第4話 奇跡
「負けたんだな」
俺は自然にポツリと呟いた。この時の俺は真っ白な
最後の礼として、俺は何時も以上に身の回りを綺麗に片付けてから店を出ようとした。パチンコ台周りに飛び散った煙草の白灰を、手持ちのウェットティッシュで綺麗に拭き取った。足元や煙草の灰皿付近に転がっていた数個の銀玉を拾い集めた。それを台の上皿に流し、お返ししますとばかりにハンドルを適当に回して、パチンコ盤面へ射出した。
これぐらいでいいか、と思った俺は帰ろうとして席を立った。
「ボキョキョキョゥィイイン」
適当に射出した銀玉がヘソに入って、液晶が始動したのだろう。盤面から突然けたたましいシステム音がした。
「……まさか⁉」
と俺は席を立ったまま液晶画面を確認した。
――保留の色が金色だった。
「マジかよ……これ、当たるんじゃね⁉」
俺は目をパチクリさせながら、席に座り直した。この機種における金保留は信頼度約80%、激アツ中の激アツ予告だ。
結果は……大当たり。
にわかに信じられなかった。自ら招きしイバラな現実に踏み入れる寸前だった。そんな俺の目の前に突如現れた、理想の未来への道。それは途中で
「奇跡だ」
当たりを積みかさねていく最中、俺は何度もそう呟いたのを鮮明に覚えている。最後の最後で逆転ホームラン。劇的にも程があった。そして、自身をこう捉えたのだ。
――奇跡の男、と。
俺は神に愛されている――
俺は神の息吹を感じられる――カルト教団の信者みたいだった。
明日も必ず勝てる――この日で引退の筈なのに方向転換。懲りない男だった……俺は。
都合なら幾らでもついた。当時の俺は大学生四年生で、就活は既に終えていた。単位も卒論以外は取り終えていた。研究室には一日ぐらい行かなくても問題はなかった。
出玉の交換を終え、店を出たのは深夜の十一時。寝坊だけが唯一の敵、と俺は思い、寄り道せず真っ直ぐに家へ帰った。
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