第6話 レッツお探しワトソン
山田さんの家にお邪魔した私たちは、さっそく彼女の話を伺うことにした。
「私が飼ってるのはこの猫なんですけど…」
そう言うと彼女は、1枚のA4サイズの写真をクリアファイルから取り出した。
「…あれ?」
「どうしたの?」
その写真を見て、私は思わず声に出した。
「この写真見たことあります」
「え?どこで見たの?」
「私が初めて家入さんの事務所に来たとき、近くの電柱にこれと同じような写真が貼られてたんです」
忘れもしない。あれは幽霊の魂の出発点…
貼り紙から事務所までたどって行かせるなど正気の沙汰ではない…はずだ。
「あ、私ったら探偵事務所の近くに貼ってたんですね。全然気づかなかった…もし気づいてたら直接相談しに行ってたんですけど」
「はい、もちろん事務所に来て頂いても構わないのですが…ただ…電柱に貼り紙を貼る場合、一応許可を取らなければならなくて…」
「あ、やっぱりそうですよね。気にはしてたんですけど、やっぱり許可を…今日にでも剥がそうと思います」
気にしていたのなら少しはためらえ。
「そうですね。ところで、猫ちゃんを捕まえる方法についてですが…」
猫ちゃん…! この人の口から猫ちゃん!
「…という流れです。シンプルですけどね」
「はい、大丈夫です。それでお願いします」
…はて、私が家入さんの人柄について色々と考えを巡らせていたところ、いつの間にやら話が進んでいたようだ。
「和村さん、このやり方でいこう」
「はい!」
人の話を聞いていないくせに、我ながら良い返事だったと思う。
こうして我々は、山田さん宅から外へ出たわけだが…
「家入さん、警察とか保健所は確認しましたか?」
「え?あ、うん。前に確認したけど猫ちゃんはいなかったって、さっき3人で話してたときに山田さん言ってたけど…」
「あっ…あー、ど忘れしてました。それで、あれですよね?聞き込み調査的な…」
「まぁ、そうなるね…」
なんだか家入さんの様子がおかしい…
なんというか、覇気がない。
「家入さん、不安なこととかありますか?」
「…あの…実は僕ね?猫を探す依頼は今回が初めてなんだ…」
「えっ」
唖然とした。初めてだと?
「あ、でもあれだよ?ちゃんとほら、餌とキャリーも用意したし、あとはもう…ね?」
…ボロい事務所を経営する変人。最初の頃に反応した変人レーダーはあながち間違いではなかったようだ。だが、こんなときのための私ではないか。
「家入さん。私、そのへんの幽霊に聞いてきてもいいですか?」
「…お願いします。僕は生身の人間に聞いてくるから、何か分かったらこの前渡した名刺から連絡お願いね」
こうして私たちは共に餌とキャリーを持ち、二手に分かれて猫の居場所の特定および聞き込みを行うことにした。
はっきり言って、私は得意な気持ちだった。
生きる者と死んだ者、どちらにも尋ねることができるのだから。しかし…
「人っ子ひとり…」
いないのだ。いくら土曜の住宅街とはいえ、いくら「閑静な住宅街ですねぇ」という常套句があるとはいえ…幽霊すら見当たらない。
仕方ない。
ひとまずそのへんの家を尋ねるか…
1軒目、ピンポーン…応答なし。
2軒目、ピンポーン…応答なし。
3度目の正直!ピンポーン…
「そのおうち留守だよー」
3軒目の呼び鈴を鳴らしたとき、隣の家の庭からおじさんが話しかけてきた。
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