5.心と体を壊すトランスジェンダー。
特例法が制定されたとき、性同一性障碍の割合は、男性は3万人に一人、女性は10万人に一人とされた。日本人の男女の数を6000万人ずつと仮定した場合、患者の予測人数は男性2000人、女性600人だ――合計で2600人ほどである。
それは世界でも同じだった。二〇〇一年に採られたアメリカの統計では、男性は3万7千人に一人・女性は10万7千人に一人。同年のオランダの統計では、男性は1万1900人に一人・女性は3万400人に一人だった。つまり、男性3に対して女性1というのが世界的な平均だったのだ。
ところが日本精神神経学会が二〇〇七年に出した報告によれば、全国の主要医療機関を受診した当事者は7177名だったという。
うち、
現在の数はよく分からないが、4万6000名ほどと推定する者もいる。戸籍変更が認められた者は、二〇二二年で一万人を超えた。
最初に見積もられた数より、十倍も二十倍も増えている。女性当事者が増えている点も欧米と同じだ。
また、あるサイトによれば、日本国内で手術を受けた
『メディカル・ツーリズムと「性同一性障害」:歪められるイメージと、現実のはざまで』
https://www.akishobo.com/akichi/heshe/v15
最初に見積もられた数が少なかったのだろうか?
私にはそうは思えない。
以前にも述べた通り、「性別不合/性別違和」の診断書は簡単に取れてしまう。私の周囲の
日本精神神経学会のガイドラインでは、性同一性障碍の診断は簡単ではない――はずなのだ。
性別違和や生活歴の聴取はもちろん、性分化疾患の可能性を考えて性別の判定も行なわなければならない。当然、除外診断もある――統合失調症などの精神障碍が原因ではないこと、文化的な性役割からの忌避感が原因ではないこと、職業的・社会的利益のために反対の性別を求める者でないこと、など。
しかし、ホルモン治療に関するエピソードで紹介した note では、そのような手順は踏まれていなかった。それどころか、医師は何度も尋ねていた――戸籍変更や治療を「どこまで」やるのかと。性同一性障碍の診断というより、どのような身体を提供したらいいのかを尋ねていたのだ。
――もはや、「性別違和」の治療を望む患者は顧客化されているのではないだろうか?
新宿二丁目では、そのような人はよく見るという。
ある両性愛女性は、ミックスバーで出会った女装家について教えてくれた。
彼は、そのとき三十を過ぎていた。しかし、女装をしたことをきっかけに、「自分は本当は女だった」「病院へ行きたい」と言いだす。当然、周囲からは止められる――「まずは女装家としてやってみろ」「回数をこなしてみて」と。しかし、忠告を聞かずに病院へ行ってホルモンを始めてしまう。
また、「早く女性になりたいから」という理由で、複数の病院をローテーションしてホルモンを打ち続けていた者や、女性らしいところなどなかったのに突然「自分は可愛い女の子」と言い出して治療を受けた男性もいたそうだ。
あるレズビアンも、似たような人に出会ったと証言している。
彼はメンタルを病んでいたらしい。ジェンダークリニックだけではなく、精神科にも通っていた。精神向上薬の影響で丸々と太っていたという。
病院で打たれる女性ホルモンに加え、独自のルートで入手した女性ホルモンも服用していた。「ちゃんとした量を医者が打ってくれない」「こんなに呑んでいるのに、まだ女の子的にならない」「もっと呑まなきゃ」などと言っていたそうだ。
それは、ホルモンを打って変わった「成功例」を見たことがあるからだろう。本人も多少は変わったに違いない。だが、あの「成功例」になれないのは、ホルモンの量が少ないからだと思っているのだ。
以前にも書いたが、通信販売サイトなどを通じて女性ホルモンを海外から輸入することは出来る。
あるサイトに目を通してみたところ、九十錠入りが四千円ほどで売ってあった。一応、女性の更年期障碍を改善するための医薬品だと説明されている。
しかし、レビューは自称
ある
また、彼女は、同期の
いくらでもあり得る話だと思う。親にカミングアウトできる子供ばかりではない。しかも、四千円で九十錠も手に入ってしまうのだ。高校生の小遣いやアルバイト代で買うことは難しくない。
だが、ネットの情報を鵜呑みにして一日四粒呑んだら――どうなるか。サイトの「用法」には「一日一粒」と書いてある。明らかに過剰摂取だ。しかし、望み通りの身体へ変化してゆくことを実感すれば、継続して欲しがるだろう。
だが、四千円で買っても二十二日で尽きてしまう。そこから売春に繋がる可能性は低くない。
なお、このような個人輸入の薬品で何か事故が起き、医者にかかることがあっても保険は適用されない――全額負担となる。
彼らを知る人たちは、「きちんと分量を守れている人は少ない」と口を揃えて言う。個人輸入サイトのレビュー欄も濫用者ばかりだ。
先に紹介した記事の院長は、その日のうちに乳房切除手術を勧めていた。正規の手順を明らかに無視している。
それどころか、ジェンダークリニックの中には、患者の望み通り多めにホルモンを打つ所もあるという。そもそも、どれだけの分量を一度に打つのかも病院によってまちまちだ。患者の方も、ホルモンの量が多いほど綺麗になれると思っている。
しかし、そのような人は、ある日いきなり二丁目から消える――どこかへ行ってしまうという。彼らがどうなるのかを知っている人はいない。
「身体が壊れるかお金が尽きるかのどちらかなんだと思いますよ。」
あるレズビアンはそう言っていた。
そんな彼女は、ある駅の喫煙所で一人のホームレスと出会ったそうだ。
ピンクや白や水色で彩られていたであろう衣装を彼は着ていた。全体的にすすけ、ボタンは留められなくなっている。有名な漫画のヒロインのコスチュームらしい。金髪だったはずのカツラの下からは、白髪まじりの地毛が覗いている。履いているものは、やはり白かったはずのハイソックスと、ピンク色かオレンジか分からなくなったスニーカーだ。
手にしているのは、ストラップの長さが合っていないポーチと紙袋である。紙袋には、くしゃくしゃになり、すすけた「女の子」の服が入っていた。
魔法が解けた人のような印象だったという。
その格好で今でも過ごしていたのだ。――恐らくは女装を始め、何かに目覚めたのだろう。そして、家族とのつながりや、職場での待遇も破綻したに違いない。しかし、財産も家もなくしても、彼は「女の子の服」だけは手放さなかった――。
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