やってきた薬師ー⑦
翌朝目覚めたがあまり寝れなかった。あの夢を見たあとずっと悪夢を見た。
「…まだ涙出てる…」
ベッドから起き上がり鏡を見た。目が真っ赤だった。どれだけ泣いていたのだろう。あれは現実なのか夢なのか、分からなかった。
本当は分かっていた。今からカナリヤがしようとしているのはルリスは望んでいない。どこかで分かっていたが見ぬ振りをしていた。知りたくなかった。
けれどルリスのおかげでここまで生きてこれた。だから恩返しをする。そのために復讐する。
だけど、これは正しいこと?疑問が浮かんだ。いいや正しい、正しくないは関係ない。
あの日誓ったことを忘れてはならない。
「私は私の道を歩く」
もう迷いはしない。自分の選んだ道を進むだけ。
「大丈夫よ。カナリヤ。前を向きなさい」
そう自分に言い聞かせた。それと同時にドアをロックする音がした。
「どうぞ」
「失礼します。おはようございます。カナリヤ」
「おはよう。シャリング、敬語使わなくていいわよ。私の方が身分低いのだから本当は私が敬語を使うべきなのに」
「いや、カナリヤは敬語使わなくていいよ。僕もこれから敬語使わないようにする」
「分かった」
カナリヤが頭を縦に少し振った。シャリングはどこか元気がない様子だった。
「どうかしたの?ボッーとしてるけど大丈夫?」
カナリヤが気にかけて言った。
「大丈夫です」
顔を上げカナリヤに笑いかけた。
「…そう。じゃあさこれから森に出かけない?」
「森?」
「うん」
「いいよ」
カナリヤはタンスから服を取りだし
「じゃあ着替えるから待ってて」
シャリングは一度部屋を出た。カナリヤはその間に自分がいつも森を探索している時に着る服に着替えた。
今日の天気は晴れ絶好の採取日和だ。今日は王に頼んで二人で行かせてもらおう。また大勢とか面倒だ。
しかし王が許すか分からない。ダメと言われたらしょうがない。置いていけばいい。
「シャリング~入ってきていいよ~」
シャリングからの返事がなかった。カナリヤは気になりドアを開けた。そこにはシャリングがいなかった。
(どこに行ったんだろ、ま、いっか)
調合室へ行き最近作った薬が入っている瓶をバッグに詰めた。
「あ、これもう材料ないじゃん。探さなきゃ。売ってないからな」
カナリヤが見ていたのは毒キノコ。毒キノコと言っても死にはしない。少しだけなら体にいい効果もある。
食べすぎると毒になるものもある。
「今日これ生えてるかなー」
コンコン
「カナリヤ、開けてもいい?」
シャリングの声がした。戻ってきたのか。瓶を片付け向かった。
「うん、大丈夫だよ」
「遅れてごめん、王に頼んできたよ」
「何を?」
「二人で行っていいか。許可得たよ」
「ほんと?!」
いつの間にか言っていてくれたのか。意外と行動が早い。ありがたかった。
「じゃあ行こう。下で馬車が待ってるから」
「馬車で向かうの?」
今から二人が行くところは山中にある森。そこまで馬車が通れる道はない。今までカナリヤは自分の家から歩いて向かっていた。
「え?歩きで行くき?」
「うん」
「嘘だろ…凄いな。分かった。じゃあ歩いていこう」
城を出ると確かに馬車がいた。申し訳なさそうに謝っておいた。
(ま、本当は馬車でも行ける道あるけどこいつらも信用ならん)
いつでも疑いの目を忘れずにいた。こいつらだって王の手先である可能性がある。少しでもそういう奴らを避けておかねばならない。
シャリングも疑っている。だが、シャリングになそんな要素はなかった。一瞬疑いの目を解いたが危険だと思い常に警戒している。
「じゃあ、こっちだよ」
歩いていくとどんどん街から離れていく。気づけばもう森の中だ。鳥のさえずりが聞こえる。たまに動物も出てくる。
何回か襲われそうになったが防御用の薬で何とか逃げ切っている。そのおかげでもう襲われるのに慣れてしまった。
その時後ろの方からカサカサと音がした。シャリングはすぐ体制を整えカナリヤの前に立った。
カナリヤは何とも驚きもせず音がする方へ向かう。
「カナリヤ!危険だよ!」
「大丈夫よ」
音がしたのは木の後ろ。そっーと見たがそこには何もいない。
「全く逃げるのだけは早いんだから。ミーシャ。出ておいで」
カナリヤが誰かの名前を呼んだ。するとシャリングの後ろの方から音がした。
「そこにいたのね」
カナリヤは立ち上がりシャリングの方へ向かった。するとシャリングの足になにかがくっついた。
シャリングは恐る恐る足の方へ目をやった。
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