昔は普通の少女だった剣聖は、力を合わせて復讐をやりとげる

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 最期の行動を起こす前に、その剣聖の少女は、決意を固めていた。


 なぜなら、今から復讐を行う予定だからだ。


 彼女はとある国の剣聖だ。


 剣の腕は、並々ならぬもの。


 彼女に敵うものなどいなかった。


 しかし、そんな彼女は昔はただの少女だったのだ。


 どこにでもいる、ひよわな少女だった。


 とうてい剣を持つ事など、できないように見えた。


 しかし、そんな少女が、なぜ剣を扱う者としての最高の位、剣聖という位を授かったのか。


 それは、復讐のためだった。


 少女は、弱い自分と決別し、徹底的に体を鍛えて、血のにじむような努力をした。







 クローンプロジェクト。


 この国には、一人の人間を禁忌魔術で二人に増やす計画があった。


 それは、才能ある人間を多く増やして他国を侵略するために実行されたものだった。


 けれど、いきなり行うにはリスクが大きい。


 将来有望な人材・天才達で実験をして、取り返しのつかない事になったら目もあてられないだろう。


 だから、クローン計画を考えた人間達は、そこらへんの村から普通の子供を攫ってきて、実験台にすることにした。


 少女は、不幸にもその対象になってしまった。


 連れ去られた少女は、禁忌魔術の実験台となり、苦痛と絶望にまみれた日々をおくることになった。


 しかし、そんな日々の中でできた友達が少女をはげましてくれていたから、生きてこられたのだった。


「いつか、二人でここから出よう」そう約束して、二人は地獄のような日々を一日一日乗り越えてきた。


 けれど、その友達は体調を崩した日に実験を行ったため、死んでしまったのだ。


 少女は、涙が枯れるほど、嘆き悲しんだ。


 そして泣き終わった後、復讐を誓った。


 こんなひどい実験を行った、国に対する復讐を。


 やがて、少女は実験の全てを終えて、生き残った。


 クローンができて二人になった少女は、数少ない成功例となったのだ。


 けれど、国の暗部を知ってしまった者が無事に解放されるわけがない。


 そのため、処分されるよりも前に、死体を偽装する事にした。


 ……同じ思いを、同じ決意を抱いているもう一人の私を犠牲にして。


 ばらばらになった一人分の死体らしきものと、二人分の右腕。


 それらを見た者達は、オリジナルとコピーは、二人ともども死亡したと判断した。


 地上につながる排気通路から脱出した少女は、なぜだか涙がとまらなかった。


 オリジナルは死んだ。


 生き残ったのはコピーだった。


 なぜなら、コピーの方がほんの少しだけ強かったからだ。


 同じ性格の少女だけれど、記憶だけの友達の為に戦う事になったコピーの少女。


 少女は複雑な気持ちを抱いていたが、後戻りはできなかった。


 少女が外で、お日様の光を浴びた時に、どこからか死神と名乗るものがやってきて、力を貸すと言って来た。


 死神は宙に浮いていて、鎌を持っていた。


 そして、一目で強者と分かるオーラを放っていた。

 だが、少女は断った。


 少女は自分の力だけで、復讐したかったからだ。


 幸いにも少女には、非道な実験で手に入れた力がある。


 驚異的な身体能力がある。


 それを使えば、復讐が成功する可能性はゼロではなかった。





 


 そして、少女は名前を変え、顔をかえて、剣聖という地位まで登りつめた。


 その結果、国の重要施設、王宮に立ち入る許可ももらう事ができた。


 だから少女は、王座でふんぞり返っている王へ剣を突きつける事に成功したのだ。


 驚く王を脅して、実験の事を知っているか確かめる。


 反応を見て黒だと確信した少女は、王を人質にとって、実験の関係者を集めた。


 そして、一人ずつ地獄の実験をやり返した。


 自分達が考えた実験のせいで、自業自得に陥る者達。


 苦しむ者達は一体どんな気持ちなのだろうか。


 どんな内心だったとしても、少女は許せそうにないと思った。


 中には、実験が成功してしまう者もいた。


 二人になったその人物を見て、少女は少しだけ困った。


 予想していなかったからだ。


 考えた末に少女は、彼等の中に良心があるのかどうか試すことにした。


「どちらかが死ぬなら、どちらかを生かしてあげる」と言ったのだ。


 結果は、醜いなすりつけあいや傷つけ合いを見ただけだった。


 少女はすぐにその二人を処分した。


 最後に王様には「何か言い残す事はない?」と聞いた。


「王様は、国の為に必要な事だった」とだけ述べた。


 少女はそれ以上何も聞かずに剣で王様の首をはねた。


 これでもう、思い残す事はない。


 少女は、関係のない人間にまで復讐しようとは思わなかった。


 そのためすぐに、自分で自分の命を終わらせることにした。


 放っておいて、何も知らない人間に殺されるよりは、そうした方が良いと思ったからだ。


 命がついえる瞬間、死神がやってきて取引しようと言って来たが、少女は首をふった。


 他にも復讐すべき人間がいる、生き延びた人間がいるといっていたが、少女は疲れ果てていた。


 そして、意識を落とす間際になった少女は幻聴を耳にした。


「今まで、よく頑張ったね」


 それは、もう聞こえるはずのない友人の声だった。



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昔は普通の少女だった剣聖は、力を合わせて復讐をやりとげる 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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