世界の真実

「はぁー、相変わらずロクな依頼がないな」


掲示板を確認し終えた俺はカウンターにおもむき、そこにいつもいるマレットに声をかける。


「ん?なんじゃお主は?不景気な面じゃのぉ」


だがそこにいたのは、シワシワの顔をした小さなエルフであった。


「あれ?マレットいないの。爺さんマレットの身内かい?」


俺はお爺さんに尋ねる。


「アホタレ!ワシがあんな鼻垂れ小僧の身内な訳があるか!」


お爺さんは癇に障ったのか大声で叫んでる。


「おいおい、ゲンちゃん何騒いでるんだい?店の外まで聴こえて来てるぞ」


騒ぎを聞きつけて現れたのは、すでに酒の匂いがするカシロフだった。


「なんじゃ、生臭坊主。また、昼間から呑んどるのか!?」


俺が声を掛けるよりも早く、お爺さんの呆れた声がする。


「えっ?えっ!!炎帝様。あの、これは。ハハッ、失礼しました!」


カシロフは驚いた後、あたふたして逃げるように店を出て行った。

猿帝か、確かに猿のような爺さんだ。


「さて、お主もここに昼間から呑みにきたのか?」


猿爺さんは俺に向き直って聞いて来た。


「いや、まだ帰ってから家事もあるし、ここで呑むわけにもいかないな」


俺は爺さんの迫力に押され、正直に答える。


「家事?その歳で無職か!遊んでないで適性のある仕事を真面目にせんか!」


爺さんはまたウキャウキャ騒ぎ立てる。

うるさいお猿さんだ。


「その適性がないから主夫してるんだよ。まぁ、たまに冒険者もしているけどな」


「ほぉ、適性なしとは珍しい。世界の理の外におる者か」


お爺さんは何か考え込んでいるようだった。格好よく言っているが転生者のことだろう。

その時、大きな荷物を抱えてマレットが帰ってきた。


「おぉ、ゲンさん来てたのか。ちょっと買い出しに行ってて、待たせて悪かったな」


「なんじゃ小僧。やっと帰ってきたか」


お爺さんはマレットに声をかける。


「マグネスさん!もう、いらしたんですか」


マレットはかしこまって答える。


「やっぱりマレットの知り合いかこの爺さん」


俺はマレットに紹介を促す。


「あぁ、この方は稀代の魔道士、マグネス・モンロー。初代炎帝だよ、100歳を超えても、今なお現役のお方だ」


マレットは改めて紹介する。

なんか凄い二つ名もあるし、こう見えて凄い爺さんなのか?


「マグネスさん、この人はゲンタさん。冒険者兼主夫。噂の勇者のお父さんですよ」


マレットに紹介され俺もお辞儀する。


「ふむ、マレットよ。この男もなかなか面白いな。気に入った、お主も一緒に行くぞ」


爺さんは勝手に話しを進めている。おいおい、この爺さん大丈夫か?

マレットを見ると諦めろと言った感じで頭を振っている。


「まぁ、時間はあるから付き合うのは構わないが、ちゃんと報酬は出るんだろうな?」


俺は爺さんに尋ねる。


「なっ!世界を正常化するための試練を前になんてことを!」


ダメだこの爺さんはボケてる。

俺も諦めることにした。


「んで、爺さん、どこに行くんだ?」


俺はマグネスに尋ねる。


「とりあえず、ワシの家に行くぞ」


マグネスは意気揚々と答える。


「マグネスさん、これからエルフの里まで行かれるんですか!?」


マレットは驚いて答える。

かなり遠いとこなのか?


「そうじゃ。だが、安心せい三人くらい転移呪文で一瞬じゃ」


マグネスは得意げに答える。


「あっ、やっぱり私も行くんですね」


マレットよ、自分だけ逃げようとしてたな。

俺たち二人は、こうしてマグネスの気まぐれに付き合わされるのだった。


ブーン!!


