G星系・恒星L

第2話・狂ってきた移住計画

 漆黒で広大な宇宙空間を、静かに進む巨大移民船 『アフロディーテ号』──人類が生存可能な惑星を求めて、地球から数百光年先の離れた宇宙にある。

 G星系の恒星Lを公転する、第四惑星『ビアン』の座標に向けて、航行する『アフロディーテ号』には、数万人が移民男女が半々の同人数で人工冬眠処置されて眠っていた。


 現在、アフロディーテ号で目覚めて操縦室にいるのは、ナビゲーター航海士の『ユリ』と、プログラム・エンジニア技術者『ラブ』の二人だけだった。


 二人はAIの性格分析で、惑星『ビアン』に船が到着するまでの、最終段階期間者として選ばれた。

 ユリとラブは初対面だったが、AIが分析選択した通りに相性が良く、仕事の効率と支障をきたす恐れが少ない理想的なコンビだった。


 ユリとラブの他には、雑務や二人のサポートをする、セクサロイドの『リズ』が常備していた。

「わたしは、男性の性的なお相手をするようにもプログラムされています……もちろん、女性のお相手もいたします。お気軽にお申し付けください」


 外皮を人工皮膚でコーティングされ、人間そっくりに作られたリズの顔や体に。

 ギミックのビスが付いているのは、人に人間とセクサロイドを区別する意識を持たせるためだった。


 ユリとラブの仕事と言っても、ほとんどがAI管理の自動システムで、あまりやるコトはない。

 せいぜいユリの仕事は、航海日誌を残すコトと、重大な事態が発生した場合に。

 決定権がないAIに代わって、人間が選択をして決断をするコト。


 ラブの仕事は、プログラムやデータの最終確認と。プログラムの追加と微調整で。

 移民宇宙船のシステムが正常に作動しているかのチェックが主な仕事だった。


 ユリは操縦室で、モニターに映し出されている日を追うごとに近づいてくる、ピンク色の恒星LとLを公転している惑星『ビアン』を眺め呟く。


「やっと到着した……地球から数百光年離れた、惑星『ビアン』に」

 ビアンへの移住は、人類の悲願だった。

 椅子から立ち上がったユリは、操縦室をセクサロイドのリズに任せて。ライブラリー図書館のデータエリアに向かう。


 さまざまな人類の知識が蓄積されるライブラリーの中で、ユリは地球の動植物エリアへと入る。

 そこには、粒子標本処理をされた地球の動植物があった。

 横向きで銀色のレリーフになった、馬の表面を撫でるユリ──標本は生前と同じ質感と弾力があった。

 馬の毛並みを感じながら、ユリは生きている馬の映像を見る。

 草原を疾走する生き生きした、記録として残されている馬の姿に、ユリは癒された。

 

 ライブラリーには、ラブも足を運んでいた。

 ユリは、ラブが閲覧した記録項目の履歴は、いつも消去されずに残されている。

 ユリはラブが、頻繁に閲覧していたモノの履歴を見て首をかしげる。


 それは【地球の生物の生殖や繁殖に関する項目】──

『両性体』

『雌雄同体』

『単為生殖』

『無性繁殖』

『オスからメスへの性転換する生物』など、変わったモノばかりだった。

 中にはメスが、オスのような陰茎を保持する生物〔ハイエナ・モグラ〕の閲覧履歴もあった。


 特に特異な環境の中で、メスだけで単為生殖をして子孫を残せる生物や、自分のコピーを作って繁殖する生物の項目ばかりをラブは、熱心に閲覧しているようだった。

(まるで、あたしに履歴を残して。閲覧記録をわざと教えているような?)


 ライブラリーを出たユリが操縦室にもどると、睡眠タイムから目覚めたラブがプログラムの確認をしていた。

「おはよう、ラブ」

「おはよう、ユリ」


 ユリは、モニターに映し出されている。惑星『ビアン』を見て言った。

「あと一ヶ月で、惑星『ビアン』に到着するね……長かった、人類の旅もやっと終わる……到着一週間前には、人工冬眠している移民の仲間を覚醒させないとね」

 ラブは作業を進めながら、素っ気なく答える。

「そうだね」


 ユリの睡眠タイムを告げる表示がモニターに現れる。

「じゃあ、あたし寝るね……何かあったら起こして」

「わかった」


 ユリが自室で横になり、生体監視モニターにユリの睡眠導入が、すぐに表示がされる。

 実はラブは、ユリに内緒である計画を秘かに実行していた。

「選択した、移民の個体少女のコピー状態を表示」

 モニターの中に、円筒型をした巨大な培養水槽が映し出され。

 培養液の中に無数の、同じ顔をしたショートヘヤーの少女たちが浮かんでいた。

 ある少女は、二体や三体に分裂をしている……おぞましい光景だった。


 ラブが呟く。

「命名、コピー・サピエンス『サッホー』……あたしとユリの遺伝子を残すためだけに存在する、惑星『ビアン』で原種となる新しい人類……サッホーたちから、【あたしとユリの遺伝子だけを持った、人間のメスが生まれてくる】……男なんていらない」


 ラブは近くで、システム管理の補佐をしているリズに質問する。

「リズ、あなたのセクサロイドとしての対象は?」

「はい、わたしがお相手をするのは……」


 メイド服姿のリズが、平然とした口調で言った。

「女性です……あたしは、女性専用のセクサロイドです……」

「仮にオスが近づいてきて、あなたにセクサロイドとしての行為を要求してきたら、どう対象するの?」

「汚らわしい【オスの精巣を握り潰します】……それが正しい、セクサロイドの姿です」

 リズは、ラブの手によってすでにプログラムを書き換えられていた。

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