第7話 聞き込みワトソン
「留守なんですね。ありがとうございます」
「君、カゴみたいなの持ってるけどどうしたの?」
私はおじさんに、猫を探しているということを伝え、手元の写真を見せた。
「こういう茶色い猫、前にここで見たよ」
「本当ですか?いつ見かけましたか?」
「昨日の夕方の5時くらいだったかな。あっちの方にポテポテ歩いてったよ」
そう言っておじさんが指をさした先は、ちょうど私が家入さんと分かれたあたり…山田さんの家がある方だ。
「そうなんですね。じゃあ私、向こうのほう探しにいってきます。ありがとうございます」
「いえいえ…」
軽く頭を下げ、地面からおじさんの方へと視線をやった。
「…えっ…!?」
なんということでしょう。あんなにはっきりと見えていたおじさんが、実は幽霊だったではありませんか。
それだけに留まらず、木漏れ日のような優しい光に包まれたおじさんが、だんだんと天高く昇ってゆくではありませんか…
「ついに天国に行けるみたいだ…こちらこそありがとう。これで妻の後を追えるよ…」
「劇的ビフォーアタフター」のナレーションをしている間にも、彼は姿を消していった。
それを私は、できる限りの優しい微笑みで、手を振って見送った。
(「たかが」って言ったら失礼だけど、猫の行き先を伝えたタイミングで天国ノルマを達成するなんて…)
可愛げのない感想が思い浮かんでやまない。
それにしても驚いた。幽霊が天に召される瞬間を見たのは初めてだし、天国ノルマの達成に近づくにしたがって体がはっきりと見えるようになるのも初めて知った。
ひとまず私は、山田さんの家のあたりまで戻ってきた。
(おっ?)
山田さん宅の向こう側…家から2軒目あたりの目の前に幽霊がいる。今度は透けている。
「すみませーん…」
その幽霊は灰色のコートと帽子を身につけたおばさんだった。私が声をかけると、真顔だったのが一変。満面の笑みになった。
「こんにちは!」
「あ、こんにちは」
変わらず笑顔で挨拶をしてきた女性。
「突然ですが、あなたは今幸せですか?」
怪しいワンフレーズをぶつけてきた女性。
「えっ…あっ、んーまぁ、幸せだと思います。人生で役に立ちそうな特技もありますし」
「特技ですか?それはいいですね!ちなみにそれはどんな特技です?」
「私、小さい頃から霊感があって、幽霊が見えるんです」
「幽霊…ですか…」
幽霊の話をすると、人間の生死に関わらずみんな困惑する。
「見えるだけじゃないです。今みたいに幽霊と話せます」
「え、今みたいに?…どこかに幽霊が…?」
「はい」
周囲を確認するおばさん。しかし彼女の他に幽霊はいない。
「どのあたりですか?」
「あなたです」
「えっ?」
「幽霊のあなたと、話してます」
分かっていないようなので、今度は手のひらを彼女に向けてはっきりと言った。
「私…が?幽…霊…?」
「はい。体も透けてますし、たぶん今まで、誰からも話しかけてもらえなかったんじゃないですか?」
おっと私としたことが。意図せずきつい言い方になってしまった。
「…どおりでおかしいと思ったわ…誰もパンフレット受け取ってくれなかったし…」
「パンフレットを差し出しても触れませんし、それに…」
彼女が生身の人間であったとしても、怪しいパンフレットは受け取りたくないものだ。
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