見学がてらの真由美さん

第5話 初ミッションだワトソン

次の日の午前10時頃、私は家入さんの事務所を訪ねた。

「おはようございます」

「おはよう。さっそく来たんだね。僕はちょっと向こうで用事があるから、少しだけ待ってくれ。ここでゆっくりしてていいからね」


家入さんはそう言うと、奥の部屋へと入っていった。ひょっとして依頼がきているのだろうか?


「お待たせ。いきなりだけど仕事が入った。よかったら君も見学していくかい?」


なんというベストタイミング。


「えっ、お仕事の見学ですか!?行きたいです!」

「よし、決まりだね。行き先は依頼者のお宅だよ。…あ、大事なこと忘れてた。君の名前を教えてもらってもいいかな?」

「和風の和に村って書いて、和村わむらです。和村真由美です」

これからは名前で呼んでもらえる…さあ、探偵の助手の第一歩だ。


「和村さんか…珍しい名字だね。ちなみに、僕の下の名前は大介っていいます」

おっと、初めて見たときに出た感想…

「次元大介のようだ」とは思ったが、まさか下の名前が「大介」とは…


「改めてよろしくお願いします、大介さん」

「うん。よろしく、和村さん。じゃあ、そろそろ行こうか」

「はい」


私たちは事務所をあとにし、路地裏を出た。

家入さんの車は路地に出てすぐ近くの駐車場にあった。

私が車を買うなら絶対にセダンは選ばない。車高がやたらと低くて荷物もろくに詰めないからだ。

…だが、私の横でハンドルを握る家入さんはとても様になっている…ところで。


「ところで、どんな内容の依頼がきたんですか?」

一番重要なことを聞き忘れていた。




「あー、飼い猫の捜索だよ」

「…えっ?」

「ん?」


信号待ちをする中、エンジン音だけが沈黙を防いでいる。


「飼い猫っていうのはその…家からいなくなったから探してほしいっていう?」

「その通り」

「…探偵って、警察官がたくさんいる中で一緒に現場を調べたり」

「しないよ」


「床に落ちてる青酸カリを舐めたり」

「死んじゃうよ。それに確かあれって本当は麻薬じゃなかったっけ?」


「麻酔銃とか、電動のスケボーとか!」

「あの主人公もなかなかだよね。法律スレスレだもん」


家入さんは笑っているが、私からすれば笑いごとではない。

探偵はアクティブなものではないのか?


「探偵って、どんな仕事があるんですか?」

「よくあるのは浮気調査だね。あとは盗聴器がないか調べたりとか…」

(あの幽霊め…騙しやがったな)

いや、騙されたというわけではない。ただ単に私が探偵という仕事に幻想を抱きすぎていただけであって…いやしかし…もっとこう…


「和村さん、着いたよ」

「あ、もう着いたんですね」

「割と近場だからね」

どこにでもありそうなごく普通の住宅街。

我々は今、とある一軒家の前にいる。

「綺麗なお家ですね。新築かな?」

「かもしれないね。和村さん、行こうか」


家入さんは呼び鈴を鳴らした。すると、中から40代ほどの女性が出てきた。

「あ、どうも」

「はじめまして、家入です。山田和子さんですか?」

「はい。…えっと、そちらの方は?」

やはり私の存在は気になるよな。何せ私はピチピチの17歳。真面目なお仕事の場に私のようなペーペーがいるのだ。不審に思うのも無理はない。


「私は和村といいます。探偵の助手という形でやってきました。未熟ですが頑張ります」

「…はい、彼女が今言ったように、これから僕の助手として頑張ってくれるみたいです。今日が初日なんで、助手というよりは見習いに近いんですが…」

「へー!探偵さんの見習いさんですか。私の依頼でたくさん勉強してくださいね」


私の初陣、その依頼主は優しい人だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る