第9話 猫の手借りずともワトソン・ホームズ
「きなこくんを捕まえたってどういうことですか?」
「僕も茶色い猫を捕まえたんだよ。和村さんこそ『見つけた』って言ったけど、今どこにいるの?」
私は、青い屋根の家に住む人が茶色い猫を保護していると伝えた。
「とりあえず僕も猫つれてそっちに行くよ。青い屋根だね?」
かなり遠くまで探しにいっていたらしく、家入さんがここに来るまで少し時間ができた。
「ところで、いつ拾われたんですか?」
「昨日の夕方に拾いました」
猫がいなくなったことに山田さんが気づいたのがちょうど一昨日。やはり住宅街となると目撃情報も(幽霊もいるし)多々あって、初めての依頼が易しいもので本当に助かった。
「ママ…」
男の子が廊下から顔を覗かせた。
「猫、飼えないの?」
「…飼えないかもしれないね。この猫は、他の人が飼ってた猫らしいから…」
男の子は泣くことこそなかったものの、とても切ない顔をしていた。
ふとインターホンが鳴った。家入さんが来たようだ。
「あ、どうも。中にお入りください」
「お邪魔します」
男の子は人見知りする性格らしく、畳の部屋にこもっている。
「はじめまして、私は
「え、探偵事務所…?」
家入さんが「説明してなかったの…?」という目でこちらを見てくる。ならば説明を…
「言ってませんでしたね。実は私、探偵の助手なんです。猫探しも仕事の一環で…」
母親はそれでも納得のいっていなさそうな顔をしているので、私は話題を変えた。
「そういえば、きなこくんにそっくりな猫を捕まえたって言ってましたよね?」
家入さんは「そうだった」と言いながら、キャリーを開けて猫を出した。
「…全然違うじゃないですか!」
思わず叫んでしまって、偽きなこはビクッとした。
「…言われてみればちょっと違うかも」
ちょっとどころではない。顔もお腹や尻尾の柄も違うし、そもそもまだ子猫に見える。
もはや色しか合っていない。
「確かにこちらで預かってくれてるこの猫ちゃんの方がきなこくんに近いかも…」
山田さんにメールで写真を送ったところ、きなこくんで間違いないとのことだった。
「この子はひとまず連れて帰るとして、この猫ちゃんは…」
「そっちの猫はどうするの?」
男の子が居間に入ってきて、少しだけ期待したような顔で聞いてきた。
「この猫ちゃんは公園にいたんだけど、ケガや病気があるといけないからまずは病院に連れていくよ。猫ちゃんが元気で、飼ってる人がいなかったら、飼えるようになるかもしれないね」
家入さんはかがんでゆっくり話した。
男の子はきちんと理解したようだった。
「お邪魔しました」
「待って!」
男の子は私たちを呼び止めた。
「その猫にケガとか病気とかなんにもなくて、飼ってる人もいなかったら言ってね」
「…うん。そのときはちゃんと教えるよ」
「お姉さんとおじさんが約束するよ!」
男の子は太陽のような笑顔を見せた。
私たちが青い屋根の家からどれだけ離れていっても、ずっと手を振る姿が見えた。
「…ねぇ、和村さん」
「はい」
「…僕って、そんなに『おじさん』に見えるかな…」
「髭があるからおじさんに見えます」
「髭かぁ…やっぱり剃ろうかな…」
「…家入さんは髭があった方がしっくりきますよ」
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