色恋沙汰だよ真由美さん

第11話 それは誤解だワトソン

月曜日。いつも通り学校に行き、朝のホームルームが始まるまでスマホをいじっていた。

「なぁ、真由美」

気がつくと目の前に直也なおやが立っていた。

「おー、直也おはよ。どうしたの?」

直也は周りの様子を伺いながら、なるべく私の耳に顔を近づけて囁いた。


「真由美お前…彼氏がいたのか?」

「…え、なんで?」

「いや俺さ…真由美が、男の人の車に乗ってどっか行ってるとこ見たんだよ」

まさに土曜日のことだ。見られていたのか。


「あー…なんでそんなこと聞くの?」

「真由美ってさ、今までの人生で彼氏できたことないだろ?」

「いやあんた…親しき仲にも礼儀ありってやつだよ。失礼だわ」

「うん、今のは俺も失礼な言い方になったと思う。でもさ?お前はまだ未成年なのに、初めての彼氏が大人っていうのはさすがに…」

なんなんだこいつは。先ほどからあまりにも先走りすぎではないか?


「あのねぇ、私はただあの人の…」

言いかけてふと思いとどまった。私が探偵だということを、いくら保育園からの仲とはいえこいつにバラしていいものなのか?

バラさないのが通説ではないのか?そして、「誰にもバレずに暗躍する探偵」…そういう肩書きの方がかっこいいのではないか…

「おい真由美、言いかけてやめるなよ。『あの人の』なんなんだ?」


「私はただのバディだよ」

濁しすぎない程度に濁しておいた。

「バ、バディ?なんだバディって」


「とにかく、私たちの関係は生半可なものじゃないってこと!今はそれしか言えないよ」

キーン…コーン…カーン…コーン…


「ホームルーム始まるよ。席戻らないと」

直也は口を小さく開けたまま、何も言わずに自分の席まで戻っていった。




その後、直也は1時間目の数学では暗算をしていたし、2時間目の英語にいたっては、どこで覚えたのか間違えてフランス語を話していた。3時間目ではグラウンドで打ったボールが3階の窓をぶち破り、4時間目ではまるで李徴そのものに見えた。

このように、直也が妙に器用になるのは決まって焦っているときだ。高校の志願理由書を書くときだって、下書きもせずいきなり書き始めたはずなのに一発オーケーだったし。


丸1日、ズレた器用さを見せ続けた直也。

その放課後、何をそんなに焦っているのかと聞いてみたが「なんでもない」やら、しまいには「バディによろしく」とか、60年代の映画のタイトルみたいなことを言うし…


「そんなことより、俺いまから部活だから」

「あ、うん」

そう言うと直也は教室を出ていった。結局、何が彼を焦らせたのか分からないまま1日が終わってしまった。


ブーッ…ブーッ…

直也が去った後、家入さんから電話がかかってきた。

「もしもし…大丈夫ですよ、放課後なんで。今からですか?…ちなみにどんな内容ですか?…浮気調査ぁ?」


「妻子持ちなんですか?…あっ…」

ふと教室の入口に目をやると、なんとそこには直也が立っていた。


「すいません、いったん切ります…直也どうしたの?」

「…いや、タオル忘れたから取りに戻ったんだけど…そんなことより真由美…」

直也は少し黙ったが、私の目をしっかりと見てこう言った。




「あの男が妻子持ちだってのは本当か!」

「…はい?」

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