第十話 「キミは寝てはならない」


 「夜型になっちゃった」


 「ハァァ?あんたナニ言ってるの?自覚あるの?」


 俺の告白をリンカがなじる。まったくその通りなので反論できない。


 前回の魔物化から三日目の昼。三人が集まったところで、俺は眠い目をこすりながら言った。


 そう、もう眠いのだ。


 「でも、今寝てしまうと昼間に魔物になってしまう可能性がありますよね」


 「それ超マズイでしょ。真っ昼間に現れて暴れたら。隠蔽魔法でもどうにもならない、完全に怪獣ショーだよ」


 吐息もエリも昼間の戦闘がやばいというのは分かっている。俺も分かっているのだが…


 「フワァ~」


 「アクビすな!」


 リンカのチョップが入りアクビが中断される。心配顔の吐息が尋ねる。


 「なんで寝る時間がずれたんですか?」


 「仕事を無駄に頑張りすぎてね…気付いたら時計がずれてた」


 「落土の仕事より魔物の方を優先してよ!」


 エリに突っ込まれるように、世間的には俺の仕事なんかより、魔物化の被害の方が重要なのだ…。


 「でも、落谷さんにも生活があるし…」


 優しい吐息はフォローしてくれたが語尾は弱くなる。


 「でも、寝かさなきゃいいんでしょ。今から夜の十一時まで!たった九時間よ!」


 「そういうこと、今日は君たちに寝ずの番ではなく、寝かさずの番をしてもらいたいってわけ」




 「じゃあ、コーヒー淹れてきますね」


 「甘いわよ、吐息!今時そんなものが通用する眠気はない!エナジードリンクってやつを買ってきましょう!」


 ドタドタと出ていく二人。俺とエリだけが残された。俺は起床してから三十時間が経過していた。


 「眠いの?」


 「若い頃は徹夜とか平気だったけど、年取るとダメだね…エリちゃんも三十になった時、俺の言葉を思い出して、あの人は正しかったって思ってくれ…ところであの二人、仲良くなったな」


 「そうだね~、もともと付き合いは長かったし。リンカが積極的にちょっかいかけ続けたから…そういえばこの間、山から帰ってきた時、三人すっごいくっついてたね。あれが原因なのかな」


 言われてギクリとする、思い出すのは二人の胸の豊かさと柔らかさと肌質、汗の匂いの違いの詳細な情報と、何度も墜落死を食らったひどい記憶だけだ。


 「まあ、喧嘩するほど仲がいいっていうし…」


 俺は適当に誤魔化すことにした。


 「話してても眠くなるだけだよ、ナニかしないと…そだ!肩もんであげる」 


 そういうとエリは有無をいわさず俺の肩もみを始めた。俺の背に回り、細くて長い指が俺の方をもみほぐす。しばらく揉んでいるとエリが


 「わたしのお父さん、小さい頃いなくなって、それから家はずっと女だけ。お母さんとお婆さんと私。そんなに寂しくなかったけど。お父さんいたらどんな感じかな~ってずっと思ってて…」


 その思いが彼女の指に込められていた。


 「じゃあ、俺のことを偽お父さんだと思って揉んでくれ!」


 「うん、偽お父さん!」


 実際、家族も娘もない俺が父親扱いされるのはかなり抵抗があるが、ウソの一つも付き合えないでなにが大人だ。エリは揉みながら偽お父さんに痛くないか?効いているかを聞いてくる。俺はそれに答えてお父さんのフリを続けた。