何もない空間に文字や幾何学模様が浮かぶ。

それらは赤く発光し、次第に人の形を作り出す。


「おー、もう着いたのか。ほんとにあっという間だな」


俺は感動しながら声を上げた。


「さすがマグネスさん、相変わらず見事なお手前で」


マレットはマグネスの呪文に感心していた。


「やっぱり呪文って便利だねー。戦闘だけでなく、一般生活にも欠かせないよな」


俺は改めてこの世界の特異性を実感する。

呪文の力のおかげで、科学技術に頼らずとも簡単に便利な生活が手に入る。

もちろん誰にでもという訳にはいかないが、練習すればある程度は使えるようになる。

ちなみに、無職の俺は一切使えなかった。


「確かに便利なもんじゃが、それに頼りきってばかりで果たして良いのか、」


マグネスは難しそうな顔で応えた。


「便利に越したことはないさ、爺さんは物事を難しく考えすぎだ」


俺は気楽に応える。

転移した先には、森が広がっていた。

空を突き刺すほど伸びた木々は見上げても先は見えないほど高く、幹の太さも数十メートルはあろうかというほど巨大だった。


「てっきり爺さんの家に転移するのかと思ったら森の中か。ここからしばらく歩くのか?」


俺はマグナスに問いかける。


「何を言っておる。家なら目の前に建ってるじゃろ」


そう言ってマグナスが指先を前に出すと、見えていた森が消え、豊かな村が現れた。

普通に木をくり抜いただけの家あれば、ツリーハウスもある。

村の真ん中には、村全体を覆うほど枝の生い茂った巨木が立っていた。


「幻惑ですね。さすが幻といわれたエルフの里だ。これでは簡単には見つかりませんね」


マレットも感心して村の様子を眺めている。


「さぁ行くぞ、目の前の巨木がワシの家じゃ」


そう言ってマグナスは軽快に歩き出した。


「はぁはぁ、なんでここは階段なんだよ。呪文でパッと運んでくれよ」


いま俺は、巨木の幹に沿って作られた階段を上がっている。

家は木の上にあるようで、そこまではこの階段を上らなければならなかった。


「何事も呪文に頼ると体が鈍るものでな」


元気に笑いながらマグナスは言い、先頭に立って階段を上がっていく。


「ぜぇぜぇ、やっと着いたー。まったくエレベーターくらい付けろよな」


俺は息も絶え絶えやっと階段を登り切った。


「ほほほ、若いのに情けない。もっと足腰鍛えんと老後が辛いぞ」


爺さんに老後の心配をされてしまうとは。


「さて、一息ついたところで本題じゃ。お主たちにはワシと共にある場所へ赴いてもらいたい」


マグネスは、真面目な表情で伝えてきた。


「マグネスさん、ある場所とは?」


マレットが聞きかえす。


「それは行ってからのお楽しみじゃ」


「お楽しみって、教えてくれてもいいじゃないか」


俺はマグネスに詰め寄る。

しかし声とは裏腹にその目は真剣で戸惑いも伺えた。

俺はその重圧を察して、それ以上は言葉を重ねるのをやめた。

その夜はマグネスのもてなしで、俺たちは有意義な時間を過ごし満足のうちに床についたのだった。


翌日、俺たちは出発の準備を進めていた。


「マグネス、ずいぶん重装備だな」


俺は革の鎧を付けているマグネスに尋ねた。

昨日までのローブ風の装いとは別に、前衛職のようないで立ちだった。


「これくらいしてもまだまだ不安じゃよ」


マグネスの格好と言葉に俺とマレットは、これから向かう場所に不安を募らせるのだった。

俺たちの向かった樹海は、エルフの里からさらに奥に進んだ場所にあった。

