俺の恋は、妙な味がする
篤永ぎゃ丸
始まりの味
きっかけは昼休みにふと見た、すごく美味そうに弁当を食べていた彼女の表情だった。
彼女の名前は
昼休みになると、机を後ろの席と合わせて女子の友達二人とよく一緒に食べている木場さんだが、不思議と彼女達の席はいつも賑やかだ。悲鳴や笑い声、驚き声と毎日の様に聞こえてくる。
女の話し声はいっつも騒がしいなと思いつつ、その中でも彼女はいつも美味そうに飯を食う。頬に片手を当て、おいひぃ〜と心底幸せそうに。
最初は何を食べているのか気になってた。毎日見ているうちに、何が好物なのか知りたくなった。
そして今は、彼女と一緒に飯を食いたいと思っている。一番近くであの顔を見たい——美味いって言い合いたい——気付けば俺は、木場さんの事が好きになっていた。
でも俺は、彼女を呼び出して告白する度胸が無い、連絡先ですら聞く勇気が無い。そんな臆病者にチャンスが到来する。
「あれ? デカデカライオン君だよね」
それは放課後の地味な商店街。適当にスマホの位置情報アプリを用いて、渡り歩いていた俺の背後から話しかけてきたのは、あの木場つぐみだった。
「きッ…木場さん⁉︎ なんでこんな所にッ」
「あはは、何でキョドってんの? 私は今から外食に行こうとしてた所なんだ、こんな所でクラスメイトと会うとは思わなくて、話しかけちゃった!」
木場さんは両手を合わせて、奇遇そうな笑顔を見せる。相変わらず、表情が可愛い。見惚れそうになるが、彼女は今一人だ。
「そうなんだ……てッ、ていうか、木場さんまで、俺のあだ名知ってるなんて……」
「だってクラスの男子達から、いつもデカデカライオンって呼ばれてるから、印象に残るよ〜。でも、ごめんね、いくらクラスメイトでも馴れ馴れしいよね」
「そんな事ないない! デカデカライオン超気に入ってるから、そう呼んでもらって構わないよ!」
デカデカライオン。それは俺、
いじめとまでいってないのは不幸中の幸いだが、呼ばれて気分のいいものではない。名前は若者にとって都合の良いおもちゃである、親は苗字とのバランスと子供の将来をよく考えて名付けて欲しいものだな。
でもデカデカライオンのお陰で木場さんの印象に残っているのは、めちゃくちゃ嬉しい。ありがとう、お母さん。俺に
「本人公認なら、私も
「お、おう。全然、オッケー、オッケー!」
木場さんは愉快そうに言う。あぁぁあ可愛い。ていうか、
一人で外食って事は俺もそこに混ざれるかもしれない。正直コンビニで買い食いしてしまっているが、彼女の側にいられるなら余裕で腹なんて空くぞ。
「そういえば……木場さん、外食に来たんだっけ? 実は俺も、夕飯どうしようか悩んでたとこでさ」
「へー! そうなんだ。なら私おすすめのお店で、一緒にご飯食べない?」
「マジィ!? いいのォッ!?」
「うわびっくりしたぁ! い、いいよ? デカデカライオン君さえ良ければだけどね」
「いや是非ッ! 木場さんのおすすめのお店めっちゃ興味ある!」
なんてこった。こんなにスイスイ距離を縮められるなんて。俺はちょっと臆病な所があるから、彼女のハキハキした性格のお陰で話が進んでいく。本当に、ありがたい。
「じゃあ一緒に行こ行こ! 私についてきて!」
木場さんはお腹を空かせた顔で、俺の前を歩いた。彼女と飯を食いたい思いが、こんな形で届くとは。並んで飯を食って…美味いと言いたい。そのまま彼女に好きだと、言えたらどんなにいいか。
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