6.今なお残る激しい差別。

同性婚が認められた現在でも、アメリカには激しい差別が残っている。


FBIの発表によれば、二〇一三年に起きた憎悪犯罪ヘイト゠クライム—―差別意識に基づく犯罪――は5928件であり、性的少数者に対する攻撃は20.8%であったという。


性的少数者に対する犯罪は特に残虐な傾向にある。銃などで即死させれられることは稀であり、複数回刺されたり、斬り裂かれたり、絞殺されたりすることが多い。


二〇一八年—―ゲイをカミングアウトした十歳児を母親が殺害する事件がロサンゼルスで起きた。発見された少年の遺体は、煙草の火傷と殴打の痕だらけだった。殺害されたのはカミングアウトの直後だったのだが、死に至るまで拷問されていたのだ。


二〇一六年には、オーランド銃乱射事件が起きる。フロリダ州にあるゲイ゠ナイトクラブで一人の男が自動小銃を乱射したのだ。犯人は、三時間に亘って立て籠もり、武装警察により射殺される。死者は50人、負傷者は53人。二年後に別の銃乱射事件が起きるまで、アメリカ史上最悪の銃乱射事件であった。


このような犯罪はアメリカばかりではない。


カナダで起きている憎悪犯罪ヘイト゠クライムのうち、10%は性的少数者に対するものだという。


また、暴行や窃盗に遭う確率は、同性゠両性愛者のほうが異性愛者より圧倒的に高い。異性愛者の場合、被害者は1000人当たり69人。両性愛者だと1000人当たり267人、同性愛者の場合は142人となる。


フランスでは、性的少数者に対する攻撃が二〇一八年に過去最多を記録した。侮辱行為・嫌がらせ・脅迫と中傷・身体的暴力などが1905件、身体的な攻撃に限って言えば231件に昇る。


二〇一七年、イギリスの調査会社・ユーガブが五千人の性的少数者に対してアンケートを行なった。結果、過去一年間で五人に一人が憎悪犯罪ヘイト゠クライムに巻き込まれていると明らかになる。


ちなみに、ロンドン警視庁によると、ロンドンにおける性的少数者に対する憎悪犯罪は、二〇一八年には2308件にも昇ったという。


二〇一九年の五月三十日、イギリスに住むレズビアン゠カップルが、血まみれになった自分たちの写真をネット上に公開する。当日、バスの中で二人はキスをしたのだが、複数の男達に囲われ、殴る蹴るなどの暴行を加えられたのだ。


被害に遭った二人は、「同性愛者への暴力が常態化している」と語った。写真を公開した理由は、「同性愛は正常のことであり、恐れたり攻撃したりするものではない」という認識を広めるためだ。


国家レベルの弾圧が起きているのはロシアである。


ロシア連邦チェチェン共和国では同性愛が未だ違法だ。二〇一七年の四月、ロシアの新聞・ノーヴァヤ゠ガゼータは、二か月で百人以上もの同性愛男性が拘留され、拷問され、少なくとも三人が殺害されていると報じた。二〇一八年には新たな弾圧が起き、四十人の同性愛者が拘束され、二人が死亡したと伝えた。


人権意識に乏しいロシアはさておき、その他の国は、性的少数者に対する差別を禁止する法律も同性婚も存在する。しかし、いくら制度が出来ても、宗教に基づく人々の意識は簡単には変えようがない。


はたして、日本は「遅れた国」なのだろうか?


むしろ、このようなことが起きている国に生まれなくて本当によかったと私などは思うのだが。

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