3.データにも現れる証拠

先のエピソードでは、同性カップルに育てられた四人の証言を紹介した。


一方、「偏った例ではないか」と思う人もいるかもしれない。


そうではないのだ。


二〇一二年のこと――テキサス大学・オースティン校のマーク゠ダニエル゠レグニラス教授は、十八歳から三十九歳までのアメリカ人を無作為に選び、親が同性と恋愛関係になかったかという質問をした。1万5千人中・248人が「あった」と回答する。うち、母親が同性愛関係にあった者は175人、父親が同性関係にあった者は73人だった。


結果――経済状況・就労・自殺念慮・健康状態・異性との関係・性感染症の有無などにおいて、親が同性愛者の子供と通常の子供との間には大きな違いがみられた。


注目すべき結果を表にすればこうなる。


【表1】

https://kakuyomu.jp/users/Ebisumatsuri/news/16816927861427537162


【表2】

https://kakuyomu.jp/users/Ebisumatsuri/news/16816927861429273937


多くの人が予想したことであろうが、通常の子供とその他の子供の間には明確な差が存在している。義理の両親に育てられた子供と、親が同性愛者であった子供は、性的指向以外の問題ではやや近い。しかし、生活保護の受給状況・性感染症の有無・不倫などにおいては、同性愛者に育てられた子供の方が上回っている。


性感染症や不倫の件で思い出すのが、「男性と家庭を築こうとして不健全な恋愛をした」というブランディ゠ウォルトンの証言だ。それは、自分が負った傷を癒そうとしての行為であった。


親が同性愛者だった場合、完全な異性愛者である確率が低かったというのも興味深い。


さらに言えば、親が同性愛者だった場合、家族が生活保護を受けていた確率の高さは驚きだ。恐らく、日本とは違って同性愛者差別が激しいアメリカの土壌も関係しているのだろう。


レズビアンカップルに育てられた両性愛男性・ロペスも次のように言っている。(翻訳元:https://www.thepublicdiscourse.com/2012/08/6065/ )


「この結果は、常識という人生で大切なものに裏付けられています。—―他の人と違う成長を遂げることは困難なことです。それゆえに、不適応を起こしたり、アルコールなどの危険な方法で自分を癒そうとしたりする危険性を高めるのです。」


しかし、レグニラスの研究は左派勢力から批判を浴びる。


南イリノイ大学・カーボンデール校の社会学教授・ダレン゠シャーキャットは、「同性愛者の親」の定義が問題だとした。レグニラスが取り上げたのは、同性と関係を持っていた親でしかなく、その関係がどれだけ続いたかや、二人の親として子供を育てたかが重要だというのだ。それゆえに、この論文を「即刻失格」だとした。


これに対し、ロペスは反論する。


「同性カップルの子供は、どうやって生まれてくるのでしょう? 完全な同性愛者の場合、代理母出産か人工授精・養子縁組の場合が高いわけです。しかし、そのようなケースはごく一部であり、数万人の中から六人以上を見つけ出すことは不可能となります。」


「同性カップルの親の多くは、私や母のように『両性愛者』――つまり忘れられがちなBです。異性と子供を作ったあとで同性に惹かれた場合、社会的に複雑な状況が生まれます。シャーキャットは、このような複雑な事態は、同性カップルの子育てモデルの純粋さを堕落させるものであり、不適格であると言います。」


「同性愛者に育てられた子供は、異性にだけ惹かれるのではなく、同性愛により好奇心を持ち、実験するだろうと私は考えています。つまりは私と同じ両性愛者です。そんな彼らが成人すると、同性愛者の親の権利を擁護する社会科学者から最初に排除される可能性が高いでしょう。」


人間の性的指向が先天的に決まるか後天的に決まるかは議論がある。しかし、もしも先天的に決まるとしても、ロペスの主張に矛盾はないと私は考える。この理由については、今はまだ語るべきときではない。


このような研究結果を出したのは、レグニラス教授だけではない。


二〇一五年――米カトリック大学のドナルド゠ポール゠サリンズ教授は、同性カップルと異性カップルに育てられた子供を比較し、情緒的問題を抱えている割合を発表する。この研究は、アメリカ疾病予防管理センターが行なった160万人分の調査結果に基づく。2751組の同性カップルがそこにはおり、十八歳以下の子供を養育しているカップルはそのうち582組であった。


子供の情緒的問題は、アメリカ疾病予防管理センターが行った「子供の強さと困難さアンケート」と、同局が行った親へのインタビュー調査から比較された。


情緒的・行動面で子供が問題を抱えている割合は、アンケート調査結果では、


異性カップルでの家庭 4.4%

同性カップルでの家庭 9.3%


インタビュー調査結果では、


異性カップルでの家庭 5.5%

同性カップルでの家庭 14.9%


であった。


このような調査結果は、誰もが何となく予測していたことではないだろうか。


しかし、誰もが言えなかったはずだ。同性カップルに育てられる子供が可哀そうではないかと言うと、同性愛者を差別していると思われかねない。けれども、社会的な雰囲気に吞まれたまま同性婚を認めては、後々に禍根を残すこととなる。


一方、子供を作ったあとで同性パートナーと同居する場合はどうだろう。「そんなことはするな」と言うことは私もやや躊躇われる。不可抗力的な部分もそこにはあるはずだ。


同性婚を認める方法は二つある。一つは、結婚と同性婚を完全に平等にしてしまい、同性カップルにも特別養子縁組を認める方法。もう一つは、結婚とは別の枠で「同性婚」を設定する方法。後者の場合、特別養子縁組を認めないなど一部の権利に制限をかけることもできる。台湾で作られた同性婚も後者だ。


どうあれ、同性愛と異性愛を完全に平等にすることは出来ない。そこでどう折り合いをつけるかが焦点となる。

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