昼間だというのに生い茂った木々が日の光を遮り、ジメジメとした空気が漂っている。


「さて、この奥じゃ」


そういってマグネスが指示した先には、巨大な木があり。その根元には、ぽっかりと穴が開いていた。

奥は暗く、緩やかに下っている。

暗い穴の底を目を凝らして探っていると、マグネスが呪文を唱え、持っている杖の先に光を灯した。


「さぁ、行くぞ」


掛け声とともに俺たちも、マグネスに続き洞穴の中に入ってい行った。


「足元滑りやすいから気を付けるんじゃぞ、もう少しで広い道に出るからのぉ」


マグネスの灯す明かりを頼りに、狭い洞穴を進んでいく。

勾配のあるデコボコした道もすぐに終わり、しばらく行くと広い石畳の通路に出た。


「これは遺跡かなにかですか?」


マレットは先を行くマグネスに尋ねる。


「うむ、ワシも詳しくはわからんが、どうやら旧時代の遺跡のようじゃ」


マグネスはそういうと、急いで持参した松明に火を付ける。

遺跡の通路に出ると、杖から発せられる光はだんだん消えていく。

代わりに、松明の火が明かりとなって辺りを照らしだした。


「さて、ここからは呪文は使えん。お主たちには関係ないがな」


マグネスはサラッととんでもないことを言った。

もともと呪文の使えない俺やマレットはいいが、魔導士にとっては呪文使えないのは致命的である。


「なるほど、それで我々を護衛に呼んだんですね」


マレットは納得して聞く。


「うむ、ここはただ呪文が使えないだけではない。各々が持つ素質も消え去るのじゃ」


炎に照らされたマグネスは、真剣な顔で語りだした。

ってことは、ここではみんな無職か、仲間が増えたな。俺は気楽に考えていた。


「マグネスさん、素質も消えるっていったい?遺跡の呪いですか」


ことの重大さにマレットは驚く。


「果たして呪われているのは、遺跡か世界か。詳しいことはワシにもわからんのじゃ」


マグネスは真剣に応える。


「昔ここに初めて来たときワシも驚いた、呪文が使えなくなったんじゃからな。それだけでなく、魔導士としての特性も失われておりモンスター相手に、普段の力の半分も出せんかった」


「ここにはモンスターも出るのか?」


俺は驚いて聞く。


「ワシが出会ったのは地上のものとは違い、そこまで凶悪ではなかった。だが、呪文を使えぬとなると逃げるしかなかった。ゲンタはともかく、期待してるぞマレット」


マグネスもここではマレットに期待しているようで、さすがに小僧呼ばわりはなくなった。


「それでマグネスさん。こんな危険な場所にいったい何しに?」


マレットはマグネスに聞く。


「旧時代の遺物を取りにきたんじゃよ」


マグネスは答える。


「遺物?いったいどんなものなんだ?」


俺はマグネスに問いかける。


「どんなものかはわからん。だが、お前たちは不思議に思ったことはないか?

なぜ素質なるものが突然生まれたか。なぜ生物はいきなり呪文が使えるようになったのか。

ワシの若いころはまだ素質なぞなかった。そもそも呪文なんてものもなかったし、モンスターの生態系も違った。世界はある時を境にガラリと変わってしまったのじゃ」


確かにマグネスの言うこともわかる。

この世界に初めてきて、素質を見たとき俺は愕然とした。しかし、それがこの世界の常識と思い込んでいた。マレットに関しても、素質を拒む変わり者という認識でしかなかった、皆が天から与えられた職に就くように強要されていた。


