閑話2姉と弟



真夜中、小十郎は一人月を見上げていた。


「小十郎」


「姉上?」


縁側で一人考え事をする時は月を見ながら笛を吹くのが日課だった。


「何を迷っておる」


「いえ…」


「蔦殿が気に入らぬか?」


「そうではございません!」


小十郎が声を荒げた事に喜多は驚く。

普段から寡黙で口数が少なく感情を表に出せないでいる小十郎にしては珍しかった。


「申し訳ありません…声を」


「良い、そなたが損な表情をするのは久しぶりか」


喜多同様に小十郎も複雑な環境に置かれていた。

幼い頃に両親を亡くした後に養子に出されるも、養子先に跡継ぎが生まれた事により厄介者扱いを受けた後に喜多に引き取られたのだ。


喜多も似たような環境だったが、伊達家の城主、輝宗の引き立てにより今がある。


それでも肩身の狭さは変わらない。

喜多は小十郎にはせめて支えてくれる妻を迎えて欲しいと思ったのだ。


「蔦殿は私とは何も違います」


「確かに、父君に愛され弟君に愛され、家族に大切にされていらっしゃる方じゃ」


「本来なら身分のある武家に嫁ぎ、大切にされてしかるべきだというのに、小十郎に嫁ぐことになって気の毒と」


眉を下げる小十郎に喜多は驚きを隠せなかった。


「小十郎…そなた」


驚きながらも喜びを感じた。

今まで真面目過ぎる故に女子と真面に会話をした事もなければ情を交わしたことはない。


見た目の気真面目さと強面故に、無表情になれば米沢城の女中は怯え、身分の高い侍女達は小十郎を見下していた。


故に女子に関心を持てなかっうたのだが、蔦に対しては全く態度が違う。


――これはもしや。


「小十郎、そなた…蔦殿に懸想しておるのか」


「なっ!何を…失礼ですぞ」


「何を怒るのか。思えばそのたは今まで女子に興味を持ったことがなかったな」


「ですから!」


真っ赤になりながらあたふたする小十郎は見ていて面白かった。


「私は嫁ぐのを諦めているがゆえに片倉家の跡継ぎを心配しておったが、蔦殿に頑張って貰えばよい」


「破廉恥ですぞ!」


「何を言うか。夫婦になれば自然の成り行きだというに…蔦殿の母君は子宝に恵まれておる故に、安心じゃな」


「お止めください!蔦殿に無礼ではありませんか…それに私は、若君より早く子を作るなど」


真っ赤になって本気で怒る小十郎は勢い半分、本心半分と言った所だった。


「そなた、若君より早く子を授かったら捨てる等言うつもりではないだろうな」


「その場合は…」


「馬鹿を言う出ないぞ。子は鎹じゃ」


真面目過ぎる小十郎でもいくら何でもこんな馬鹿な真似はしないだろうと思いながらも、堅物すぎるので、今後が心配で仕方ない喜多はこの縁談が上手くいくことを願うのだった。


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