飲食店レマール
木場さんと一緒に着いた先は、昭和中期に建てられたっぽい雑居ビル。酸性雨で溶けた壁、自然災害で傷んだ建物。かなり年季が入っているが、各階個人営業のお店はバリバリ営業中のようだ。
「デカデカライオン君、お店はこのビルの二階だよ!」
彼女が指差したのは、ビル階段の入り口にある木製看板。そこには『2F飲食店レマール』という店舗名が書かれていて、書体的にエスニック料理店の雰囲気がする。
「飲食店レマール……これが、木場さんのおすすめのお店?」
「そのとーり!」
得意気に木場さんは言った。これが彼女おすすめの店、今からここで——俺と二人っきりで飯を食うんだよな。
意識したらすげぇ顔がニヤけて、慌てて左手で口を覆い隠す。男子と女子でご飯食べに行くって、実質これってデートってやつでは。そうだよな?
「お腹空いたし、早くお店入ろ〜!」
木場さんの柔らかい両手が、めっちゃ緊張している俺の右手を包む。思わず声が出そうになるが、手でそのまま塞ぐ。くぁあぁあやばい、幸せ過ぎてどうにかなりそうだ。
そのまま彼女に手を引かれて、狭い階段を上がると店の入り口と思われるガラス張りの扉があった。木場さんは俺から手を離して、両手でガチャンと扉を開けた。
「こんにちはーッ
心地よいウインドチャイムに重なった木場さんのハキハキした声に応える様に、店の奥から白タオルを鉢巻の様に巻いた男が顔を覗かせた。
「おぉ。つぐみちゃーん、いらっしゃい!」
店長と思われるクマノミ、なんだっけ。とにかく、すごい名前の男はこっちに向かってくる。縦書き白文字で『れまーる』と書かれた黒シャツがインパクトあるが、近づいて判明した飲食店の人とは思えないガタイの良さに、目が奪われる。ラーメン屋のおっちゃんみたいだ。
「今日はね、クラスメイトも一緒なの。彼はデカデ、大根君!」
木場さんは右手で俺を紹介すると、目の前にいる熊なんとか店長は顎を撫でながら、ニヤニヤした。
「おっ! 遂につぐみちゃんにも彼氏が出来たのか!?」
「あはは、やだぁ。私なんかとカップル扱いされたら、大根君がかわいそうだよ〜。違うよ、ただのクラスメイト!」
「……。どうも、ただのクラスメイトの、
「大根君はね、あだ名がデカデカライオンっていうんだよ! だから私もデカデカライオン君って呼んでるんだあ」
「デカデカライオォン!? だっははは、なんだおめぇ、超面白いあだ名してんな! 俺はレマール店長の
カップル扱いで照れもされず木場さんにスルーされ、軽く落ち込む俺の背中を熊なんとか堂さんは、高らかに笑いながらバンバン叩く。
「ねえねえ店長、初来店のデカデカライオン君に、とびっきりのメニュー振る舞ってあげてよ!」
「おっ、そうだな。とにかく、カウンター座れ座れ!」
「店長、デカデカライオン君に何出すの?」
「デカデカライオン君が、つぐみちゃんの彼氏だったら記念に『ロッキー・マウンテン・オイスター』にしたんだけどなぁ」
「ブッ、店長それって……! でも、それいいかも!」
「おぉし、今作るから待ってな!」
店長はそう言って、俺らに背を向けて冷蔵庫から材料を取り出すと、調理をし始めた。カウンターからでは何してるか見えないが、店長自ら腕を振るってくれるようだ。
「ぶふ……デカデカライオン君ラッキーだね、今から店長が作ってくれるの、ここじゃめったに食べられないものなんだよ!」
「そうなんだ。オイスター……って事は
「ふふ……ッ出来てからの、お楽しみね!」
なんか木場さんが、すっげぇ笑いこらえてんのが気になるな。でも、めったに食べれないって事は希少牡蠣だったりするんだろうか。そう考えると、期待できる。
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