「なるほど、いままで当たり前と思って疑問にすら思っていなかった」


マレットは感心している。


「その謎を解くために遺跡探索と、そこにある遺物の解析じゃ」


俺たちは慎重に遺跡を奥へと進んでいく。

マグネスは素質が消えたためか、いつも通りの力は出せず、マレットに至っても少し動きに違和感を感じているらしい。

マレットの素質について聞いてみたが、そこは教えてくれなかった。


「静かに!物音がする」


少し先を歩いていたマレットが俺たちに指示を出す。

耳を澄ますとズリズリと何かが這うような音が聞こえる。

物陰に隠れて先を伺うとそこにはモゾモゾと蠢く二つの人影が見えた。


「あれがこの遺跡のモンスターじゃ」


マグネスがひそひそ声を出す。

一見その姿はモンスターというか人にしか見えなかったが、よく見ると顔がなかった。

服も着ておらず、見た目はマネキンのようだった。

肌の感じは木のような土のような材質で、手には棍棒や斧などの武器を持っている。


「一体、一体の強さはたいしたことないが、それでも囲まれると面倒じゃ。あの頭や肩についている宝石を砕けば奴らは動かなくなるはずじゃ」


確かによく見ると頭や肩など様々な場所に薄く光る宝石がはめ込まれている。


「一体はワシが受け持つ、もう一体は頼んだぞ」


そういってマグネスは人形に向かって駆けていく。

その足取りはとても100歳を超える老人のものとは思えない。


「ゲンさん、俺たちも行くぞ!」


マレットに呼ばれ、俺も慌てて人形に立ち向かう。

マグネスはすでに人形の下に辿り着き、加速を生かした杖での突きを繰り出している。

一発目で人形の足を狙いバランスを崩すと、杖を両手で持ち替えてすぐさま残った片足も薙ぎ払う。

人形が倒れたところへ自分の体重も載せた突きで頭の宝石を打ち砕いた。


「爺さんやるなー」


俺は見事な軽業に感嘆していた。

そういっているうちに、マレットと残った一体の人形は武器を絡めて膠着状態となっていた。

俺は人形の背後に回り込むと、自分の背丈と同じ大きさのウォーハンマーを構える。


「ふん!!」


それを力任せに振りぬいて、人形の腰にあった宝石を砕いた。


「ゲンさんナイス!」


「いや、マレットが足止めしてくれたからだよ」


俺は素直にマレットのフォローを褒める。


『レ■rあ@Δp 力Ψ上〼●』


俺の脳内に響く音声、雑音でよく聞き取れない。


「いま何か聞こえたか?」


俺はマレットに尋ねる。


「いや、なにも聞こえなかったけど?」


マレットは不思議そうに答えた。


「さぁ、もたもたするな先にいくぞ!」


気になりながらも、マグネスに急かされ俺たちは先へ進むのだった。


「確かに力も素早さもたいしたことないな、これなら何とかなるかもな」


その後も何体か人形を倒し奥へと進む、倒すごとにコツも掴めたのか楽に突破していく。

幻聴はその後も度々頭に響いていたが、相変わらず内容はよくわからない。

そして、俺は味気ない人形の実力に半ば安心しきっていた。


「なんか、明らかに怪しい扉だよな」


俺たちは大きな扉の前に佇んでいた。


「かといって、ここまで一本道だから進むしかないだろ」


マレットは応える。

俺は不信に思いながらも扉を押して中を覗き込んだ。

部屋は割と広く天井も高い、両端には等間隔で柱が並んでいる。

まるでボスがいるかのような部屋の作りだ。

恐る恐る三人が部屋に入ると、扉は独りでに閉じて行った。


「なんだ!?っく開かない閉じ込められた!」


マレットは扉を叩きながら叫ぶ。

俺はありきたりな展開に嫌な汗をかいていた。


「こうなると進むしかないじゃろ。腹を括らんとな」


マグネスは意を決して先へと進みだす。

慎重に三人が進むと、部屋の奥に大きな人形が鎮座していた。

今までのものと比べて三倍は大きな人形だ、頭、両肩、胸に宝石が輝き材質は石のように滑らかだ。

四本ある手はそれぞれ棍棒、剣、斧、ハンマーを持っている。


「これ絶対動くよな?」


俺は誰にともなく呟く。

そして、俺の声に応えるかの如く、人形は静かに立ち上がり合図の無いまま戦闘が始まるのだった。


ドン!!ガガガガガ、ガン!


部屋のあちこちで激しい音が鳴り響く。

動き出した人形は俺たちに狙いをつけて、手に持つ武器でそれぞれ攻撃を開始する。

マグネスやマレット、俺は三人散らばって人形の周りで応戦した。


「ダメじゃ、この先に扉があったがビクともせんかった。まずはコイツをなんとかせんとな」


マグネスが叫ぶ。

入ってきた扉も閉ざされ先へも行けず、やはりボスからは逃げられないのか。


「今までと同じなら、やっぱり今回も宝石砕かないとダメだよな?」


俺は、人形にはめ込まれた四つの宝石を見て言う。


「サイズもデカいから、攻撃も今までと違って重い。無理に受けるとこっちが潰されるぞ!」


マレットは人形の剣を自らの剣で受け流して叫ぶ。普段のマレットなら舞うように攻撃をかわすが、やはり素質を奪われた影響かその動きは鈍かった。

幸いなことに巨大な人形は、力と引き換えに素早さは低くなっており、攻撃を避けるのは造作もなかった。


カーーン!!バキッ!