 「お父さん、肩こりすぎ~」


 と和気あいあいしているところを、帰ってきた吐息とリンカに見られた。


 両者ともにかなり引いているのが見て分かった。俺はお父さん演技が続いていたせいか、


 「いや、これには訳というものがあるのだよ」


 と中年喋りで誤解を解こうとしたが。エリが後ろから手を回して抱きつき、二人に向かって。


 「あ~お父さん~、お姉ちゃん達が帰って来たねざ~んねん、続きはまたこ・ん・ど」


 先程までの清純な娘は消え、急に小悪魔娘を演じたので台無しになった。


 二人が俺を、汚らわしいものを見る目で見ていた。




 二人が買ってきた、値段の張る栄養ドリンクを飲む。とにかく「眠気」と書いてある商品を買ってきたようだ。高校生が手にするようなことがない、大人向けのドリンクだ。


 じつは事前にドリンクの類はたっぷり飲んでいたため、コレ飲んだら致死量じゃねぇかなと思いながら飲み干した。


 レシートをもらって、後でお金は返しておこう。




 ネットで調べていた吐息が、なにか見つけて喜んだ声で言った。


 「マッサージ!」


 最近、この子がなにを考えているのか分かり始めてきた。




 座布団に座った俺の右手をリンカが、左手を吐息が握っている。


 「眠気を抑えるツボが手のひらにいくつもあるんです」


 「どこどこ?」


 リンカが吐息の手の位置を真似る。片手ずつ女の子の両手に握られていい気分だが、嫌な予感しかしない。


 「えっと、ココ!」


 「イッッ」


 痛みに顔がひきつる。


 「眠気覚ましのためです、我慢してください。男性でしょ」


 「いや、男も女も神経網も神経伝達物質も変わりはないから」


 「ここね、」


 「ィイッツ」


 リンカのも吐息と同じ痛みだった。


 しかし、吐息が言ったように我慢はしなくては、彼女たちは俺のためにがんバ…


 「イッテ!」


 「イテッ!」


 続けざまに二発。両手からのダメージを受けた。彼女たちはもう俺の顔を見てない。俺の手のひらにあると言われているツボを見つけんと、力強く押しまくる。ついに限界が来た


 「イッテー!」


 「よし!私の勝ち」


 悲鳴を上げさせたリンカが勝利宣言する。この二人、何かというと俺を使って勝負する。


 「大丈夫ですか?目、覚めました?」


 吐息が顔を間近に近づけて聞いてきた。俺の手は彼女に握られたまま、彼女の胸の中だ。


 「ああ、大丈夫、ありがと」


 俺はクマのある目でそう答えた。イエスと答えない限り続く拷問なのだ、イエスというに決まっている。


 「あと、足にもいっぱいツボがあるんです!」


 彼女はほんとうに可愛かった。可愛く拷問続行を告げてきた。


 正座した二人の美少女の膝に自分の足を乗っけるのは王族気分であった。その足首を二人の美少女が両手で掴み、自分の胸に引っ張り上げる。俺の足の指は彼女たちの胸の中に突入し、足の指だけが天国に突入する。


 その下の足の裏から、激痛の信号が送られ続けた。


 「イィィィィ!」


 「むかし、こういう玩具あったな~」


 エリちゃんがなにを想像しているか、ジェネレーションギャップがあってわからないが、ろくな玩具じゃないことは確かだった。


 





 コレがいじめに見えるかもしれないが、そうではない、互いの同意があって行われているからだ。たしかに見た目は極めて不健全に見えるが、それは男女が行っているからそう見えるだけであって、誤解である。


 俺の背に乗ったリンカが俺に逆エビ固めをかけている。


 俺の腰と足が普段は曲がらない角度にまで絞り上げられている。新たなタイプの苦痛が俺の眠気にダメージを与えている!


 俺の体それ自体にも。 


 「ノオォォォ!」


 俺の苦悶の声。更に締め上げるリンカ。不安そうな吐息。囃し立てるエリ。


 リンカは俺のギブアップがないと見ると、すぐに技を変えてきた、足4の字固めだ。


 俺の足と長くて滑らかなリンカの足が複雑に絡み合った結果、俺の足は4の字に固められ苦痛が発生する。


 「わたし、弟とプロレスごっこしまくってたから得意なんだ」


 リンカの言った言葉が弱った脳内でリフレインする。甘く見ていた、プロレスごっこを!


