閑話1片倉家
見合いを終えた後、片倉家では不穏な空気が流れていた。
「喜多、お前は弟にどういう躾をしているのだ」
「申し訳ございません」
「見合いの場で、儂の顔を潰す気か!あろうことにも!」
「ああ!解ったからもうやめんか!」
鬱陶しいと言わんばかりに遠藤基信は何時ものように文句をグチグチ言う、鬼庭左月を止めながら疲れたい表情をしていた。
「お前もくどいぞ」
「何だと!嫁が見つからぬというから儂がわざわざ探してやったのだ。本来なら儂が嫁に欲しかったと言うのに」
「左月様…」
「お前…」
喜多と基信は距離を取り、小十郎も無言だった。
相手はまだ年若い婚礼適齢期の娘であり左月とでは歳が離れすぎている。
「ええい!誤解をするでないわ。嫁というのは儂の息子じゃ」
「ああ、綱元か」
「驚きました。綱元…ですが、歳が十以上も離れておりますが」
小十郎よりも八歳年上であり、喜多の異母弟になる。
年齢の差はあれど、十歳前後ならば珍しい事はないのだかが、小十郎以上に色々性格が偏っていた。
「学問を愛し、才色兼備と謡われる蔦ならば、あの馬鹿息子を支えてくれると思ったものを、お前が小十郎の嫁にしたいと思うしたんじゃろうが」
「残念だったな!早い者勝ちだ」
「抜かせ!」
大人げない口喧嘩をする二人に喜多は呆れていたが、その一方で蔦はこの二人にも一目置かれると程の女子なのかと驚きを隠せない。
「左月様、蔦殿はそれ程の女子なのですか」
「お前ごときには解るまい、蔦は五年前に恐ろしい病にかかった重定を掬ったのだ。当時その病は医師ですら治す事は不可能と言われた」
「お前も知っておろう。五年前に漁師達を中心に蝕んだ病を」
今から五年前伊達良ではある病で多くの民が命を失った。
当時医師達は手立てがなく、漢方を用意したが治す方法は見つからなかったが、ただ一人回復したのが矢内重定だった。
「当時、まだ十一だった蔦は父親を救うべく、父親の看病をした後に奇跡が起きたが…病の原因を突き止めたのじゃ」
「当時はではまだ解っていなかったが、病にかかった民の原因を調べると共通点があり、蔦は早い段階に気づき、病を治す方法を見つけたんじゃ」
「なんと…」
早熟すぎると言えばそれまでだが、見つけるまでにどれだけの苦労をしたのか解らなかった。
「下級武家では侍医を呼ぶのも難しい、当時は不作も続き貧困していたからな。そんな中でも蔦は諦めずに父親の命を守ったのじゃ」
「その功績を買ったのが実元様じゃ」
伊達輝宗の伯父に当たる人物で、領民からも慕われる程の人当たりの良い人物だった。
「実元様は蔦の才を早い段階に見抜き、時宗丸様の世話係を任せたのじゃ」
「当時の時宗丸様は手の付けられないわんぱく故に、困っておられたからな」
大森城の次期当主であり、輝宗の甥となる。
幼少期から手が付けられない程の我儘で乳母を困らせ、侍女を泣かせていた。
おかげで綱元以外の世話役は逃げてしまったのだ。
「しかも時宗丸様は偏食家で女中の食事も食べられなかったらしいが、蔦の作る飯は食べていたそうだ。まぁ後から解ったんだが…蔦の料理の腕は伊達家専属の料理番よりも上だ」
「知りませんでした。蔦殿がそれ程優秀だったとは」
「しかし何故そのような方が」
左月と基信の言葉を聞いて余計に解らないのが、蔦が縁談を断られた件だ。
「蔦の許嫁は放蕩息子で母親に甘やかされ育ったらしい。対する蔦は早くに母親を亡くし、一時は家が貧しかった事から馬鹿にされ見下されている」
「不愉快な話よの…散々蔦に世話になり、結納金は既に使って返せぬと言う始末。挙句に蔦の悪い噂を流し、非は蔦にあることにしておるのだから」
男としても人としても許せない行為に小十郎の目つきが鋭くなる。
何故蔦がこんな酷い仕打ちを受けなくてはならないのか、何故なんのお咎めもないのか。
「小十郎、蔦は尼になり家を出る覚悟しておった。しかし!」
「蔦程の人材を失う事は伊達家にとってもかなりの損失じゃ、良いな?妻として愛せとは言わぬ、しかし妻としての尊厳を守れ」
「ハッ!」
小十郎は二人の命令に頷いたのだった。
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