マグネスが杖で人形の足を狙うも、堅い音が響いて人形はビクともせず、代わりに握っていた杖が折れてしまった。


「やはり今までの人形と作りが違うわい、硬すぎて杖と共に打ち込んだこっちの手も壊されそうじゃ」


マグネスは二つに折れた杖を捨てて逃げまどう。

素手では人形の攻撃を防ぐことはできず、避けるしかない。

そんな、マグネスに人形の二本の腕が迫る。

最初にマグネスの頭上からハンマーが襲う、マグネスは自らを覆う黒い影に気づき急いでハンマーの落下地点から退避する。だが、その動きを読まれ避けた地点に今度は斧が振り下ろされた。


「爺さん、危ない!!」


俺はマグネスを助けるため、がむしゃらにウォーハンマーを人形の腕目掛けて振り下ろす。


ガン!!ビキビキッ!


横からの一撃で斧の軌道がわずかに逸れ、マグネスは斧の直撃から免れた。


「ふぅ、助かったわい」


自らの真横に転がる斧を見てマグネスは戦慄する。

ピキキキ!!

甲高い音を立て、ウォーハンマーで叩いた人形の腕に亀裂が走る。


「これは?いけるか!?」


俺は好機とみて、力を込めて再度同じ場所をハンマーで叩く。

カンカン、バキ!

腕の亀裂はだんだんと広がり、ついには人形の腕の一つを打ち砕いた。


「やったぁ!ざまぁみろ!」


俺は砕いた腕を踏み潰しながら言い放つ。


「ゲンさん、敵は狼狽えてる。たたみかけるんだ!」


マレットが叫ぶ。

俺は落ちている人形の斧を手に拾うと、そのまま右肩の宝石を狙う。

大きな斧であったが、それほど重さは感じず自分でも驚くほどの力で振るっていた。


ブォン!ガキン!!


大振りした斧は、人形の肩を宝石もろとも砕き、もう一本の腕も再起不能にする。


「よし、これで腕は二本だけじゃ!」


マグネスも興奮して叫ぶ。


『れべr @2ぶ!!』


俺の脳内にまた音声が響く、それと共に体が軽くなるのを感じる。

もしや、俺は成長してるのか?


