第4話 よろしくワトソン
「あ、家入さん起きたみたい」
「いい夢、見られましたかー?」
「聞こえないっての。てか声が聞こえたら気絶どころじゃ済まないっての」
本来であれば、私が座っているようなソファに寝かせるなどした方がいいのだろうが、ひとりの女子と、肉体がなく「か弱い」どころではない幽霊では持ち上げられない。
家入さんは1人用のソファで眠るように腰かけていたが、今しがた目を覚ましたようだ。
「…あれ…もしかして気絶しちゃってた?」
家入さんは自分でも驚いているようだった。
「はい。でも20秒くらいでしたよ。気絶って意外と短いんですね」
「いやぁ…情けないところを見せてしまったね。幽霊が苦手だってことは自覚してたんだけど、まさか気絶してしまうとは…それで、その幽霊はまだここに…?」
「はい。今も私の横に座ってます」
家入さんがまた、気絶する直前のあの顔をしている。実に危ない。
「でも大丈夫ですよ。私いま高2なんですけど、進学するか就職するかすら決まってなかったんです。そんなときに、この人がこの事務所を紹介してくれたんです。悪霊じゃないと思います」
「そうそう!というか悪霊になんかなったら地獄行きですからね!」
腕組みをして鼻をフンスと…しているように見える幽霊。幽霊なら呼吸などしないはず。
「その人とはいつ知り合ったの?」
「ついさっきです。私が進路に迷ってたところを『偶然』見かけて、こうやって導いてくれた…的な。聞くところによると、良いことをすると天国に行けるらしいですよ」
「良いことをすると…か。理にかなってるかもしれないね。ひとまず、そんなに怖がる必要はないってわけか」
深く座り直す家入さん。恐怖心は少しだけ和らいだようだ。
「そんなわけで、私には幽霊が見えるから、探偵のお仕事で役に立つかもしれません。だから家入さん、ここで雇ってもらえませんか?」
「構わないよ。むしろちょうどここ最近、1人じゃ何かと困るから、助手的な立ち位置の人が欲しいと思ってたところなんだ。何より幽霊が見えるというのは興味深い」
割とすんなりと事が運んだ。
「とりあえず、詳しい話はまた次の機会に…あ、ちなみにこれ僕の名刺です。何か聞きたいことがあったら、遠慮なく連絡しておいで」
おいおい、ミスターダンディこと家入さんよ。胸ポケットから取り出す様子がなかなかスタイリッシュじゃないか。
「わかりました」
「外はもう暗いし、送ってあげようか?」
「大丈夫ですよ。ありがとうございます」
前髪が「ベイビー」感満載なあの担任にも、彼を見習ってほしいものだね。
「ちなみになんですけど…やっぱり土日も仕事は…あったりとか?」
「土日もちらほら仕事が入るよ」
「あの、もしよかったら明日も来ていいですか?」
「いいけど…せっかくの土曜日だよ?」
「大丈夫です。土曜日だとしても、ここに来てもっと知りたいんです。探偵のことも…」
家入さんのことも。
「…あれ…もしかして僕、お邪魔虫かな? ドロンします。幽霊だけに」
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