005
二年生になった。
この高校では二年生進級時に文系理系クラスを選択することになっていて……数学がダメダメな私は、必然的に文系クラスを選ぶことになる。
「よかった~! りっか、同じクラスだね~!」
「ちょっと、くっつかないでよ悠里」
新学期が始まった初日――下駄箱の近くにある掲示板に、クラス分けの表がでかでかと掲示されていた。
前田立夏の名前は、二年二組……そのすぐ下に、三田悠里の名前がある。
「……」
市原勇樹、二年八組……。
「新学期早々ぼーっとしてどうしたのよ、りっか! 華々しい高二デビューなんだから、テンション上げなきゃ!」
「あー……そうだね」
二年二組の欄には、見知らぬ名前の方が多い……交友関係が狭い私にとって、クラス替えは周囲の環境が一変する一大行事なのである。
「悠里はどう? 知ってる人多いの?」
「うーん……話したことない人は二、三人いるけど、大体みんな知ってんねー」
「……悠里のそういうところ、素直に羨ましいわ」
「あ、もちろん一番のマブダチはりっかだよ! 今年もたくさん遊ぼうね!」
「……そうね」
毒気のない、人好きされる笑顔……私もこんな風に笑えたらなんて、ちょっと嫉妬してしまう。
「――さん、前田さん」
「はいっ⁉」
悠里の言う通りぼーっとしていた私は、急に後ろから肩を叩かれたことで、間抜けな声をあげてしまった。
「おはよー」
「……市原くん……おはよう」
声を掛けてきたのは、眠そうな目をこする市原くんだった。
「クラス表ってこれ? えーっと……うげ、八組なの俺だけじゃね? 全然知ってる人いないんだけど! 終わった!」
彼はまじまじと表を見つめてから、大袈裟なリアクションを取る。
「うちのクラス、理系にいく人少ないからね」
「あーそっか……前田さんは何組なの?」
「私? 私は……その、二組だよ」
「二組かー……あれ、三田さんと一緒じゃん。よかったね、仲いいもんね」
「……そうだね」
胸がズキズキする。
何気ない会話。無糖ココアをあげてから、何だかんだほとんど毎日話していた市原くんと。
今日からは――違うクラスになる。
「……元気ないけど、大丈夫? 具合悪いの?」
「あ、いや……何でもないです……」
彼が理系クラスに進むと知った時から、わかっていたことなのに。
こうして実際に意識させられると、何故だか心がざわざわする。
「心配しなくても大丈夫だよ、三田さんもいるし。まー、俺は違うクラスになって悲しいけどねー」
「……」
市原くんの発言に他意はないのだろう。
一年間同じクラスだった相手と離れることになれば、悲しいという表現をしてもおかしくない。
だけど。
どうしてこんなに。
イライラするんだろう。
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