 しかし、リンカはスカート姿であるため、俺の足が彼女のスカートの闇の中に突っ込まれていることは問題にならないのだろうか。俺は苦痛の中、そんなことばかりを考えていた。


 その後、キャメルクラッチ、チキンアームロック、ヘッドシザースと次々と技をくらい、俺はプロレス恐るべし、と痛みの中に沈んでいった。




 あやうく気絶して寝てしまうところだった。


 俺は今、両目をテープで開かされる拷問を受けている。まだ時刻は午後四時、十一時に睡眠が解禁されるまで、残り七時間も拷問が続く。


 今、その顔にメンソールを塗られようとしているが、吐息の指に乗せられた量はどう見ても多すぎる。


 「落谷さん、私、あなたのために鬼になります」


 「止めてくれ、君はいつものままの天使でいてくれ」


 俺の懇願も虚しく、鬼となった吐息は俺の目の周りと鼻の下と、首筋に塗りたくった。


 「ヒィィィ!」


 薬物の刺激に情けない悲鳴を上げる俺。


 「下手に寝たら、その瞬間に魔物になるかもしれないからね。一睡もさせないわよ」


 押さえつけているリンカも鬼のような事を言っている。


 そうだ、俺の僅かな睡眠欲のために人死が出るかもしれないんだ。俺には耐える義務がある…


 「まだだ、もっとやってくれ」


 赤い目で涙を流す俺を、吐息が感動した顔で見てくれた。


 「分かりました…あなただけを苦しめるような真似はしません。私も…」


 そう言って自分の鼻したにメンソールをちょびっと塗った。


 「ヒャ!」


 可愛く飛び跳ねた後、ティッシュで拭った。


 「…がんばりましょう、落谷さん!」


 さっきのはなかった事にしたようだ。




 「そうです、運動です!体を動かせば眠くなりません!」


 吐息がそう言うと自分のトーテムに了解をとり変身魔法を使った。他の二人もそれを見て続く。三人共に体操服姿に変わった。彼女たちが薄手のシャツにブルマ姿という現代の体操服でないのは、睡魔が極限に達している俺が見た幻なのであろう。


 無理やり立たされた俺は、彼女たちに体を押されてストレッチする。眠気に支配された俺は完全に操り人形だった。三人のブルマ姿の少女たちに、体を横に、斜めに、前に押される。慣れない運動で多少の汗はかくが、それよりも体が固くなった中年男性を押し引きしている少女たちのほうが汗をかいている。


 硬い男の体を押し曲げようと体重を乗せ体を押し付ける。汗に濡れたシャツが胸に張り付いている。俺は体を右に曲げられる時は吐息の胸に押され、リンカの胸に収まる。左に曲げられる時はその逆の現象が起こる。前に曲げる時は背中にエリの優しい胸とアバラ骨のコリコリとした感触を感じる。


 眠気で意識が飛んでいる状態で、昔の深夜放送のお色気コーナーみたいな状態を受け入れている俺がいた。色気よりも眠気である。眠いという欲望が全てに優先し、目の前の少女たちの健康的な姿にモヤをかけていた。少女たちのにぎやかな声が遠くに去っていく…。




