第4話家族会議
「馬鹿者が!」
皆様がお帰りになった後、言うまでもなく父上の雷が落ちたのだった。
「しかし父上」
「お前は跡継ぎなのだぞ!矢内家を潰す気か」
隼人の無謀な行動は下手すれば矢内家だけでなく静の実家の遠野家も道ずれにしたかもしれないのだから。
「例えどうであっても、私だけ残っても矢内家は潰れます」
「そんな考えでどうするのだ!蔦の気持ちを踏みにじろうとしたのだぞ」
「ですが父上様、矢内家を今日までお守りくださったのは何方です?姉上様ではありませんか」
静は昔から私を過大評価していた。
確かに一時は家計が厳しく、米すら買えない時期に私は節約を重ねて飢え死にしないように行動した。
けれど、前世の知識と、少し教養のある人間ならば思いつく物だった。
「父上、私は嫌です」
「これは主命じゃ。拒否権はない」
「片倉殿を信用できません。若君の守役というだけで身分もなく、苦労するのは目に見えています。しかも後ろ盾が欲しいが為に姉上とだなんて!」
「口を慎め。我らに拒否権はない…と言いたいが。若君の守役で喜多殿の弟君ならいずれ名のある武士になるであろうな」
「父上?」
隼人の言葉を否定することなく告げた言葉は、普段の父上ではありえない事だった。
「いずれ片倉殿が出世すれば側室を持つであろう…場合によれば新たな妻を迎えられる可能性もある」
「なっ!」
「いうなればこの婚姻は政略結婚であり契約結婚じゃ」
真面目な父上がこんな事を言う日が来るなんて夢にも思わなかった。
「それでは姉上様は!」
「あくまで憶測じゃ。しかし殿が片倉殿に後ろ盾を与えたいと言う事は可能性がある」
やはり形だけでも妻が必要だと言う事か。
「蔦、お前はどうしたい?」
「私はもう何方にも嫁ぐ気はありません。余生は可愛い甥か姪の世話をしてその後は尼にでもなりとうございました」
「そうか…」
「ですから、片倉様が私が不要になった時は出家したいと思います」
殿様の命令ではどうにもならない。
断れば矢内家がどうなるか解ったものではないし。
「それに、片倉様は悪い方ではないと思います」
「姉上?」
「少なくとも父上以上に真面目な方です。あの方のような不義はなさいますまい。それに恩を売ることもできますわ」
「「「え!」」」
よく考えればお飾り妻として役目を果たし、側室を迎えたらでしゃばらずにいればいい。
後妻を迎えるならば潔く身を引けば問題ない。
史実では子供を授かったのは28歳とされているということはだ。
夜のお勤めも少なかったはず。
「片倉様は若君が奥方を迎え子を授かるまでご自分の子は要らぬいいそうですわ。子がいなければ離縁しても何の問題もありませぬ。それに多少の見返りも求めることができますわ」
「蔦…」
「姉上、なんて腹黒い事を」
「姉上様」
「戦国の世は上手く立ち回った方が勝ちです」
もしかしたら初夜も無しで形だけの夫婦という可能性もあるわ。
前世で結婚で痛い思いをしているから、現世では一人で生きていくわ。
こうしてひとまず家族会議は無事に終えることができたのだった。
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