「考えるのは後だ、いまはこいつを片付けるのが先!」


俺は、軽くなった体で跳躍するとその勢いは人形を軽く飛び越えるほどだった。

飛び跳ねた調子に人形の首を斧で跳ねる。先ほどよりもすんなりと切れ、人形の首は地面へと転がる。

バランスを失った人形はなす術なく、地面に倒れた。


「ずごい、どうしちゃったんだゲンさん!?」


マレットはボー然とする。


「気を抜くな!早くトドメを!」


俺は茫然とする二人に指示を出す。マレットとマグネスはハッとして、それぞれ残った肩と胸の宝石を砕いた。俺は、残った頭の宝石を手で剥ぎ取った。


「取ったら光を失ったな。どんな仕組みなんだ?」


俺は宝石を見ながら呟く。

すると奥の方で扉が開く音がした。


「どうやらこれで先へ進めるようじゃな」


マグネスは扉の先を覗き込んで応える。

扉の先は階段になっていて、さらに地下へと下っていた。

階段を下りた先には細い通路があり、脇には燭台が飾られていた。


「なんか神々しい作りになってきたな」


マレットが言う。

まさかこの先に魔王とかいないよな、俺は嫌な予感がしつつも先へ進んだ。


「また、扉か」


マレットは扉を前に立ち止まる。

先ほどの扉よりは小さく、作りも質素だった。

俺たちはお互いを確認するように小さく頷くと、扉を押して中へと入った。


「これは、祭壇?」


俺は部屋の奥を見て呟く、部屋はそれほど広くなく、奥には祭壇らしきものが飾られている。

マグネスが脇の燭台に火を灯し、辺りを照らし出す。


「ふむ、これは創造神を祭ったものらしいのぉ。しかし、打ち捨てられて久しい物じゃ」


所々朽ち果てた祭壇を確認していたマグネスが答える。


「カシロフが信仰している神様か?」


俺はマグネスに尋ねる。


「いや、坊主の神さんとは違う、古い神の一種じゃ。今では信仰してるものなど皆無じゃろうて」


マグネスは答えた。

その時、祭壇が眩い光に照らされた。


『おーーい、ワシの声きこえてる?』


そこに姿を現したのは俺を転生させた自称神だった。


『自称は酷いのぉ、これでもかなり偉い神様なんじゃぞ。』


光が少し収まると、そこには前と同じ姿の爺さんがいた。


「心の声を勝手に覗くな!それで神様がなんでここに?それと、もしかして、周りの時間止まってる?」


周りを見るとマレットとマグネスが硬直してさっきから動いていない。


『うむ、この祭壇を起動させられるのは転生者だけだからのぉ。それにしても久しぶりにこっちに来たが、すっかり変わってしまったのぉ』


神様は悲しそうな目で辺りを見回す。


「神様なんだから、世界のことは何でもお見通しじゃないのか?」


『今となっては形だけの神様じゃからのぉ。やはりワシ、自称神様かもしれん』


なんだか悲しい声になってくる神様。ちょっと応援したくなるな。


『そうじゃろ!応援したくなるじゃろ。それではゲンタよ、一つ世界を救ってみんか?』


神様は急に元気になって言い出す。


「勝手に話を進めるな。世界を救うなんて俺じゃなくコウタやセナに頼めばいいだろ? それこそ勇者なんだから!」


『彼らではダメじゃ、ワシですら今の世界には何もできんのじゃから』


「本当に神様らしくない爺さんだな。人を転生させるだけの力はあるくせに」


俺は不思議に思って尋ねた。


『昔、旧時代と呼ばれていたころはワシだって創造神として信仰もされていたし、それこそ天地創造の力すらあったんじゃ。だが、今では小間使い。奴にいいように使われる始末』


「神様より偉い人がいるのか、それは一体?」


『それは制約により口に出来ん。だがそいつを倒して元の世界に戻して欲しいのじゃよ』


今まで生活していて、俺を覗いて何不自由なく生活している世界。それを壊していいものか思い悩む。


「大筋はわかったが、それを頼むのは制約違反にはならないのか?」


『この場所なら、監視もないし、そのことについては制限もないから言えるのじゃ』


「しかし、相手がわからないと倒すこともできないし」


『そこのエルフもこの世界の特異性、真理に近づきつつあるがどこまで迫れるか。 まずは、お主をこの世界に呼び出した者に会ってみればどうかな? その者も、世界に縛られぬお主を呼び寄せたんじゃ、世界の真理に気づいておるのかもしれんしな』


神様は言葉を選びながら伝えてくる。


「えっ?俺を呼び寄せて転生させたのは神様じゃないのか?」


俺は驚いて聞き返す。


『うむ、確かに転生させたのはワシの力じゃが。そもそもお主を呼び寄せたのは別の者じゃ。

 その者は、この世界の魔王、ジン・タイラーじゃ』


衝撃的事実だった、魔王に呼ばれてこの世界に来た、それじゃあ俺は魔王軍の一員なのか?


「なら、コウタたちも魔王に呼ばれてここに?」


『彼らを呼んだのはまた別の者じゃ』


そりゃ魔王が自分の敵となる勇者を呼ぶわけないが、なんだか混乱してきた。


「しかし、転生してからかなり経つが、呼んどいて魔王からは何のアプローチもないぞ!」


『それは知らん、ワシはただ指示通りに転生させただけじゃから。詳しくは魔王に聞いてくれ』


「魔王に呼ばれ、神様に頼まれてこの世界を壊す。まるで悪者だな」


『そこは強制出来ぬ、だが願わくば世界の心理をその目で見て判断して欲しい』


何も出来ない、何も言えないなんて、この神様、本当に小間使いだな。

俺は心の中で神を哀れんだ。


「魔王か、正直気が進まないな。でも、ここで力をつければ魔王も怖くないか」


俺はここでの成長を感じて自信を取り戻していた。


『あぁ、ここでのレベルアップも地上に出たら効果なくなるぞぃ。この遺跡と地上の世界とじゃ、力の法則が異なるからのぉ。まぁ、もともとお主はここのシステムと上手くかみ合ってないがのぉ』