 バチィっと頬を叩かれた。


 「やっぱり、最後はコレしかないか」


 危うく寝るところだった。体操着姿の少女に囲まれ、眠気の森から生還できた。


 「今の…リンカ?」


 「正解」


 気持ちのいいビンタだった。


 「じゃあ、次は吐息!」


 「ええ?」


 もはやこの場がどういう風に見られてもいい。やるべきことを全てやるまでだ。


 吐息は加減するかと思ったが、手首のスナップが効いた良い一撃をくれた。というか意識が飛びそうだった。


 エリは俺の両頬に両手を当てるとブブブブブと振動するように叩き続けた。痛みは無いが、愛らしく良い攻撃だ。


 「じゃあ次は私!」


 リンカがそう言いだした。二周目やるって言ってないのに…。


 三周目をギブアップした時、時間はようやく夜七時を超えていた。




 両頬が赤くなった俺が部屋の中央で立っている。立っていれば眠くならないだろうという、根本に立ち返ったのだが、その周囲を少女たちが取り囲んでいる。


 少女たちは変身魔法を次々と使い、吐息が水着姿、リンカは色々変わった末にブルマ姿に戻り、エリに至ってはバニーガール姿だ。普段おもちゃにできない魔法を存分に使って遊んでいる。この部屋だけで、俺の前だけで許された彼女たちの逸脱だ。その楽しみに浮かされて、彼女たちは薄っすらと汗ばみ、頬も紅潮したままだ。


 部屋の中が、熱い。


 俺の周囲を囲んだ彼女たちの胸がこちらに向かって伸びている。周囲を危険な胸で囲まれた状態だ。下手にふらつけば胸が触れてしまう、決して油断できない状況だ。


 俺がふらつくと、少女たちが胸で押し返す。そんな無言な押し合いっこを三十分以上続けていた。さすがにこれはどうなのだろう。非常時においても異常じゃないかな、と思った俺は代解案を言ってみた。


 「そういえば俺、一度も君たちの変身するところを見てない。一回見せてくれない?」


 そう言われて少女たちは「え~、それは~どうかな~」と三人共に目線を合わせて遠慮がちだが、その言葉の中に「見せたい」という感触があることを感じた俺は


 「ね、せっかくだから…ちょっとだけでいいから…」


と、モテる男が言いそうなセリフを言ってみた。生まれて初めて女性に言った言葉だった。


 「じゃあ、今回だけ、特別ですよ」


 フィクションの中で、女性がよく言うセリフを、俺は産まれて初めて聞いた。




 俺の周囲を囲んでいた少女たちが「変身」の合図とともに輝き出す。着ていた衣服が光に溶け出し、生まれたままの姿になる。三者三様の美がそこに現れた。つい先程まで服を着て立っていた時、彼女たちは美少女であっても日常の存在であった。その日常という殻が一瞬にして溶け消え、彼女たちの存在を大きく拡張した姿に変わる。可愛い、美しい、愛らしい、素敵、そういった要素が加速し限界を迎えると、生まれるものは


  神々しい


 神々しく光る裸体が俺の周囲を回っている。恐らく普段はここまで踊るような動きはしないのではないか、初見の俺がそう思うほど彼女たちは俺の回りを回転し踊り続ける。まるで俺に見せつけるように。


 吐息が束縛から開放された胸を俺の方に振り向かせ突きつける。


 リンカが大きく足を振り上げ、俺の前で回転する。


 腰を突き出したエリが背中を大きくのけぞらせ、下から俺を見上げる。


 少女たちが見せつけるように廻り、開放された肉体が弾かれたように揺れる。光の筋が流水のように廻り、彼女たちをしばり、新しい姿に生まれ変わらせる。様々な色が部屋中を塗り替え、俺を輝く少女たちが包み込む。


 ついに変身が完了した。


 三人の魔法少女が俺の前に並んで立っていた。


 三人共に愛らしく可愛らしく、素敵だった。


 魔法少女特有の薄布と限られた装飾品が彼達の体を引き立てて飾り立てている。日常着る衣装では到底無い。彼女たちの決意の姿だ。


 普段その姿を見るのは、俺が倒された後の数分だけだったので、こうして改めてまじまじと見るのは初めてだ。しかも場所は自分の部屋である。まるで、なにかいかがわしいサービスで呼んだような、異様な状況でもあった。


