第1章 第13話
◇ ◇ ◇
「スティ。上の空ね、どうしたの?」
「え?、あ、あぁっ! モニカさん。何が?」
呆然としていた俺は、モニカさんの声ではっと意識を取り戻す。
ここはルシア社の俺のデスクで、現在時刻は昼休みだった。
机には魔術式の仕様が書かれた書類が積み重なっており、私物である通信魔法の魔道具……メディアチューナーからニュース音声が流れている。
「何がじゃないわよ。朝からずっとそうじゃない」
「……あー、ゴメンね。友達の事でちょっと」
モニカさんは上の空の俺を心配して、声をかけてくれた様だ。
彼女の手には天界の水をゼリーにした完全栄養食があるが、半ば食べ終えている。
なのに俺の机には、全く手をつけていない弁当があった。
時計を見ると……昼休憩の終わりまで時間が無い。
「体調が悪いの?」
「いやぁ違うんだ。最近どうもね……」
「例の友達の事よね? 良かったら話を聞くわ」
モニカさんは優しい人だ。誰かが困ってたら力になろうとする。
それに俺よりも頭も気立ても良い。相談相手にはもってこいだろう。
「実は俺の友達が、何かしてるみたいなんだ。だけど何をしてるのか分からなくて」
「何かって、どういう事?」
「大きな事をしてるみたい。法律についても調べてた」
「そう……直接聞いてみたらどうかしら」
「聞いて見たんだけど、驚かせたいって教えてくれないんだよ」
「うーん……スティはどうしたいの? 要領が掴めないわ」
その子が大きな事をしてるのに、教えてくれないから寂しいのか。
その子が大きな事をしてるのに、教えられてないのが不安なのか。
何となく気になるだけなのか。
モニカさんがツラツラと述べた、俺の心境の可能性。
だが……どれも俺にはしっくりこなかった。
「それ次第で、あなたがする事は変わってくると思うの」
「そうかな……そうかも」
「さぁ。後で話は聞いてあげるから、ご飯だけでも食べたら?」
「うん。分かった」
食べながら考えようと、フォークで弁当の中身を突いて口に頬張った。
前だったら店売りの商品やら夕飯の残りを詰め込んだ弁当だったが……アカネさんが来てからは弁当も一工夫している。
野菜炒めを頬張っていると、不意に聞き慣れた声が聞こえた。
「あれ、アカネさん……?」
周囲を見渡すが、見えるのはタオルを顔にかけて居眠りしてる十人長。
後は事務員のおばちゃん達くらいで、当然ながらアカネさんの姿は無い。
視線を弁当に戻すと、またもや彼女の声が聞こえた。
『良いかね。多くの言葉で少しを語るのではなく、少しの言葉で多くを語るべきさ』
声の発生源はメディアチューナーからだった。
何故か分からないが、情報番組にアカネさんが出ている。
先程の発言はリポーターの人から、アカネさんの行ってる事業について説明を頼まれた回答の様だ、得意げなアカネさんの顔が思い浮かぶ。
リポーターさんは苦笑いをしながら、自分でアカネさんの事業の説明を始めた。
最初はフィギュアの様な小さな創作から始め、あっという間に家庭魔道具のデザインを嗜み……遂には新技術を開発したという。
『そう。それが科学だ。おい、何故笑う』
タハハとリポーターや周囲の人の笑い声がメディアチューナーから聞こえ、アカネさんの不機嫌な声が続く。
『これはボクが開発した本物の科学製品だ。映画や小説の中にしか存在しない画期的な商品なんだぞ』
その後にアカネさんが商品説明を始めたが、俺にはそんな事はどうでも良かった。
「十人長! すみませんっ、早退させて下さいっ」
「はぁっ!? 午後からの仕事どうなるんだよっ!」
「家が火事になりそうなんですっ!」
「はぁぁっ!?」
俺が行かせて下さい! とカスパル十人長に勢いよく詰め寄ると、彼はもにょもにょと口を動かした後に小さく頷いてくれた。
「モニカさん、ごめんっ! さっきの約束また今度でっ!」
「えぇっ!? スティ、何処行くのよっ!」
「家が火事になりそうなんだよぉっ!」
「お昼ご飯どうするのっ!」
本当、マジでそれどころじゃないからぁっ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます