さんはこのへんに…」

小さく指示をされた。結果、私は依頼主の女性と向かい合うような状態となった。

右手には1人用のソファに腰かける家入さんがいる。


「あの…こちらの方は学生さんですよね?」

「ええ、確かに彼女は学生です。ですが…」

「はじめまして。探偵助手の和村です。探偵業としての能力を買われてここでお仕事させてもらってます。秘密は厳守します。ぶちまけてください!」


「…このようにやる気充分なんです。口は堅いですし、探偵としての能力もあるのでご安心ください」

前のめりになりすぎた自己紹介を見かねて、家入さんがフォローしてくれた。

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