 「あの、そんなに怖い目で見られると、恥ずかしいです」


 「メンソールのせいだよ」


 実際、俺の目が赤いのはそのせいだ。目の周囲に塗るものではない。だが、こんなにマジマジと見られるチャンスももうないだろう。しっかりと見ておかないと…。


 吐息は三人の中で一番照れが大きい。モジモジとした動きをするが、それが彼女の胸を押さえつける形になり、胸の尖りは高く、谷間はより深くなる。頬や肩の赤らみがまた初々しい。勇気を出して、腕を外し体の前面を開く。どんどんと呼吸が荒くなっていくのが分かる。みぞおちが動き、肋骨が膨らみ、胸が波のように揺れ続ける。こちらの視線を常に追い続け、俺の視線の当たる場所がどんどんと赤みが増して熱を放っている。胸もうっすら赤く、お腹も薄っすらと、両太ももも同じ様に赤くなる。俺の視線に焼かれる様に、真っ白な肌に朱が差し込まれていく。その肌よりも吐息の顔は赤くなり、瞳は潤み始めている。


 「回ってみて」


 やさしくお願いすると、ゆっくりと回転してくれた。大きく開いた背中が見えた。白くてなめらか、緩やかな筋肉の窪みにすこし盛り上がった肩甲骨。うっすらと汗ばみ、緊張のせいか少し震えている。お尻は大きく、シミひとつない白さ。先程まで履いていたはずの下着の締付け跡もない。今日一日全裸で過ごしていたかのようだ。傍で見ると量感がすごかった。それ以上見ていると、泣いちゃいそうなのでリンカに目線を移した。


 リンカは足元から眺めた。畳の上にハイヒールという出で立ちだ。細い足首、今、彼女は足の位置を変え、俺に見せつけるように足を前に出した。その足を凝視する俺。首を曲げ視線を下に下ろすと、彼女の自慢げな表情が目に浮かぶ。吐息とは違い余裕あるリンカは何度も足を動かし立ち姿を変える。視線を下げている俺の頭頂部あたりで揺れ動くリンカの胸の重力を感じた。彼女の足は自在な曲線を描く。細い足首・太いふくらはぎ、膝でまたすぼまり、太ももで大きく広がる。先程までなんどもこの太ももに挟まれていたのだ。その太ももの間に挟まれる股間は下着のような薄布で守られているだけだった。視線を感じて、お腹がかぴくんぴくんと跳ねた。おねだりされた気分でおへそに視線を移す。おへそを中心に彼女の腹筋は綺麗に筋を描いている。若い体の締まりの良さが体中に現れている。腰の細さも際立つ。吐息よりも臀部は大きいが腰の細さは吐息と同じくらいか。目の前に屋根を張っているかのような胸が見えてきた。吐息のゆっくりと流れるような胸の形に対して、リンカのは大きく膨れ横に広がっている。呼吸するたびに自重によって揺れている。胸の谷間越しにリンカの優越顔がちらつく。顔を近づけ見つめあう。そして視線をずらして彼女の首元に視線を這わせる。先日の噛みつきのお返しだ。彼女の首筋に顔を近づけ見つめ続けている。彼女の困惑と羞恥が耳の赤みとなって現れ始めた。あまりにも長く見つめていたせいか、隣の吐息が咳払いをして、不満を表した。見ている時間の長さが違いすぎると。


 待ちかねていたエリに視線を移す。前の二名が超高校級ボディーであるのに比較して彼女は極めて普通、普通にスレンダー美少女だが、それがまた良かった。熱された俺の眼球に爽やかな初物の果物のように、優しい体が差し出されていた。他の二人と見劣りするのが嫌なのか、ツンと胸を突き出す姿勢で、精一杯のアピールが愛らしかった。小ぶりだが小さいとは思わない胸。胸と胸の間に隙間があり繊細な肌がキラキラと光を反射している。スレンダーな体は女性らしい膨らみのために脂肪をすべて使ってしまったのか、うすく浮き出たアバラ、骨盤の突起が体のアクセントとして強調されている。薄く白い肌の下には静脈が見え、透明感を強調する。細いが健康的な足が小さな骨盤から生えている。


