第10話

 コンコン、コンコン扉を叩く音で目覚めた。すぐ近くには、ぐっすり眠るリチャード王子がいた。


「リチャード様、いらっしゃいますか?」


 呼んでいるのは側近リルだ。王子が執務開始の時間を過ぎても、現れないから呼びに来たんだろ。


 部屋の時計の針は四時を回っている。

 私が王城に来たのは午後一時過ぎだったから、三時間は眠っていたみたいだった。


「リチャード様!」


 コンコン、コンコンと扉を叩く音に、王子の耳は動いているから音は聞こえているはず。しかし王子は起きたくないのか猫の私を抱きしめたまま、眉をひそめるだけで目を覚まさない。


 疲れているようだからこのまま王子を寝かしてあげたいけど、執務は大切なので王子の体を揺らし起こそうとした。


「リチャード様起きてください。側近リルさんが迎えに来ていますよ」


「リルか? リル、あと一時間くらいは待てないのか?」


 この声は扉の向こうにいる側近リルにも聞こえたのだろう。『私だって、お疲れのリチャード様を起こしたくないですよ』とリルの呟きが扉向こうから聞こえる。


 彼もまた忙しい王子を寝かせてあげたい。しかし、たまっている執務があり、扉の向こうで困っているようだった。


「リチャード様、四時すぎです。執務にお戻りくださいにゃ」


「ん、四時過ぎ?……戻る時間を過ぎているな。ミタリア、お前も執務室に来い」


 執務室に来い?


「それは無理です」

「じゃー起きない」


 と、私のもふもふに顔を埋めて寝てしまう王子に、起きてくれるのならと冗談半分で返事を返した。


「分かりました、すぐに起きるのなら考えまにゃ」


「その言葉嘘じゃないよな」


(えっ?)


 その言葉を待っていたかのように、王子は直ぐにパッチリ目を覚ました。


「た、狸寝入りにゃ!(狼だけど)」


「いいや、起きたのはリルが来てからな」


 ニンマリ笑って、王子は脱いだジャケットに私をさっと包み脇に抱えた。


「にゃ?」


「約束したもんな、ミタリアも執務室に来るんだろ?」


(この姿のままで? 側近のリルに見られちゃうけどいいの?)


 と、王子に聞きたいのだけど。ガッチリ王子に抱えられてしまい、身動きが取れなかった。







 部屋の外で王子を待ってた側近リルは、私入りのジャケットをチラチラ見てくる。もしかして、ジャケットの中にいるって分かってる?


 王子は執務室に向かおうとして足を止めて、


「そうだリル。あとは一人で今日の分をやるから、上がっていいぞ」

「リチャード様?」


「俺がいない間ご苦労さま、また明日頼むな」


 側近リルの言葉を遮るよう話す王子に、リルは「はい」としか言えず、一礼をして下がっていった。

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