第11話

 王子の真面目な顔。それをソファーのクッションの上で私は眺めていた。

 時折り私の視線が気になるのか、王子と目が合った。


「ミタリア、遠慮せずに、寝ていてもいいんだぞ?」

「今日はたくさん寝たから眠くないにゃ」


 そんなことは嘘だ、王子の顔がイケメンで眺めたいなんて言えない。

 悪役令嬢、婚約破棄がなければ王子はタイプだ。


 でも、婚約破棄されるんだ期待してはいけない。


 そう思った途端にお腹のアザにチリッと痛みを感じた、いつものムズムズむず痒いのではなく、まるで嘘を言うなとばかりに、チリチリとした痛みを感じた。


「うっ」

「ミタリア?」


(なに? この痛み?)


「な、なんでもないです。……それよりリチャード様、私はいつまでここに居ればいいのかにゃ?」


「俺の執務が終わるまでかな、帰りたかったらその扉から勝手に出ればいいぞ」


 ニヤリと意地悪げに口を曲げて言う王子。

 私が出来ないとが分かって言っているくせに、獣化したまま出れるわけがないし、ここで半獣になっても服がない。


(逃げられないと思ってる酷い王子だ。楽しそうに笑って、まぁ実際に逃げられないけど)


 この執務室の外に王子を守る守りの騎士が立っている。

 それも二人も――見られないように、ここを出るなんてなんて出来ない。


(でも退屈かも、仕方がない寝て待とう)


 クッションの上でくるんと丸まった。執務机から『やっぱり寝るのか』と、ため息混じりに呟く王子の声が聞こえたけど、やることがないからと言おうと思ったけどやめて尻尾で返事した。


 そしてものの数秒で猫をダメにするクッションにやられて目を瞑ればすぐに夢。だけど、すぐにその夢の国からの帰還が王子から発せられた。


「ミタリア、こっちに足を向けてへそ天はやめろ。俺の集中を削ぐな!」

「う、にゃん?」


 クッションを枕に王子がいる執務机に向けてへそ天していた、どうして王子の側は安心してしまうのだろう? 教えてほしい。


「もう、分かったにゃ」


 くるんと扉に足を向けた。


「これで文句ないにゃ?」


「くそっ、幸せそうにクッションに埋もれて寝やがって……そのもふもふな、お腹を後でいいだけ噛んでやる」

「噛むのはダメにゃ、お腹がみムズムズするから嫌にゃ……」

「お腹がムズムズ? ミタリア、お前もお腹がムズムズするのか?」


 王子が呟いた言葉は、眠ってしまった私には届かなかった。


「なんだ、もう寝てしまったのか……」






「ミタリア、夜寝られなくなるぞ!」


 お腹の上にドッシリ顔を置く、狼姿の王子の起こされた。

 どうやらいつの間にか執務が終わり、王子の部屋に移動していたらしい。


「リチャード様おはようございます。また、私のお腹の上ですか……にゃ」

「いいや、少し隣で寝て、目が覚めたからもふもふ楽しませてもらった。なんなら俺のもふもふを触るか?」


(王子のもふもふ⁉︎)


「えっ、触ってもいいのですかにゃ?」


 王子のたんなる冗談だったらしく、余りの私の食い付きに王子が少し引いた感じがした。


「やっぱりいいです。もう、帰るにゃ」

「むくれるな。さ、触ればいいだろう」


 乱立気味に言い王子が私の目の前でへそ天した、のだけど、私はすぐにさまピョーンと飛び王子に背を向けた。黒猫だから真っ赤になっていることは隠せてるけど。


(王子、その、へそ天は見ちゃいけない!)


 気付いて、と尻尾でペチペチ叩いた。


「なんだよ。折角、俺がへそ天したのに触らないのか?」


(だから、そのへそ天が問題なの!)


「リチャード様、私も人のことは言えませんが、ご自分の格好を見てください!」


「俺の格好? あ、そうか、まだ結婚前だったな」


 王子も気付いたらしく横向きに寝て足を閉じてくれた、そこにそっと近付き毛を触った。


「ふわふわ、もふもふ、なんて柔らかい毛なの? 私の毛とは違う……使っている石鹸が違うにゃん?」

「そ、そういうのはわかんねぇよ」


「リチャード様のもふもふは触り心地がいいにゃ」


 私はご機嫌よく王子のお腹をふみふみした。

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