 「エイ!」


 くるっと可愛らしく回転してくれた。骨盤のサイズに合わせた慎ましいお尻が揺れる。背中の筋を鼻でなぞるように駆け上がる。彼女の匂いが鼻の中に広がる。小さな背中、思いっきり抱きしめたくなるが、なんとかこらえた。この小さな妖精をいつまでも部屋に置いておきたい。そんな危険な願望さえ生まれてくる。そんな俺の願望を見透かすかのように、後ろを振り返り横目で見る彼女の顔。綺麗な鼻筋と危険な小悪魔な唇。


 


 再び三人の正面に立った。


 最初とは空気が違った。部屋に熱がこもっていた。見せることの互いの許容がぐんぐんと拡大し、見せていい箇所もどんどんと広がった。見つめ続ける時間も、かいでいい匂いも。


 お互いの「許し」が拡大し、部屋中に広がっていた。この部屋にいる人間はこの空気に逆らえなくなっていた。


 もう三人共恥ずかしがってはいない、堂々と見せつけている。自分自身を。


 目覚まし時計が鳴った。


 その場にあった空気が一気に破壊された。羞恥の空気が吹き込まれ、平熱にまで下げられた。


 いつの間にか深夜十一時になっていた。セットしておいた終了の鐘が鳴ったのだ。


 三時間以上、こんな事をやっていたのか。


 完全に時間感覚が狂っていた。


 「じゃあ、寝よっか」


 俺は、魔が差すとはこのことだな、と思った。異質かつ異常な時間は去ったのだ。






 布団がひかれたが、三人の魔法少女は変身を解かぬまま、俺の寝る枕の回りに座っていた。


 「どうしたの、寝ないの?」


 俺が聞くと、吐息が


 「その、今、添い寝すると危ない感じがして…」


 とモゾモゾしながら言った。他の二人も同様のようだ。俺もそれには賛成だった。


 一人寝床につくと、俺の頭の回りに少女たちの膝と胸と見下ろす顔が見えた。


 「すっごく寝づらい…」


 先程までの異様な熱波を体験した後のクールダウンがあったため、眠気が減っていた。ある程度の山を超えると眠気は去ってしまうようだ。


 「あんまり眠くないです…」


 俺がそう告白すると


 「ハァァ?今までなんのために頑張ったと思ってるの!」


 リンカが怒り、吐息も静かに切れているのが分かった。エリはまだ先程の余韻のせいか、静かなままだった。


 俺はさっきの空気を懐かしみ提案してみた。


 「膝枕とかしてくれたら、寝れるかも」


 パキっと空気が割れる音がした気がした。


 「ハイハイ、膝枕ですね。いくらでもお安いご用ですよ」


 優しい吐息がそう言うと、自分の膝を俺の頭蓋骨に押し当てた。他の二人も同じ様に膝を頭に押し当てる。三人の膝の枕で俺の頭をガッチリとロックしたのち、


 ギリギリと押しつぶし始めた。


 三方から体重をかけられ悲鳴を上げる俺の頭蓋骨と俺自身。 


 「すんません!調子乗ってましたァー!」


 叫んだ俺は、気絶するように眠りに落ちた。実際に気絶したのだ。






 「寝てる…」


 現地に駆け付けた魔法少女三人を待っていたのは、立ったまま寝ている魔物であった。


 魔物の強い破壊本能を上回る落谷の睡眠欲求の勝利だった。


 「じゃあ、とっとと終わらせちゃいますか」


 エリの合図とともに三人の攻撃が掛け合わされ、魔物は何もすることなく粉砕された。


 魔物から取り出されても落谷は寝たままだった。


 「ほんと、しょうがない大人ですね」


 そういいながら彼の腕をとり自分の胸に抱きかかえる吐息。同じ様に彼を後ろから抱きかけるリンカ。足を持ち上げるエリ。


 三人に抱えられながら彼の自宅の寝床に運ばれる落谷。


 彼が起きていれば、その光景を


 「フランダースの犬の最終回みたいだな」


 と言っただろう。そして女子校生にはまったく通じずにショックを受けたはずだ。


 その意味でも、今日は彼にとって一番ラッキーな日だったのかもしれない。




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