第1章 第12話
◇ ◇ ◇
ボク。庄崎朱音(しょうざき・あかね)は天才である。
地球では生まれ持った頭脳と美貌で、雑誌やニュースでひっきりなしに注目されていた。
化学賞なんて、幾らとったか分からない。
そんなボクだが、ある実験で異世界であるイノセンスに転移してしまった。
今はお人好しの大家君の家に下宿しながら、帰還する為の手段を探している。
が……何はともあれ金が無いと始まらない。
なのでボクは大家君の持つ不動産の軒先を借りて、日々の事業に励んでいる。
「店員さんっ!マギストーブ。1つ頂戴」
「毎度あり。後コレの名前はマギコンロだ。値段は前払いで宝石2個だよ」
「金貨で良い? 宝石持ち歩くの怖くて」
「構わないよ。あぁ、異世界の財布も売ってるけどどうだい?」
「えぇっ!? 本当ですかっ」
イノセンスで使われてる道具を、地球のデザインに変えて売っている。
これが馬鹿売れした。
まぁ当然だろう……ボクは天才。庄崎朱音だからね。
勿論、転移先の生活に驚く事やら、世界の法則が違うせいで戸惑う事も多い……。
だが比較的、幸せな毎日を送っている。
「にしても、本当にボクって……天才だなぁ」
一般人達がボクが発明したり、デザインした商品を大喜びで買っていく。
この世界は現代社会構造をしている癖に、商業権という言葉が無い。
だからボクは商売の売り上げの全てを注いで、更なる事業の拡大ができた。
「次はどんな商品を作ろうか」
「あのぉ……」
ボクが思案しているというのに、邪魔する奴に声をかけられる。
ガレージの外から顔を出した顔は、見覚えのある顔だった。
ボクが大家君の為に作ったヘリコプターを欲しがった、SFファンのおじさんだ。
「やぁ、良く来たね。何か欲しいモノでもあるのかい?」
「ああいや、独り言が聞こえたので。話しかけたんズ」
おじさんの訛り方は特徴的だ。
大家君が言うには、人間? ヒュージン?……まぁボクらとは違う種族らしい。
トロール種の血が混ざってると言っていた。
「新商品、出ズんズ? 次に何を作るのか聞きたいんズ」
「ぁー、まだ考えてる所だけど。一週間もあれば原案は出来るよ。そしたら教えようか」
「おぉっ。アカネ先生は本当に、SFの造詣深い人ズ。次も楽しみにしてズ」
良い気分になったボクは、初ファンであるおじさんにサービスをする事にした。
次にボクが作る商品のリクエスト権である。
おじさんに聞いて見ると、暫く考え込む。
「そうだズゥ……乗物とか?」
「車かい? 見た目だけを似せてもなぁ」
「むぅ……先生の作品は中身が良く出来てるのが売りズ。いっそ中身まで造り込んだ一品モノでも売れると思いズ」
彼の言葉は購買者の貴重な意見である。出来れば取り入れたい。
成程……一品モノの高価な商品か。
大量生産で釣るのも良いけど……懐の温かい相手を集めるには、真似の出来ない商品を作るのが一番だろう。
そこまで考えた時、脳裏に閃光が走る。
「良い意見だ。ワトソン君」
「ワトソン? 誰ズ」
「よーし、早速開発を急ごうじゃないかっ! ありがとう、新商品を楽しみにしてい給え!」
「だから、ワトソンって誰ズ?」
ボクはガレージに引っ込むと、図面を引っ張り出して開発に勤しむことにした。
大革命となるだろう発明品だが、今まで作って来た様な科学的に良く分かってないこの世界の物理法則を調べたり、宗教的禁忌を調べるより遙かに簡単である。
この世界の誰もが数百年、千年かかるだろう開発だろうとボクなら一ヶ月でできる。
何故なら既に図面はこの頭の中にある。
ボクは図面に線を引きながら、新たなる商品名を書き込む。
地球では見慣れた……だけどこの世界では全く新たな単語。
『豆電球』という科学製品の名前を。
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