第7話 身勝手な傾奇者

 あれから三年、あっという間だな。


 あの後、俺はコンビニや短期のアルバイトを必死でして、何とか大学卒業までに周りの人への借金を返し終えた。その結果、まっさらな状態で社会人になれたのだ。


 仕事に関して言えば、IT系エンジニアとして、多忙ながらも充実した日々を過ごしている。だから、あの時以降、パチンコをきっぱりと止め続けられているのだろう。


 ただ、恋愛に関しては……。一年前に彼女と別れて以降、ずっと独り身。彩のない日々だ。


 ――だが、そんな日々も、お別れだ。


 全ての始まりは、友人の直江なおえからの連絡だった。


 直江は俺の大学時代の同級生だ。お互いに生まれも育ちも新潟なことが手伝い、俺達二人は出会ってすぐに意気投合した。ちなみに俺にパチンコを教えた友人でもある。


 大学卒業後、俺は新潟県内で就職したが、直江は大阪で就職した。それでも、俺達の仲は変わらず、今でも頻繁に連絡を取り合っている。そして、一昨日、彼から電話があった。


前田まえだ、元気にしとるか?」


「ああ、してる。そっちは?」


「勿論、元気よ! ハハハ!」


 直江は大阪で不動産営業の仕事をしているので、関西弁でのコミュニケーションが必須なのだろう。彼と話すたびにまた関西弁が流暢りゅうちょうになったなという印象を受ける。


「ところで話は変わるけどな、オミクロン株の影響で正月はそっちに帰れそうにないんよ」


「そうか、残念だな」


「そうよ、残念なんよ。一緒にあの店の最期に立ち合いたかったんやけどな」


「あの店って?」


「ほら、あのパチ屋よ。お前とよく一緒にいったやん。思い出したか? 俺よりお前の方が贔屓えこひいきにしとったぞ」


「ああ、あの店のことか。よくお前、そんな情報仕入れているなあ」


「あのお店のLINE登録しとったからな。でな、あのお店、正月過ぎに店閉めるって通知来たんよ。それで急に寂しなってな。――てなわけで、俺の分まで見届け頼むわ」


「ええっ、何で俺が⁉️」


「そりゃあ、俺は行けないんやし。懐かしの場所の画像を一枚頼むわ」


「……仕方ないな。いい画像撮って送るよ」


「そっか、悪いな。久しぶりにパチンコ打って、仰山出してこいよ」


「まあ、打つのは気が向いたらにするよ。じゃあ、またな」


「おう! そっちも元気でな!」


 こういったやりとりがあって、俺は年末にもかかわらず、行きつけだったパチンコ店へ久しぶりに訪れた。


 年末だから大抵の人は仕事休みだろう。なのに、午前とはいえ、店の中の客は俺を含めて四人だけ……閑古鳥が鳴いていた。


 まあ思い返してみれば、俺がよく通っていた頃から、この店は客入りの方で苦戦していた。そんな折、このコロナ禍だ。店の体力が続かなくても仕方がないだろう。


 パチンコを打つのを止めた身なれど、これも何かの縁。折角だから、と俺は一万円だけお賽銭おさいせんをすることにした。――当然、お気に入りだった機種に。


 そんな勝ち負けに執着しない姿勢で打つと、不思議なもので馬鹿みたいに当たりを引いていった。


 勝とうと思えば大抵が負け、遊びと割り切れば何故か勝つ……パチンコは身勝手な傾奇者かぶきものの極みだとつくづく実感した。

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