エクストラ-01


 「その、引かないでほしいんだ」


 俺は何度もそう言いながら三人に部屋に入ってもらった。玄関から書庫の部屋を通って、最後の仕事部屋兼リビング兼寝床の部屋の、閉じられた襖の前に止まり、


 「見ても引かないでね」


と、吐息、エリ、リンカにお願いした。


 今日は俺の魔物化の予定日ではないが、夏休みなので三人ともいつも通り遊びに来たのだ。俺は彼女たちを玄関で引き止め、部屋のちょっとした模様替えに対して、心の準備をしてもらっていた。


 「何なの?畳をフローリングにでもしたの?」


 「いや、頼んでた商品が今朝届いてね、準備したら意外と見た目が…」


 俺は意を決して襖を開き、部屋の中身を三人に見せた。


 六畳部屋一杯に、二組の布団が並んで引かれていた。枕も二つ並び、ベッドサイドランプやティッシュなどアメニティーも完備している。


 「これは…」


 吐息がたじろいだ。


 「いや、いつも皆に掛け布団の上に寝てもらってて、良くないなって思ってたんだ。だからもう一組、みんなが使う用の布団を買ったんだけど」


 見た目が完全に夫婦の布団、カップルの布団…もしくは極めていかがわしい目的の部屋にしか見えない。


 「どうかな…?」


 顔を赤くしている吐息に尋ねてみたが、


 「布団だー!」


 エリが飛び出し広い布団に転がった。


 「合宿みたい!」


 エリの健全な意見。それを聞いて自分がいかがわしい事を考えすぎていたと気づいた吐息は、


 「そ、そうですね!合宿みたい!」


と、乗っかることにした。同意しながら布団に腰を下ろす。


 それを見て安心した俺の隣にいたリンカが


 「エロ中年」


 ボソリと俺に囁いてから部屋に入ってくつろぎだした。


 「そ、そうですよねー」


 俺もそう思った。




 部屋ではいつも通り三人がそれぞれにくつろいでいる。


 エリは重ねたクッションに寝転び漫画を読み、リンカはゲームをプレイ。吐息は、今日は読書のようだ。


 みな私服なのだが、かなり自宅感が出ている。三人共に薄着でルーズなのだ。パンツ姿なおはリンカだけで、かなりの際どいラインのショートパンツ。エリはワンピースだがかなりのミニ。寝っ転がっているだけで危険だ。


吐息は一人おしとやかな衣装だが、ノースリーブで布地の透け感が高い。それぞれに脇や襟首が緩く、少し動くだけで中が覗けそうだ。そんな三人がさらに室内で油断したしどけないポーズを取っている。クーラーが十分に効いた室内なのに、俺は一人だけ熱波と湿度で汗が出そうだった。


 俺は遊んでいる彼女たちをほっておいて仕事をしているのだが、目線を少し外すだけで危険な光景が目に飛び込んでくる。


 ゲームに興奮したリンカがパッドを大きく振る。それだけで彼女のキャミと下着の紐は彼女の大きすぎる胸の重量に引きずられる。その二本の紐がその重量を引き止め揺り戻す。大きく振り子の運動に彼女の球体は前後左右に激しく揺れている。それに彼女のキャミは短く、その背中と横腹、閉まった腹筋が見える。前方に回ればおへそも見えるだろう。だが後ろ姿でも、彼女のパンツは浅く履かれ、尻の上に大きく開いた隙間から、彼女の奥深くが覗けそうなほどだった。


 エリはクッションにもたれかかっている段階ですでに危険だった。ミニのスカートでM字になった足の前には何も隠すものはなく、彼女は無防備な状態で漫画を読んでいる。さらにワンピースは緩く彼女の体を包み、密閉性が殆どない。彼女が右に曲がれば左が開き、左に曲がると右が開くどちらにしろ、彼女の胸のラインはその半分が常に覗いた状態になっていた。おそらく上から見ればストレートにお腹まで見えるだろう。


 その二人に比べると吐息は大人しい服装と言えるが、吐息はそれ自体で危険な肉体の持ち主だった。ノースリーブのシャツできっちりとボタンを首元まで止めている。そのおかげで彼女の凶暴な胸がピッタリと、その実在感を現していた。胸の天球の上から下までピッタリと一枚の薄布が張り付いている。彼女が体の向きを変えるたびに、それがゆっさりと後をついていく。さらに布地の透け具合も高く、彼女の付けている下着が薄っすらとよく見える。腰を包むスカートもサイズがピッタリ。座り位置を直すたびにむっちりとしたお尻から太もものラインが陸上に浮かび上がってくる。そしてその魅力的なラインの足を包んでいるのが太ももまである白いストッキング。その足が組み替えられるたびに目が吸い寄せられる。