神様はカカカと笑って答える。

この爺さん危機感がねぇな。


『もともと勝機の少ない戦いじゃ、せめてワシからの餞別にお守りじゃ。祭壇の裏にあるから持っていけ』


お守りを貰っても神頼みすら出来ない状況では心もとないな。


「まぁ期待しないで待っててくれ」


俺は適当に答える。


『うむ、そうするとしようかのぉ。そうじゃ、ここから出たら全員敵だと思えよ。ワシでさえ信用してはいかん』


「なんか物々しいな、それだけ敵は巨大なんだな。ご忠告ありがとな」


俺がお礼をすると、神様はそれではといった感じで手を振って消えていった。


「ゲンさんどうしたんだ?ボーっとして?」


元に戻ったのかマレットが聞いてくる。


「いやちょっと考え事をな」


そう言って俺は祭壇の後ろに回り。そこにあった箱の中からお守りを取り出す。

これで家内安全とか書いてあったら笑えたんだがな。俺はクスリとしてズボンにお守りをしまったのだった。


「やっと戻って来れたな」


マレットは地上に出て伸びをする。

素質も戻り、体の動きを確かめてるようだ。


「うー、体が重い」


逆に俺は、遺跡内で得た経験値がリセットされて体が重く感じていた。


「結局これといった成果は得られなかったのぉ」


マグネスはしょんぼりして呟く。


「まぁ、遺跡なんて他にもあるんだろ?地道に探せば大丈夫さ」


俺はマグネスをフォローする。


「そうじゃな、最初からうまく行くはずはないか」


マグネスは前を向いてやる気を取り戻したようだった。


「まだ次があると思っているのか?」


いきなり聴こえてきた声に俺たち三人はハッとする。そこには弓を構えたエルフの軍勢がいて、俺たちを囲んでいた。


「なぜダークエルフがここに!?」


マグネスは驚いて叫ぶ。


「マグネスよ、第一線を退いたとはいえ元炎帝。その力放置するには危険なんだよ」


集団の先頭にいる背の高いダークエルフが答える。

彼が手を挙げると皆が一斉に弓を引き絞る。


「悪いがここで消えてもらう」


そして手を下げると、俺たちに向けて矢が一斉に放たれた。


ビュオォォォ!


矢は俺たちに降り注ぐ前に、強力な風によって行く手を阻まれる。

マグネスが即座に風の障壁を展開したのだ。


「さすが希代の魔導士と呼ばれるだけのことはある。だがこれだけの軍勢止められるか?」


ダークエルフは驚くことなく、第二、第三の攻撃を仕掛けてくる。

呪文や矢が絶え間なく降り注ぎ、その度にマグネスは呪文で跳ね返す。


「このままではジリ貧じゃな」


マグネスはそう呟くと、俺たちに向けて手をかざす。すると、俺たちの体は光に包まれ、どんどんと透けていく。これは転移呪文だ。


「おい、マグナスこれは!?」


俺は意図を察しきれずに叫ぶ。


「お前たちは足手まといじゃ、気になって大きな呪文もぶっ放せんからのぉ。なぁに、すぐ片付けるさ」


マグナスは白い歯を見せてニカっと笑う。

俺とマレットが言葉をかけるよりも早く、光が目の前を覆いつくしその場から消え去った。


「さて、老人だからってそう簡単に倒せるとは思うなよ」


マグネスは意気込んで特大呪文を詠唱する。

それは遠いエルフの村からも、マグネスの上げた特大の火柱は確認できた。


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「そりゃあもう、すごかったんだんだよ!王都に向けて魔王軍の砲撃が来たからさすがにもうダメかと思ったね。でも、いきなり街を光の幕が覆ってさ、それででっかい砲撃も弾いちゃうんだもの。夢でも見てるのかと思ったよ」


いつものギルドのいつものカウンター、隣ではカシロフが俺たちがいない間にあった魔王軍との戦いの事を語っている。


「ほんとに凄いよなぁ、魔王軍の攻撃もだが、大きな街を丸々守っちまうなんて」


カシロフは感動していた。


「こっちは一人すら守れずに後退してるのに、ほんと情けない」


俺はマグネスのことを思って呟く。


「ゲンちゃん、落ち込むなって。あの爺さんがそんなに簡単にやられる玉じゃねぇよ。無事だからこそ、追手のダークエルフもここに来てないんだしさ」


カシロフが陽気に宥める。

そうだな、考えても仕方ない今はマグネスの無事をただ祈ろう。

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