4.トランスジェンダーとは何か?

越境性差トランスジェンダーとは何か?


性同一性障碍と何が違うのか?


多くの人が気にかかっているだろう。


簡単に言えば、のが性同一性障碍で、のが越境性差トランスジェンダーだ。


「性同一性障碍」は医学用語である。だからこそ診断基準が存在する。例えば、身体に違和感があるだとか、性別適合手術を望むだとか、その意志が持続しているだとか、統合失調症などの精神障碍の可能性がないだとかだ。そして行われるのが治療――ホルモン投与や性別適合手術などである。


つまり、性同一性障碍とは「違う性別へと身体を変えたがる症状」だ。


この症状のある人や、身体を変えて症状を消した人は、「越境性別トランスセクシュアル」と呼ばれる。読んで字のごとく、性別セックス越境トランスする人のことだ。


一方、「越境性差トランスジェンダー」とは何か?


こちらは、医学用語でも何でもない。


簡単に言えば、男らしくない人や女らしくない人の総称だ。性自認・性格・服装など、何か一つでも性差ジェンダー越境トランスしていたら越境性差トランスジェンダーである。


「総称」のことを英語では Umbrellaアンブレラ Termターム という。直訳すれば「傘言葉」だ。なので、越境性差トランスジェンダーという概念を説明するとき、次の図がよく使われる。


【挿図:アンブレラターム】

https://kakuyomu.jp/users/Ebisumatsuri/news/16816927861310437373


見ての通り、「越境性差トランスジェンダー」という傘の下に、「越境性別トランスセクシュアル」「両性具有インターセックス」「異性装者クロスドレッサー」「Xジェンダー」「女っぽい男」「男っぽい女」などがある。


つまり、女装しただけでも「越境性差トランスジェンダー」なのだ。


「そんな馬鹿な」と思う人がいるかもしれない。しかし、これは国際連合が提示した定義でもある。


"Transgender (sometimes shortened to “trans”) is an umbrella term used to describe a wide range of identities whose appearance and characteristics are perceived as gender atypical —including transsexual people, cross-dressers (sometimes referred to as “transvestites”), and people who identify as third gender. "


越境性差トランスジェンダー(「越境者トランス」とも略される)とは、一般的とされる性差ジェンダーとは外見や特徴が異なる様々な人々を表す総称である――越境性別トランスセクシュアル異性装者クロスドレッサー(「越境服飾トランスベスタイト」と呼ばれることもある)・第三性差サードジェンダーなど。」(千石試訳)

https://www.unfe.org/definitions/


「ジェンダー」という言葉には様々な意味がある。多くの人が知るのは、「社会的・文化的に作られた性差」だろう。一方で、英単語の gender には「性別」という意味もある。


「gender とは

性、(人の)性、性別、ジェンダー」

https://ejje.weblio.jp/content/gender


越境性差トランスジェンダーという言葉が作られた当初、この言葉は、社会的・文化的な性差ジェンダーを越境した人のみを指していた。すなわち、越境性別トランスセクシュアルは含まれなかったのだ。


この言葉を作ったのは、ヴァージニア゠プリンスという男である。


プリンスは、一九一二年・カリフォルニア州のロサンゼルスに生まれる。女装を始めたのは、およそ十二歳の頃からだ。二度の結婚と離婚を経験したが、一度目の離婚の原因は彼の女装癖だった。


二度目の離婚の後は、会社員として働く傍ら、「シュヴァリエ」という小さな出版社を作る。そして、女装する異性愛者のための雑誌『トランスヴェスティア』を刊行した。


プリンスが「越境性差トランスジェンダー」を名乗り出したのは、六〇年代末から七〇年代のことだという。


プリンスが定義した「越境性差トランスジェンダー」とは、身体を変えず、女装して女性のように生活している人や、男装して男性のように生活している人のことだ。


すなわち、元々は性自認さえ無関係だったのだ。


それがいつの頃からだったのか――越境性別トランスセクシュアルやXジェンダー、「女っぽい男」「男っぽい女」まで、様々なものを含む総称アンブレラタームへと変化したのは。


最初、自分のことを「B」だと私は思っていた。ところが「B」と言うには違和感がある。やがてⅩジェンダーという言葉を知ったので、それならば「Qクィア」だと思った。しかし驚いたことに「T」だったのだ。

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