第14話

 ははっ、なんだよその返事だと笑った顔もカッコよく見える。

 やはりイケメンはどの世界でも人を魅了してやまないんだ。

 

(乙女ゲームで滅多に笑わないリチャード王子とは違い。私の目の前にいるリチャード王子はよく笑い、素敵な人だと思う)


「さて、ミタリアの部屋に行こう」


「分かりました、本当に何にもない部屋ですからね」


 応接間の外に待っていたナターシャに庭に出しっぱなしのオフトゥンの回収と、後で部屋に紅茶と茶菓子をいくつか頼んだ。王子を屋敷のニ階にある私の部屋に案内した、白と水色のインテリアで統一された部屋。


 ベッドはダブルでふかふかオフトゥン。

 王子は部屋の中を見渡すと、すぐに本棚を覗き始めた。


(前に渡した本は古くて書店では扱っていない本だったから、他の古い本も読みたくなったのかな?)


「なぁ、この本はどんな話?」

「それは……平民に恋をした王女の話です。どんな内容の話かと言うと……」


「ダメだ!」


 王子に言うなと言わんばかりに手で、口元を押さえられた。


「この本は今日、借りていくからネタバレはやめてくれ。次はこの本を教えて」


「ふが、ふふ(分かりました)」


 それからも内容が気に入った本を王子は選んだ。

 次に取り出した本、それは私が見られたくない本だった。


「このタイトルって、俺にくれた本と同じだな」

「あ、そ、それはダメです!」


 本を返して、と王子に詰め寄った。


「おい、ミタリア手を離せって」


「見ないでください、えっ、リチャード様……あ、きゃっ」


「うわっ、ぐっ」


 本を返してと、周りを見ずに揉み合いをして。

 王子を自分のベッドに押し倒してしまった。


 その絶妙なタイミングで扉が開き、ナターシャがお茶を乗せたカートを押して、にこにこと部屋に入ってきた。


「ミタリアお嬢様、お茶をお持ちいたしました。まあ……これは、これは、すみません」


(ナターシャ……ノック忘れてるし、なんて、わざとらしい登場の仕方……耳のいい私たちだ。ナターシャには今の私たちも声が絶対に聞こえていたはず。え、えぇ、ナターシャの後ろに両親もいる)


 ナターシャはニコニコと、お茶の準備をテーブルに始めた。


「リチャード王子殿下、ミタリアお嬢様。お茶を出しましたら直ぐに帰りますので、すみません」


 ナターシャ、お父様、お母様……確信犯。

 ナターシャはお茶をセットし終わると。


「お楽しみのところ、失礼しました」


「ナターシャ!」


 パタンと音を立てて扉がしまった、部屋に残された王子を押し倒した私と押し倒された王子。


「リチャード様、私も含めて……うちのメイドと両親がごめんなさい……、平気ですか?」


 覗き込むと、王子は「重い!」と言う、どころか楽しそうに笑っていた。


「これくらい平気だ。その、ミタリア悪かったな……俺に見せたくないもの、だったのだろう?」


「見せたくないとかじゃないんです。……リチャード様、その本をよく見てください……紙がふやけてボロボロですよね」


 王子の上から、コロンと横に転がった。


(いま王子が持つ本の話が好きで、何度も物語を読み返して同じ所で、感動して、毎回泣いてしまうから……中の紙がボロボロなんだ)


 だから、みられたくなかった。


「なんだ、これを見られたくなくて焦っていたのか。紙がこんなにふやけているのは……ミタリアがこの本に、感動して泣いた跡か」


「もう、泣きすぎですよね。でも好きで読み返しちゃうんです」


「気にしなくていいぞ、好きな本には俺もそうなる。この本に涙ぐんだと前に言ったろ……ミタリアにいい本を貰ったよ。俺もあれから繰り返し、寝る前に読んでいるよ」


「ほんとですか? 私も好きな場面だけ、寝る前に読んでいます」

「ミタリアの好きなシーンか……わかった、告白シーンだろ?」


 当たっていたので、コクリと頷いた。

 なんだ、ミタリアも同じかと笑う王子に、釣られて私の顔も自然と笑顔になった。


「そのシーンいいですよね、いつもそこで泣いてしまうんです」


「俺もだ、泣きはしないけど……涙ぐむな」


 二人で笑っていた。

 ふいにミタリアと名を呼ばれて、目の前に同じように寝転ぶ王子の手が伸びて、私の頬を撫でた。


(あ、あぁ?)


 ムズ、お腹がムズムズしてきて、その場所が熱くなった……。


「なぁミタリアに、一つ聞いてもいい?」

「はい、なんでしょうか?」


「ミタリアも今、お腹がムズムズして、熱い?」


「えっ?」


 どうして、それを知っているのですか? と聞こうとしたとき扉の向こうでコトッと音が聞こえて、ナターシャと両親の話し声が聞こえた。


(扉の向こうで聞き耳を立てているのね!)


「度々……すみません。リチャード様」


「はははっ。いいや、お茶にするか」

「はい、お茶にしましょう」


 私たちはテーブルに用意された、お茶を飲むことにした。

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