第四話 雪姫とクリスマスデート

 真昼間の街の大通りで、俺は一人駅の前で立っていた。

 前までは、病院付近の本屋やファミレスに食事したりとかする程度だったが、今回は駅の前で待ち合わせになっている。


「やっほー! マモルー!!」


 少し籠っていると感じてもはっきりと聞こえた声に俺は振り向く。

 長靴と黒のライダースーツに濡れにくいタイプのコートを着込んで、頭にはバイク用のヘルメットを付けている。


「おー、大丈夫かー?」

「もーまんたい!」


 親指を出して笑う彼女の姿は、シュールと言うかなんというか。

 最初にデートした時のインパクトを思い出してしまう。

 でも、雪姫なりの完全武装なのだとか。


「それじゃまず映画館いこ!」

「お、おう」


 雪姫に腕を引っ張られ、俺たちは全力で遊びまくった。

 雪姫は炭酸系は飲めないらしいから、映画館のオリジナルドリンクを頼んで一緒に恋愛映画を見た。

 雪姫が言うには、好きな作家の小説が映画化したから見たかったのだとか。

 席に着いてから上映が始まると俺はポップコーンを食べながら、雪姫の顔を見る。


「…………わぁ」


 映画に出ている二人の主役の恋模様を真剣に見る雪姫。

 うっとりとした顔で、でもどこか羨ましいような、少し寂しそうにも見える雪姫の横顔がやけに綺麗で見惚れてしまった。

 映画の画面の光で彼女の髪が舞い散る雪の色とよく似て、溶けてしまう気がして、俺は彼女の髪をそっと触れる。


「……!!」


 雪姫は、すぐに俺に振り替えるが何か言おうとしたが両手を手で塞いで画面の方へと向き直る。

 俺は、ふっと笑ってポップコーンを口の中に頬張った。

 映画はエンドロールが流れ、他の客たちは席から立ち上がり始めた。

 俺たちは、エンドロールが流れ終わって、劇場が明かりが灯ったのを見て俺と雪姫は立ち上がった。

 雪姫がスクリーンの入り口の方で俺の顔をじっと見る。


「それで、どうしたのマモル」

「何が」

「私の髪触ったでしょ? その……びっくりした顔してたから」

「ポップコーン飛んだかと思ったから触っただけだよ。お前の髪、綺麗なんだからもし汚れたらもったいないし」

「……そっか、びっくりしたんだから!」

「悪い悪い」

 

 雪姫は、にっと歯を見せて笑うのを見て、俺は頭を掻きながら笑い返す。

 こんな一日が、もっともっと続けばいい。

 だから、俺はスマホをポケットから取り出してカメラモードにしようとアプリをタップする。今日も、彼女との思い出を取ることにしよう。


「また写真?」

「おう」

「だったら、一緒に撮ろうよ! その方が面白そうだもん!」

「え、お、おい」

「今日は私が撮るねー! いっつもマモルにとってもらってばかりなのなんか癪だもん」

「癪って、いいけど……入り口前は他の人の邪魔だろ」


 というか、さっきからゴミを片付けてる映画スタッフの目が気になる。


「スタッフさーん! 撮ってもらってもいいですかー?」

「はい」

「すみません」

「大丈夫ですよ」


 スタッフさんは笑顔でスマホを構えて俺と雪姫を撮ってくれた。

 ぐい、っと腕を掴まれ恋人みたいな写真になったのが、すこし気恥ずかしかったが、雪姫は、いいじゃん! 記念記念! と笑って映画スタッフに手を振って俺の腕を無理矢理掴んだ。


「それじゃ、次はどこに行く?」

「次は、ゲームセンターとか、本屋とか喫茶店にも行くぞ」

「わかった!」

「ヘルメット忘れるなよ」

「あ、ごめんごめん…………よい、しょっと! これでいー?」

「おう、じゃ行くか」

「うん!」


 雪姫はヘルメットを被って俺にピースした。

 俺はその後、たくさん雪姫の写真を撮った。

 ゲームセンターだったら、クレーンゲームを真剣にしているところ。

 欲しがってた雪姫の好きな白い猫のぬいぐるみを抱きしめているところ。

 本屋だったら、彼女が好きだという作家を語って人差し指を立てて力説しているところ。喫茶店だったら、猫舌だからかホットミルクを飲むのをちびちび飲んでいる姿とか、続けて撮ろうとしたら恥ずかしがってブレたのとか。

 彼女がその日浮かべたたくさんの表情を撮りまくった。 

 雪姫が、いつか骨も残らず氷みたいに解けて消える前に。

 おまえがここにいたんだぞ、って証拠の写真もたくさん取ってやるんだ。

 今日も、そういう日だと思ってた。

 そういう楽しい思い出ばかりが詰まった一日なるのだと、そう願っていたんだ。

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