第3話
走り出した馬車の中は、なんと、以前とは変わっていた。馬車の中に私の好きな、ふかふかオフトゥンが敷いてあった。
「ふかふかオフトゥンだ!」
登城を嫌がる私のために両親が考えたのだろう。
オフトゥンに転がりす、もみもみ、すりすりを楽しみ、そしてくるまり眠った。
――幸せ!
オフトゥン馬車に乗ってから四時間後――途中で昼休憩を挟み、馬車に揺られて私は時刻通り王城に到着した。
コンコン、
「ミタリヤお嬢様、王城に到着いたしました」
「もう着いたの? ちょっと待って!」
ナターシャが綺麗にした髪がオフトゥンにくるまったせいで、ボサボサになっていた。
でも大丈夫、私の髪型は見た目ウルフカットのロングだから、手で軽く整えればいい。
声をかけて従者に外鍵を外してもらい、馬車を降りて城内への出入り口に向かうと、先月と同じく王子の側近――綺麗に刈り上げた茶髪、茶色の瞳の犬族リルが待機していた。
又の名を忠犬リル……。ゲームだと婚約破棄後、王子に命令された彼にミタリアは足音なく捕らえられる。
かなり腕が立つ、王子の忠犬だ。
彼に近付き挨拶をすると『リチャード様は庭園でお待ちになっておられます』と庭園のテラス席に案内される。
庭園――王子が座るテラス席にはゲームと同様、好物のミルクとお肉のサンドイッチが置かれていた。
時折、庭園に吹く風に白銀の長い髪を後ろに束ね、耳、尻尾を揺らし、紺色のジュストコールを身につけ王子は優雅に本を読んでいた。
カッコいい、流石は乙女ゲームのヒーロー、本を読む姿も様になる。
「リル、案内ありがとう」
「いいえ、ごゆっくりリチャード様とのデートをお楽しみください」
「えぇ、楽しむわ」
令嬢らしく忠犬側近と会話を交わして、私はテラス席にいる王子に近付きカーテシーをした。
「ごきげんよう、リチャード王子殿下」
「今日はミタリア嬢の番かよろしく。本日のデートは何をする?」
王子も五年の間、毎月、婚約者候補と同じことをしているためか、彼もなれたものだ。
「リチャード王子殿下、テラス席か庭園のベンチで日向ぼっこか、書庫で読書しませんか?」
王子にそう告げれば目を細めて、またかといった表情をした。
それもそうだろう毎年同じなのだから。
「ミタリア嬢。この五年間の間ずっと君とは日向ぼっこか書庫デートしかしていないが……他の候補者のように、僕と別のことをしたいと思わないのか?」
「えっ?」
――他の候補者と同じこと?
『わたくし、リチャード様とボートデートをしましたわ』など、婚約候補者との自慢話会という名のお茶会で話は聞いている。私は他の令嬢とした……王子と乗馬デート、庭園手繋ぎデート、王都デート、遊覧船デート、花見デート……をしろと、無理!
「そんな嫌……恐れ多いこと。リチャード殿下、私と読書デートにいたしましょう、そうすればデート時間の間、殿下は趣味の読書ができますわ」
王子に笑顔を絶やさず答えた。
「読書デートか……ここ最近は執務で忙しかったな……息抜きになるか」
乙女ゲームで王子は読書好きだと知ってるから、デート時間を読書の時間にすれば、私は王子と会話しなくてもいい。
「えぇ、殿下は読書もできて、息抜きにもなりますわ」
微笑んだままで伝えれば、王子はじっと私を見た後に、ため息をついた。
「はぁ、それでいいよ。場所は書庫で僕は本を読むから君は書庫で、本を読んでいても、昼寝でも好きなことをしていればいい」
「はい、喜んで!」
と、始まった王子との書庫での読書デート。
そこで私はとんでもない、失態を王子の前で犯してしまうのだった。
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