第12話

 もみもみ、王子の側は安心する?

 もみもみ、王子にもっと甘えたい?


「おい、やめろミタリア!」

「にゃ?」


「なんて顔してんだよ、これじゃ襲っちまうぞ」


(顔?)


「そこでキョトンとするな、俺だけかぁ!……くそっ」

「えっ、まっ、リチャード王子殿下?」


 くるんと、ひっくり返されて強めに王子の顔が乗っかった。

 そんなにもみもみダメだったの?


「ご、ごめんなさい」

「あ、謝るな。ただ俺が恥ずかしかったけだから……好きなだけ触ればいい」


 ――触れてもいいの?

 ――王子に触れたい?


 ゴクッと小さくなった喉の音も王子には聞こえているはず。

 無性に王子の頬にスリスリしたくて仕方がない。とくんとくん、王子の鼓動も早い? ……王子も同じ気持ちなの。


 むくっ、とお腹から顔を離して、覗き込むように王子の瞳が私を見た。


「ミタリア……?」


 王子の頬にスリスリしたい。


 いま、ここで王子に触れてしまったらどうなる? ダメ、ダメ、私は悪役令嬢だもの、ダメ、ダメ、今は良くても、きっと悲しい気持ちになる。


 慌ててるうちに王子が至近距離にいた、そんな真剣な瞳で私を見ないで。


「ミタリア、お前のもふもふなお腹に触っておいてなんだが……頬にスリスリしてもいい?」


「いや、にゃ」


 しゅっ、避けた。


「いいだろう?」


「無理にゃ!」


 しゅっ、また避けた。


 避けても避けても王子がぐいぐい責めて来る。


「だめ、いまは触っちゃ嫌! リチャード様の婚約者にしてにゃ」

「何言ってんだ? ミタリアが俺の婚約者だろう?」


「あっ、そうだったにゃ」

「ははっ、なんだよそれ、可愛い」


 王子の笑った顔に気を取られて、すりすりを許してしまった。







 すりすりの後、少し考えてニヤッと王子は笑った。

 もう一回しでもいいと聞いた王子との攻防戦、追っかけあいこ中、コンコンと部屋の扉が鳴った。


「リチャード様、夕飯のお時間ですがどうされますか?」


 で、私たちは一斉に時計を見た。


(七時⁉︎ 家まで時間がかるから直ぐに城を出ないと)


「遅くなったな……俺がミタリアの家に連絡するから、今日は客室に泊まっていく?」


 無理だと首を振る。


「執務で疲れているリチャード様の、くつろぐ時間と、読書の時間をこれ以上は潰したくないにゃ」


「帰るのか……わかった。泊まりは来年に入学する学園の長期夏季休暇にでもすればいいな。リル、直ぐに食堂に向かうと父上に伝えてくれ」


「かしこまりました」


 王子が見ないように背を向けたので、テーブルの上の腕輪を着けて元に戻り着替えた。

 私が着替えた終えたのを見て、王子も腕輪に手を伸ばしたので目を瞑った。


 よし行くか、と王子に馬車まで送って貰っている途中。王子が私の手を握ったそれは大きな男性の手だった。


「ミタリアの手は小さいな」

「リチャード様の手が大きいだけです」


「くくっ、そうだな」


 やっぱり、なんだか嬉しそう?


「ミタリア、今日は遅くまで悪かったな。明日、明後日と俺は忙しくなるから城に来なくていい。三日後の早朝に迎えに行くから」


「三日後の早朝にですか?」


「なんだ、忘れたのかよ。母上の所に着いてきてくれるって約束したよな」


「はい、約束しました」

「じゃ、三日後に会おう。気をつけて帰れよ」


 帰りの馬車の中で私は馬車専用のオフトゥンに丸まっていた。

 いつもなら、すぐに寝付けるのに目が冴えてしまい、王子とのスリスリを思い出しは悶えた。

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