やってきた薬師ー⑨

カナリヤはシャリングの姿が見えなくなってからミーシャに付いていた紙を広げた。


そこにはただ一言「十四人」と書いてあった。その数字の意味はカナリヤには分かっている。


「チッ」


舌打ちをした。その紙をクシャクシャにしバッグに詰めた。カナリヤは怒りを抑えきれなかった。


拳を握りしめて近くにあった木を殴った。怒りでおかしくなりそうだ。


(アイツらは絶対に…許さない…私が…この手で復讐してやる…!)


カナリヤは殺意の目をしていた。


ミーシャはカナリヤを見てカナリヤのほっぺを舐めた。カナリヤを慰めようとしている。


「…ありがとう…ミーシャ」


ミーシャの頭を撫でた。怒りでいっぱいだった心を一度落ち着かせた。


「そろそろ、シャリングのところに行かなきゃね」


立ち上がり湖の方へ向かう。いつもルリスと歩いていた道を進んで行く。懐かしい光景が蘇る。


鳥のさえずりを聞きながら動物たちと遊んでいた。たくさんの動物たちに囲まれて走り回ったりもした。


だけどもうそんなことは出来ない。ルリスはもう居ない。


「…ミーシャ。走ろっか」




湖に着くとシャリングが暇そうに空を眺めていた。


「ごめん、遅れた」


「大丈夫だよ。それよりここ綺麗だな」


「まあね、ここ私たちが見つけた場所なんだよね」


「私たち?」


カナリヤはハッとして


「あ、違う違う。ミーシャのことだよ」


と嘘を言い笑った。シャリングはフーンといい湖を見た。


陽の光を浴びて湖が光っている。


「じゃあ薬草取りいこうか」


「ここからまた歩くの?」


「ううん、もうすぐそこだよ」


指さした方向をシャリングは見た。あまりそうと言った光景は見えないが…


しかし、歩いて見てみるとそこには草原が拡がっていた。なんでさっき気づかなかったのだろう。


シャリングが見とれているとカナリヤがズンズン草むらに入っていきカゴに色々と入れていた。


しゃがんで草原を漁ってみた。あまり見た事のないものばかりでキラキラな目をしながら夢中になっていた。





それから何時間だっただろう。採取に夢中になっていて時間を忘れていた。今日はいつもよりも良い薬草が沢山取れた。


木々のところにもキノコが生えていて珍しいものも手に入れた。必要な材料も手に入れた。


カゴの中を覗きながら満足している。シャリングは色々なものを集めて観察していた。


カナリヤの付き人とは思えないくらいだ。カナリヤよりも楽しんでいるように見える。ミーシャは日向ぼっこしながら寝ている。


「シャリング、そろそろ戻ろう」


「はい」


街に戻る途中雨が降ってきた。弱いくらいだから行けるよとシャリングに言い聞かせ帰り道を歩いていたが急に土砂降りになってきた。


急いで城に戻ろうとしたが雨が強くなり地面も滑るようになっている。走ったりすると転げ落ちる可能性がある。


慎重に歩いていくと時間がかかるが急いで帰らなければいけない。シャリングは出来るだけ早く歩いていたが後ろを振り向くとカナリヤがいなかった。


シャリングは慌てて来た道を戻った。するとカナリヤがボッーと立っていた。


空を見上げた。真っ黒な分厚い雲。大きな音をたてながら降り続く雨。


こんな日だったな。あの時も。


雨の時いつも思い出すをあの光景を。怖くて仕方なかった。今でも忘れられない。


「ルリス…」


それを言った途端カナリヤはバタッと倒れた。シャリングは急いでカナリヤの元へ走った。


「カナリヤ!」

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