 かように、毎日が危険地帯となった、我が部屋であった。




 俺も仕事を中断し、布団の上に座ってタブレットでネットを見始めた。


 みんなのためにと買った布団は自分の布団よりも高く新しいため、柔らかく綺麗だった。


 俺がそうしてタブレットを見ていると、いつも通りエリが俺のあぐらの上に昇ってくる。ネコのようだが手に持った漫画から目を離さない。細身な女子校生とは言え小学生とは違う、けっこうなサイズがある。その少女が俺のあぐらの上でいい位置を探すためにぐるぐると回転する。彼女のワンピースの奥が見え、比較的平らな体から伸びている二つの小山が左右に揺れていた。ようやくいい位置が見つかったようだ。俺の前に横に座り、俺の伸ばした腕を枕代わりにしている。する方は楽な姿勢だろうが、される方は辛い。そこが気に入ったようでしばらくそのままだったが、またモゾモゾし始め、新たな位置を探しだす。ほんとにネコのようだ。


 エリを布団に放り投げて、吐息の方に行く。読んでいる本を聞いてみると、推理小説だそうだ。彼女の手元の小さな文庫本を見ると、視界の七割が彼女の大きな白い胸で占められてしまう。汚れもなくシワもない薄い白い布は、俺の視線を彼女の素肌まで通してくれる。ギュっと詰め込まれたパンパンな白い膨らみが主の動きに付き従いゆらりゆらりと境界の鐘のように揺れる。


 「あとで読みます?」


 目線を胸から外して吐息の顔を見る。


 「ネタバレしない?」


 それを聞いて少し微笑む吐息。ネタバレを人質に俺と遊ぼうと、可愛い悪巧みをしているのが分かった。


 リンカとゲームをする。ゲーム機を買って長いが、人と一緒にプレイをするなんて小学生以来だ。持ち主としての維持を見せたかったが、今やっているアクションゲームに関してはリンカの方がプレイ時間が長くなっている。しかし、家主のプライドとして負けられない。プレイする横目で見ると、前かがみにパッドをいじっているリンカの胸がたった四本の紐で支えられているのがよく分かる。下着の二本とキャミの二本。それがギリギリで踏ん張っている。すこしでも。


 「うわっと」


 ゲームの動きに反応しリンカが大きく動く。四本の紐がリンカの胸の大重量に引きずられている。ギリギリという音が聞こえるようだ。四本の紐たちが耐えられないと悲鳴を上げている。リンカの肘が俺にドンと当たる。


 彼女の目が俺の目線を見ている。


 「見るなよ」という無言のメッセージ。しかしそれを素直に受け取るべきなのか。彼女の口元の微笑みがメッセージを歪ませている。


 エリが冷蔵庫からパピコを持ち出してきて、ゲーム中の俺とリンカの膝の上に寝転がる。これも普段どおりなのでどちらも反応しない。エリは半分にした一本を自分の口に加えて、もう一本を俺の口元に突き出す。俺はゲームをしながらそれを食べる。


 「私も」リンカがそう言ったとき、エリは俺に食べさせたものを渡すのをためらったのか、自分が口にしていたものをリンカに与え、俺が口を付けた物を自分の口に入れた。そしてそのまま、ゲームは続き、エリはリンカにあげたのを自分の口に持っていき、自分が食べていたものを俺に差し出す。そうしているうちに、二本を三人で交互に出し入れして唾液を交換しているような状態になったが、さほど気にせずゲームを続けた。


 お昼はそれぞれが持ち寄った食料と、吐息が作ってきたおかず。それと俺が注文したチキンとなった。食事中、いつかキャンプに行こうという話になったが、その費用が全部俺持ちという話だったので保留にさせてもらった。ただ、山間合いの静かな川ではしゃぐ吐息の姿は見てみたかった。リンカは普通にビキニを用意するそうだ。


 食後、まとめた掛け布団の上にクッションを並べ、昼寝をする。エリは丁度いいサイズの抱き枕みたいだ。懐に入れておくと安眠できる。背中からぐいっと押される。吐息が体を寄せてきた。白い布団シーツから生まれた大きな山のような彼女の胸。枕よりも寝心地の良さそうなそれが背中に押しあてられる。


