やってきた薬師ー⑧
そこには真っ黒でオッドアイの猫がいた。右目は緑色、左目がライトブルーだった。
首に首輪はつけておらず野良猫に見えたがカナリヤはその猫に近づき
「ミーシャ、久しぶり。元気してた?」
頭を触って撫でていた。猫は気持ちよさそうに喉を鳴らしている。シャリングは二人をジーッと見ていた。
「カナリヤ、その猫って…」
「ああ、ミーシャは私が育てた猫。山菜取りに出かけた時山で怪我してるの見つけてね。手当をしたら懐いてきたの」
楽しそうにカナリヤとミーシャはじゃれあっていた。
「最初はビクビクしてたけど慣れていくうちにこんなにな仲良くなったんだ」
「へぇ、綺麗な猫だね」
「……」
カナリヤは何も言わず手が止まった。何かを見ているようだった。シャリングが覗こうとするとスっと立ち
「シャリング。先に行っててもらえない?」
「どうして?」
「お願い、一人にさせて」
シャリングの目を見ずにお願いした。シャリングはカナリヤを見なくてもカナリヤが何か震えているように見えた。
(ここは一旦待ってようかな。何かありそうだし)
「分かった。先行ってるね」
「この近くに湖があるからそこで集合しよ」
カナリヤはそのままミーシャを抱えどこかへ行ってしまった。
シャリングは言われた通り湖があるとされる方向へ進んだ。周りは木々ばかりで一向に湖なんて見えなかった。
道を間違えたかと思いさっきの場所に戻ろうと振り返った。するとそこには大きな角をした鹿がいた。
驚きバッグからナイフを取り出そうとしたが鹿は襲ってくる気配がない。シャリングは冷静になりナイフをしまい鹿を見た。
鹿もシャリングを見ていた。二人は何分が見つめ合っていた。
その時シャリングの耳になにか聞こえた。
(着いてきて)
周りを見ても誰もいない。いるのは鹿だけ。すると鹿がどこかへ歩いていく。
「あ、待って…」
鹿はどんどん歩いていく。しかしチラチラとシャリングを見ている。
「着いてこいということか?」
シャリングは黙って鹿に着いていくことにした。鹿はシャリングが着いてきているのを見てからまた歩き出した。
そして鹿はピタリと止まった。そこに何かあるのだと思い走って見に行った。そこには透明で綺麗な湖が広がっている。
「ここか…カナリヤが言っていたのは」
シャリングは鹿を見た。鹿はそのまま去ろうとしていた。
「待って、もしかして俺がここに来たいと思ってたから教えてくれたのか?」
鹿はうんともすんとも言わず黙ってシャリングを見つめている。
「ありがとう」
シャリングがお礼を言うと鹿は去っていった。
もう一度湖見た。水の中は魚が沢山泳いでいる。水上には蓮が咲いていた。
「綺麗だな」
湖に手を入れた。気持ちよかった。
少し休もうと思い木によりかかった。
「カナリヤ遅いな…」
別れてからもう一時間は経過しているだろう。それなのにカナリヤが来る気配がない。
(まさか俺をここに捨てて帰ったのか?)
カナリヤを疑った。しかしカナリヤはそんなふうにするやつとは思えない。冷たいヤツだがそこまでする奴とは相当思えない。
冷たいが内心優しい奴だ。
しかし、あの時のカナリヤは苦しそうだった。
シャリングは夜中見回りでカナリヤの部屋に行った。カナリヤはベッドに寝ていた。
しかしよく見るとカナリヤは泣いていた。ずっと「ルリス」と言いながら。それが苦しそうに見えた。
シャリングはカナリヤの手を握った。
初めてカナリヤを見た時綺麗な子だと思った。同い年であるのにみんなのために必死に働いている。
そんなカナリヤにシャリングは憧れていた。しかし、カナリヤはいつも笑っていた。だけどシャリングから見れば本当に笑っているようには見えなかった。
なにか重い荷物を背負っているように見えた。それなのに苦しい姿は見せずいつも明るく振舞っている。
シャリングはカナリヤの事が気になり話しかけようと何度も試みたが話しかける勇気がなく何ヶ月もたった。
そんなある日王からカナリヤの付き人になってほしいと来た。最初は疑ったが、そんな国王が嘘をつくはずないだろうと思い引き受けた。
そしてカナリヤの部屋へ向かった。恐る恐るドアを開けるとカナリヤはいつものカナリヤではなく別人のように見えた。
前までの元気な顔は消え冷たい目をしていた。入りづらくドアの前でオロオロしていたが、勇気をだしてドアを叩いた。
出てきたのはさっきの冷たい目をしたカナリヤではなかった。
いつもの笑顔のあるカナリヤだった。
それからシャリングはカナリヤを守りたいと思うよになったのだ。なぜだかシャリングにも分からなかった。
(多分俺はカナリヤに惹かれたのだろう)
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