第2話縁談

あっけなく死んだと思えば第二の人生は戦国時代でした。



矢内蔦15歳。

父は奥州伊達領地内の検断職をしている。


下級武家であるが中間管理職の立場いて家はそれなりに裕福だった。

母は早くに他界しているけど、慎ましやかな生活を送りながら不満もなかった。




そう、少し前までは。


「縁談ですか?」


「ああ、そなたの娘、蔦殿に縁談話がある」


「しかし…」



幼少期からお付き合いのある鬼庭左月様。

伊達家重鎮でもある方で、我が家にも足を運ばれることが多い。



互いの理由は駆け込み寺代わりなのだけど。



「しかし娘は…」


ちらりと私を見る父上の言いたいことは解る。

この時代では女性の結婚適齢期は十五歳から十八歳ぐらいになる。


ただ私の場合問題がある。



「蔦は先日婚約が破談になった身でして」


「それは聞いておる。何でも奉公に来ている娘と恋仲になったと。その所為で蔦殿は町にでも後ろ指を指されておると」



そうです。

他家でも婚約が破談になる事はあります。


ですが私の場合は下級武家の娘。

しかも父の仕事は町の警備をしているので出世に関わるので、世間てもよろしくない。



なので私は人目を気にして静かに過ごしていたのに。


今さら?



「蔦殿は器量も良く、武家の心得を熟知し。質素倹約に務める良き女子じゃ」


「ありがとうございます。ですが、それ故に蔦は先方に破談とされたのです。武家の娘の癖に貧乏くさいと」


父上の表情が変わった。

今でも怒っているのが解るけど、もう終わった事。



それに私は結婚前で良かったと思っている。

前世でモラハラ男に苦しめられた記憶があるので来世だけは優しい人に嫁ぎたい。



外見や経歴で判断するのではなく、心ある人と。



「痛ましい事よな…大事な一人娘を侮辱されて」


「ですので、娘には幸せになって欲しいのです」


普通なら勘当されるか家から出されるのに、父は私を追い出さなかった。


奉公先を探して勘当してもらうつもりだったのに、怒られてしまった。


親の縁を切るとは何事かと。



「百姓でも良いのです。妻の矜持を守ってくれる男ならば身分は問いません」


「下級とは言え、そなたは何代も続く武家の家柄であるのだぞ!」


「娘を不幸にする男に嫁がせるぐらいなら!」



早くに母を亡くした事もあり父はかなりの娘命だった。

母の代わりに幼少期から奥の仕事をしていたこともあるので申し訳ないと思っているのだろう。



「父上、私は大丈夫です。むしろ、結婚してから不義を働かれては、父上の名に傷がつきます」


あの男の事だから、罪を犯してももみ消せとかいいそうだわ。

早々に関係を切れて安堵しているし、支度金目当てだった事も解ったし。


清々しているわ。

前世でも私は夫にモアハラを受けたのだから。


来世はモアハラはごめん被るわ!



「申し訳ありませんが、今回の縁談はお断りさせていただきます」


父上が頭を下げてお断りをしようとした時だった。



「相手は若君の側近じゃ!どうか頼む」


父上の言葉を遮るように現れたのはもう一人の伊達家の古株の家臣だった。




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