 リンカがポスンと倒れ込む。エリが俺の胸から顔を外してリンカの胸に吸い寄せられる。娘を母親に渡すかのようにエリをリンカに渡す。彼女の胸に顔をうずめて幸せそうなエリ。前に彼女が言っていた「吐息姉さまの肌触りは最高です。今まで触ってきたどの肌よりも、天使のようです。それに匹敵するのがリンカさんです」そういうことを真顔で言う少女だった。リンカが体を寄せ、開いたスペースを埋めるように密着する。四人が一つに固まり昼寝をする。俺の肩に置かれていた吐息の手が前に回る。リンカの手がその手を受け止めて俺を縛り止めるロープにする。リンカの胸を楽しんだエリが再び俺の胸に戻ってくる。この位置を気安く占領できるエリを吐息が羨んでいた。クーラーの効いた夏の日、俺は三人分の少女の心音に包まれながら眠りを楽しんだ。




 「こっち見ないでくださいよ」


 「そんなの変身すればいいだろ」


 彼女たちは隣の部屋で着替えている。


 今日は市の花火大会の日なのだ。そのためにわざわざ浴衣の着替えまで持ってきている。変身すればすぐなのに、それでは気分が出ないということらしい。俺は普通にシャツにジーンズを来て準備はお終い。あとは彼女たちを待つだけだ。浴衣の着付けは吐息が面倒を見ている。こういう時頼りになる娘だ。


 「おまたせ~」


 三人がそれぞれ着替えた浴衣姿で現れた。みな晴れやかで、普段とは違う可愛らしらと女らしさだった。俺の満足そうな顔を見て、彼女たちも喜んでいる。


 さっそく四人で花火会場まで歩いていく。場所はあの、競馬場だ。今日は花火大会として競馬場が夜間開放されているのだ。


 四人の美少女をつれて歩く俺。ちょっとした勝ち組感を感じていたが、リンカにサングラスをかけさせられた。


 「なんだよこれ、暗くて見づらい…」


 「あのね、これから行くとこは街中の人が集まるの、私達のクラスメートとかもね。そこに、あなたみたいな中年と一緒にいられるのを見られたらマズイの」


 「と言われても…」


 「だからそのサングラスをかけて、この三人の中の誰かの親族がお目付け役として同行しているって設定なの、わかる?」


 「分かったけど、誰の親族なの?」


 「それは…誰?」


 エリが「私のパパ!」とご陽気に言った。


 「え、それずるい!」なぜか吐息が口を挟む。


 「じゃあ、私もパーパってことで」リンカが急に言い出す。


 「え、それじゃあ、私もお父さん…」


 「急に三人も娘が出来ると困るんですけど…」サングラス姿の俺は困惑した。


 競馬場そばにいくと大変な人混みだった。若い学生やカップル、家族連れ等、たしかに街中の人間が集まっている。


 そんななか特に目立つ浴衣姿の美少女の集団である俺たちは、通り過ぎる人々の視線をひいた。その三人の後ろをガードして歩く俺に、三人娘はそれぞれ、


 「パパ」「パーパ」「お父さん」と呼びかけていて、逆に異様だった。


 「クラスメイトにあったら、違う誤解されるだろ、コレ」


 俺はそう思っていた。


 三人それぞれが出店で好きな食べ物を買い(俺の支払い)、ギュウギュウの見物会場に並んだ。


 「混んでるなー」


 「けっこうスゴイね、パパ」


 「お父さん、こっちですよ!」


 「パーパ!、私たちをちゃんと守りなさいよ」


 花火が上がり始めた。発射する場所はすぐ近く、花火の炸裂もすぐ頭上のことだった。


 ドパパンと何発も打ち上がる花火。それだけでも大した見ものだったんだが、三人の娘は顔を見合わせ悪巧みをしていた。


 「え?何するの?」


 俺の疑問に答えることもなく、彼女たちは浴衣姿のままで魔法を使った。


 隠蔽の魔法、俺達の姿は花火の光の明滅の間に消えた。


 飛行魔法、姿の消えた四人は、花火の打ち上げのように観客の海から飛び上がった。


 三人に引っ張り上げられた俺は、突然の空中浮遊に慌てることなく、三人に命を預けた。これもいつも通りの事だった。


 そして四人は競馬場の高い突き出し屋根の上に着地した。


 そこは誰もいない特等席、花火は、ほんの目の間で輝いていた。


 キラキラとした輝きが少女たちの瞳に写っていた。花火が一つ爆発するたびに歓声を上げていた。俺は打ち上がる花火よりも、複雑で可憐で華やかな少女たちの青春が眩しかった。背後に立っていた俺に気づいて少女たちが手を差し出してきた。俺はその手に引かれて、一時だけ、彼女たちの仲間にしてもらった。


 


