003
放課後。
まずは更衣室でジャージに着替えて、それから部室に行ってミーティングの準備を……。
「ねえ……えっと、まえだ、さん?」
私がこれからの予定を整理していると、不意に名前を呼ばれた。
「……何?」
今朝のこともあって変に気恥ずかしく、ぶっきらぼうに返事をしてしまう。
ああこれ、イライラしてると思われるパターンだ……そうやって何度、意図せずに他人を傷つけてきたかわからない。
「その……『あんた』なんて馴れ馴れしく呼んじゃってごめんて、謝ろうかなーと……」
「別にいいよ、無理しなくても。友達でもないんだし」
あーほら、まただ。
こんなことが言いたいわけじゃないのに。
自分の態度が嫌でイライラして、それにもっとイライラして……結局周りに気を遣わせて、人が寄り付かなくなる。
いつものパターン。
「え、友達じゃないの⁉ ショックでかい!」
「……その、友達じゃないは言い過ぎたというか……」
「じゃあ友達ってことだよね? よかったー、マジ焦ったー。前田さんのことめちゃめちゃ怒らせちゃったんじゃないかって心配したよ」
「えっと……」
あれ、何だこのやり取り?
全然いつものパターンじゃない。
「でも嫌な気持ちにさせちゃったのは事実だし、お詫びのしるしにこれ受け取って!」
言って、彼はポケットから棒状の何かを取り出す。
「これって……『うめえ棒』?」
「そ、ポテサラ味ね。俺の一番好きなやつ……やべ、もう道場行かないと、また主将に怒られる!」
時計を確認した市原くんは忙しなく鞄を肩にかけ、足早に教室から出ていった。
「え、あの、ちょと!」
いきなりお菓子を手渡された私は困惑して呼び止めようとするが――彼の背はすでに見えなくなっていた。
「……」
私は『うめえ棒』の袋を開ける。
「……美味しいじゃない」
サクッという小気味良い音を立てながら。
私はお菓子を食べ進めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます