第15話

 ナターシャが支度したお茶請けはどれも、王子の部屋で私が選り好みした食べたものばかりだった。


(王子は好きな、お菓子を買ってくれたんだ)


「んんっ、この苺のコンポートは大好き、こっちのお菓子も好きです」


「そうか……俺も、本をたくさん借りて悪いな、ミタリアが選ぶ本はどれも俺好みだ。まだ、読みたい本がたくさん本棚にあるよ」


(自分が個人で選んだ本を好きだと、言ってもらえるの正直嬉しい)


 前世で少ない友達に、この本好きだと喜ばれることが好きだった。

 気分が上がって、つるっと口から言葉が出てしまう。


「いつでも来てください……(あっ!)」


「いいのか? ミタリア、その言葉を俺は本気にするよ?」 



(ううっ……)


 

 私を惑わす? 

 勝手に私が惑わされている? とにかく、王子のイケメンスマイルは卑怯なんだ。


「えぇ、来てください。両親もリチャード様に会えると喜びますわ」

「じゃ、ミタリアは?」


(私?)


 王子の青い瞳に見つめられて、ぼっ、と顔が熱い。やばい真っ赤になる前に……カチッと腕輪の留め金を外した。


 外した途端に私の体はぽふっと獣化ーー黒猫に変わる。

 ぴょんとテーブルから跳ねて、オフトゥンの上に移動して王子から距離をとった。


 それを見て、ガタッとテーブルから立つ王子。


「ずるいぞミタリア! 逃げるな、言えよ」

「い、言わないにゃん」


 尻尾をフリフリしてぷいっと王子に背を向けた。

 猫の姿だと感情が読み取られない。と、私は思っている。


「いま、絶対に頬が赤くなっていたろ、ミタリアの照れた顔を、俺にだけ見せろよ!」  


「嫌にゃ!」


 チッと舌打ちして、王子もカチッと腕輪を外した。

 姿を狼に変えてベッドに飛び乗ってくる王子。


 不機嫌がわかるほど『グルルルッ』と低く喉が鳴っていた。


 逃げようとしたけど、逃げれずむぎゅっと王子に捕らわれた。

 私を捕まえた王子はスリスリ顔を擦り寄せる。


「にゃっ!」

「ふん、自分の気持ちを言わないずるい、ミタリアにはお仕置きだ!」


「そんにゃ!」


(うわぁ、顔が近い、近い!)


 やだ! 両手を前に出して顔をムニッとさせても、王子は離れない。


「そんな、可愛い手じゃ、気かねぇ」


 また、スリスリされて、ペロンと大きな舌で顔を舐められた。


「ま、待つにゃ、そこは口にゃ」

「別にいいじゃん、ん? 甘いな苺の味がする」


 ペロン、ペロン。


「にゃやぁああ! いま食べた苺のコンポートの味にゃ」


「知ってる」


 うがぁ、確信犯だぁ!


(エッチだ、王子のえっち!)


 その後も動けない私の顔を王子は帰りの時間まで、毛繕い? 何回もペロンされた。







 帰り間際。


「ミタリア、明日の早朝に迎えに来るから」


 ご機嫌な王子と。


「……はい、お気を付けてお帰りください」


 くたくたな私。


 夕飯の後に出た苺のコンポートを見るだけで、さっきの光景を思いだして顔が赤くなってしまう。

 しばらく、苺のコンポートは食べられないや。

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