第5話 パチンコ店にいる美人は大抵彼氏持ち

 翌日、俺は前日と同じ店に開店直後の午前十時過ぎから訪れた。前日と同じ台の座席に座ると、すぐに遊技を開始した。


 勝てる――根拠のない自信が、俺の心の中で反芻していた。


 だが、そうは問屋とんやおろさなかった。


 大当たりを期待できそうな予告、リーチを悉く外していった。やっとの思いで当たりが引けても単発ばかりで、僅かな出玉しか獲得できなかった。データカウンターの折れ線グラフは、数か所の気休め程度の小山を除けば、右肩下がりの一途を辿っていった。


「おかしい……こんな筈では……」


 最後の一万円を投資しようとする直前、漠然とした勝利への絶対的な自信に陰りが生じた。そこから、負ける、というドス黒いネガティブ感情が一気に支配進行していった。


「気持ちで負けているようでは、流れを引き寄せられる筈がない……」


 と思った俺は休憩を取ることにした。


 席を立ち、気晴らしに他の台のデータを見ようと、俺はしけた面で島を見て回った。すると、まだ昼過ぎなのに二万発は優に出していた白髪のオジサンがいた。俺はそのオジサンの顔色をチラリと伺った。


 ――破顔一笑はがんいっしょうだった。


 気晴らしどころか、更にガックリと肩を落とすハメになった……。


 そんなしょんぼりした様のまま、俺はトイレに向かった。そして、洗面台で顔を何度も洗った。パチンコ店特有のヤニの臭い以上に、体に染み着いた悪い流れを洗い落としたかったのだ。


 洗面を済ませ、台に戻った。すると、朝からずっと無人だった俺の左隣の台に、いつの間にか人が座っていた。俺と同じぐらいの年頃で、目鼻立ちがハッキリした金髪の女の人だった。


 大学内やバイト先で出会えば思わずとろけてしまいそうな程の美人だったが、俺は意識を深く傾けなかった。


 何故なら、色恋にうつつをぬかしている場合ではなかったし、美人だからこそ、見えない彼氏の影がはっきり映るのだ。それだけ、パチンコ店に来る女性の動機として、付き添いの割合が高いのだ。今、この場にそれらしき姿がなくても、必ず後からやって来るものなのだ。――俺の経験談だ。何度一人ときめき、何度一人ガッカリしたことか。だからこそ、俺は鼻の下を伸ばさなかった…多分。


 閉眼して深呼吸、そして開眼。俺は再び、前方の台だけに意識を注いだ。

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