 帰りは空を飛んで帰った。その方が楽しいと思ったからだそうだ。夜風は涼しく、浴衣姿で空を飛ぶ彼女たちの姿は、夏の夜にふさわしかった。


 今日は泊まると最初からみんな言っていた。帰った途端、三人は一緒にお風呂に入りシャワーで夏の汗を流した。その間、俺は布団を敷き直し、クーラーをかけて部屋を冷やしておいた。


 シャワーから上がった三人は、ほとんどシャツ一枚といった感じだった。吐息ですら、極めてルーズなシャツ姿。ブラも付けていない。お互いに乾かし合い、仲睦まじい姉妹のようだ。冷蔵庫からジュースを出し飲んでいる。俺もシャワーを浴びるために風呂場に入る。数種類のシャンプーとリンスとボディーソープの香りが混ざった浴場。濡れた床がこの前までここを使っていた少女たちの存在を感じさせる。俺は無心で体を洗った。


 シャワーから上がった俺は、体を乾かし、リビング兼寝室に入る。クーラーの冷えた空気が気持ちいい。すでに部屋の明かりは消えていて、三人とも布団で寝ている。


 俺は暗闇の中手探りで自分の睡眠ポジションを探った。最初に手にあたったのは湿度のあるしなやかな肌、リンカだ。柔らかさから彼女の太ももだと分かった。そこから少し上を探し、彼女の腰を掴む。薄い布団の下に隠れた彼女の顔から小さな息が聞こえた。ここは俺の寝るところではない。俺の手は暗闇の中を横に移動する。むき出しの腹、この薄さはエリのお腹だ。ヒクンと大きく揺れた。大きく手を開くと彼女のお腹全てを掴めそうだった。指だけを這わせて少し上に昇る。ビクビクと暴れるお腹を無視して、その手を横に移動させると、


 空いている。


 ここが今日の俺の寝床か。ようやく寝れるスペースを発見した。


 


そこに下から体を滑り込ませる。空いたスペースに体を差し込む。両手を合わせて、水泳の飛び込みのように勢いよく差し込むと、何かを突き破った。二つの長い物の間に手が、腕が、体が入りこんだ。この長い足、吐息の足に違いない。俺は斜めに伸びていた吐息の足の間をくぐる格好になっていた。驚いたような小さな悲鳴を吐息は噛み殺した。なにか言ってしまえば、この場は全てご破産になるという、わずかな緊張感があった。全員で行う小さな遊び、小さないたずら、小さな…お愉しみが消えてしまう。


 俺ももう少し、その遊びに付き合った。黙ってそのまま進んだ。その結果彼女の太もものトンネル、その天井部分をかすめて通り抜けた。終着点は吐息の眼前だった。そして、彼女の両足は俺を下半身を挟み込むような形になっていた。


 無言で震えている吐息。彼女に密着する形で俺がいる。両足に力が入り、俺を離さないようにしている。下から引き上げられたシャツがギリギリ彼女の胸を隠しているが、下着を付けていない胸は、柔らかく、だらしなくはみ出ていた。


 俺はしばらくそのままの姿勢で彼女とくっついていた。彼女も逃すまいと離さなかった。


 背中のシャツを掴む手があった。それも一つではない二つだった。目をつむってって寝たフリをしたエリとリンカの手が俺のシャツを引っ張っていた。


 俺は吐息の顔を見た。暗闇に慣れたので彼女の高揚し硬直した表情がよく見えた。彼女の鼻に自分の鼻をちょんと付けて


 「おやすみ」


 「…おやすみなさい」


 俺はくるりと体を回し、大の字になってネタ。足を外した吐息は、俺の伸ばした腕を枕とし、エリもリンカも同じ様に腕に頭を乗せた。この寝方は大変そうだが、皆のために、朝まで続ける覚悟だった。




 朝、目が覚めると俺の左手はリンカに噛まれていた。


 エリは俺の頭を抱きかけて、自分のシャツの中に俺の頭を詰め込んでいた。


 吐息は、まだ俺の腕の上で寝ていた。


 シャツは昨夜のままずり上がり、パンツが見えていたが、それよりシャツを持ち上げている二つの大きな膨らみが呼吸のたびに揺れているのは壮観だった。彼女のスースーという寝息は心地よかった。


 起き上がろうとしたが、頭はエリに固められ、片手をリンカにかじられ、腕は吐息に抑えられている。みなの寝息が俺の回りで小鳥のように回っている。俺ももう少し、このままでいようと思った。


 どうせ今日も予定はない。


 彼女たちも夏休みだ。


 明日まで、俺は魔物にならない。


 魔法少女たちと、もう少しこうして生活していたい。


 いつも通りに。




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