第12話
「あんなところにあんな仕掛けがあったんですねぇ。そんでもってこんなに下の方まで行けるなんて。それにすごい広さでもう頭がついていきませんよ」
結衣の感想は抽象的だった。
そこは地下にあるとは思えないほどに広大な空間だった。天井は高く、優に二十メートルはあるだろう。そこかしこに車両や小型の航空機、結衣達が先ほど使用したヘリなどがある。
その広大な空間にはさらに倉庫のようなものが複数見られ、その中には何があるのか想像もできない。
阿久津の先導で結衣と舞華が後に続く。地下空間にある建物の一つにたどり着くと、そこには鹿島と初めて出会った指揮車が停まっていた。結衣は阿久津に案内されるがまま、建物に入り、作戦室と呼ばれる場所にたどり着いた。反応を見る限り、舞華は以前から知っていた様子だ。
作戦室の中は正方形の空間で、指揮車の中と雰囲気がよく似ていた。やはり中央にテーブルがあり、その上にモニタが並んでいる。
(色々と私だけが知らないことが多いなぁ…)
結衣がそんなことを考えていると、作戦室の奥にある扉から鹿島が顔を出した。
「ああ、これでみなさんお揃いですね」
鹿島は続けて「どうぞ座ってください」
結衣達がそれぞれの席に着く。わかりやすく椅子の背もたれに色分けされたプレートがある。これも指揮車内と同じ仕様だ。しばらくすると鹿島が出てきた扉が再び開き、井荻、伊吹、岡田が順番に現れた。
「見てる見てる!見過ぎよ!」
岡田を見つめる結衣に舞華が気付き、揶揄うように言う。そう言われても岡田から視線を外せない結衣だった。当の岡田は結衣の視線を全く無視して自分の席に着く。
(ちょっと傷ついてますよー)
結衣は心の中で抗議したが、岡田から冷たくされることもまんざら嫌ではなかった。
「フォックスとライノと名乗っていた彼らが、何者かに狙撃され死亡しました。みなさんすでにご承知だとは思いますが、詳細な情報を共有させていただきます」
鹿島が切り出した。低い声といい、流れるような話し方といい、本当に高校生とは思えない。結衣は少なからず劣等感を抱いていた。自分はこんなに落ち着いて人前で話せない。鹿島はノートサイズのタブレット端末を操作し
「阿久津さんが拘束した三人は現在公安の取り調べを受けているようですが、完全に黙秘ですね。唯一聞き出せた情報としては、彼らもフォックスとライノのようにコードネームで呼び合っていたようです。つまり、お互いの素性は知らない。そう言う組織のようです」
鹿島の話を受けて阿久津が尋ねた。律儀に手を挙げているのが結衣のツボに入った。
「あいつら弱かったぞ。あのフォックスとかライノみたいな装備、なんて言ったっけ?」
「プレーツとか言ってたな…」
岡田が独り言のように言うと、
「ええ。腕時計型の端末で呼び出す装甲です。これですね」
鹿島はそういうと二つの端末をデスクに並べた。一見、ただの腕時計、スマートウォッチと呼ばれるような洗練されたデザインの端末だった。
「僕の方で分析することになりましたので、何かわかったらみなさんに共有します。とは言え、おそらくこの端末は特定の命令を送信するためだけのもので、[プレーツ]のシステムは全く別のところにあると思います。位置の特定につながれば御の字ですね」
(御の字…ほんとに高校生か?)
「まぁ、今日のところは初陣、ご苦労さんってことで、明日は全員非番だ。ゆっくり休んでくれ」
井荻が労いの言葉をかけると、岡田と伊吹が席を立ち、作戦室を出ていく。阿久津も遅れて部屋を出ていった。それをきっかけに結衣も舞華と一緒に部屋を出ようとすると
「本田はだいぶ痛めつけられただろ?治せよ」
目を合わせることなく井荻がつぶやいた。
「あの…井荻さん」
振り向いた結衣が言葉を探している。
「なんだ?」
井荻は座ったまま正面から結衣を見つめる。
「これが私のやるべきことなんですよね?」
「それを決めるのはお前だ」
二人のやり取りを舞華が見守る。何かを堪えるように、キツく結んだ口元に力が入っていた。彼女は静かに扉を開けると作戦室を後にした。
結衣は俯いたまま「ありがとうございます」とだけ呟いた。
そのまま作戦室を出て行く結衣を見送り「もう少し、何か言ってやれれば…」と、井荻が目頭をつまむ。
「無茶をしなければいいでが…」
二人のやり取りを見守っていた鹿島が、結衣たちが出て行った扉を見つめながらつぶやく。彼はデスクに置いてあった腕時計型の端末を手に取り「解析に入ります」と言って、反対側の扉へ向かった。
一人残った井荻は背もたれに体を預け、天井を見上げながら呟いた。
「これでいいんでしょうか…本田さん…」
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