【命の妙薬】

「うん、出来た」


夕時、それぞれの家で煙が立ち上る頃、我が家でも夕飯の準備が整いつつあった。

鍋の中には、魚介が並びそれぞれが良い出汁を滲ませている。


「それにしても便利な鍋だ、火加減ちょっと失敗しても焦げ付かない」


俺は、前回の戦利品である鍋をかき回しながら一人つぶやく。


「ただいまー、お父さんいい匂いね」


しばらくしてセナが帰って来る。


「お帰り、今日はいい魚介が手に入ったからスープにしてみた」


「美味しそう。さっそく着替えてくるね」


鍋を覗き込みながらセナが言う。そして、そそくさと自室に着替えに行った。


「コウタもそろそろ帰ってくるかな」


噂をすればなんとやら、コウタが音もなく現れる。


「ただいまくらい言ったらどうだ。いきなり人の背後を取るんじゃない」


コウタも動作がだんだん玄人じみてきて、今では足音も聞こえない。いつの間にか背後にいられると心臓に悪い。


「今日はお客を連れてきたんだ」


コウタがいきなり告げる。


「お客?コウタの友達か?珍しいな」


「同僚だ、親父に用があって連れてきた」


「俺に用?まぁ、とりあえず入ってもらえ。夕飯まだなら用意もあるから」


俺はそう言って、コウタの同僚である騎士を迎え入れるのだった。


「初めまして、私はカレン・クライアットと申します」


リビングでスープの入った鍋を囲みながら、騎士カレンは自己紹介を始めた。細っそりとした体型ながらよく鍛えられていて、大人しい感じのする男性だ。


「クライアットってあの名門騎士の?」


セナは名に覚えがあるようで聞き返す。


「そうです、現当主ケビン・クライアットは私の父にあたります」


さすが名門騎士様、話し方や佇まいに気品がおありになる。


「それで、その名門騎士様がなにゆえ俺に頼みなんて?」


俺はスープが冷めないか心配しながら、さっそく話の核心に迫る。


「単刀直入に申し上げますと、行方不明の兄たちを探して欲しいのです」


あぁ、また人探しか厄介な事にならないといいんだけど。


口外しないようにと前置きし、カレンは話し始めた。カレンの父、ケビン・クライアットは現在病床に伏しているそうだ。それを見かねカレンの二人の兄は、父の病気を治すため命の妙薬と言われる特効薬を探しに出かけたそうだ。しかし、しばらくしても兄たちは音沙汰もなくそのまま行方知れずとなった。


「なるほど、ズズズ」


「もう、お父さん真剣な話しなんだからもっと静かに食べなさいよ」


煩くスープをすする音を咎められる。


「しかし、一家の一大事なのになぜ俺に依頼を?」


俺は事の重大さを感じて質問する。


「罰則の一つだよ」


代わりにコウタがこたえる。


「この前の旅行、予定より長く休んじまったから団長から罰を言い渡されたのさ」


そういえば、セナのところにはカシロフに賄賂の酒を渡したが、コウタの騎士団には何もフォローしてなかった。それで、責任の一端である俺を巻き込んだって訳か。


「親父も冒険者と言っても、仕事なんてないに等しいだろ? この機会に名門の騎士様に恩を売るのも悪くない、口外できないから、人を集めての捜索も出来ないしな」


言いくるめられた感じは否めないが、責任の一端を感じてカレンから依頼を承諾するのだった。


翌日、事の詳細を伺うために俺はクライアット家を訪ねた。


「来客だというのにこんな格好で申し訳ない」


騎士ケビン・クライアットはベッドに伏せたままこたえた。


「いえ、とんでもない、お加減が優れないなか面会頂きこちらこそ申し訳ない」


俺は素直に謝る。面会者がありながら、それでも床から起き上がることも出来ないとは、思っていた以上にケビンの病状は悪そうだった。


「息子たちの行方を探してくださるということでしたが、」


「えぇ、そのために家を出た時の様子を伺いたくて」


俺はケビンの具合をみて、手短に尋ねた。


「最初に私の病状を心配して妙薬の話をしてくれたのは、長男のクレハだった。その後クレハが、戻らないと今度は次男のキミトがやはり妙薬を探しに行くと出て行った」


ケビンは遠くを見つめながら話した。最愛の息子がを次々に行方不明、しかもその原因が自分のためとなると病気以上に気持ちまでふさぎ込んでしまっていた。


「お辛いところご協力感謝いたします。子を持つ親として心中お察しいたします」


俺も、もし子供たちがいなくなったと思ったら穏やかではいられない。

あとは屋敷の者に聞いてくれとのことで、我々はケビンの寝室を後にした。


「ご覧の通りお父様もすっかり滅入ってしまって。せめて兄たちの状況でもわかればいいんですが」


カノンは父を思いやり、呟いた。なんて父親想いのいい子だ、この半分の気持ちでもコウタにあれば。

俺は、コウタを見ると彼は庭の噴水を見つめていた。親の心子知らずだな。


その後、屋敷の使用人に話を伺ったが。彼らがどこに行ったのか知るものはなく。

命の妙薬についても知るものはいなかった。


「屋敷の人が知らないとなると、情報は他から仕入れてきたのか? 二人が入りびたる場所とか心あたりはあるかい?」


俺はカノンに尋ねた。


「兄さんたちは、騎士団詰め所の近くにある酒場によく通っていましたが、」


「他に情報もないし、行ってみるか」


俺は提案し、三人は酒場へ向かい歩き始めた。


「こんにちは」


カノンは慣れない酒場に動揺しならか、扉を開けた。

まだ昼過ぎということもあり、店内のお客はまばらで店員も暇そうにグラスを磨いている。

俺たちは店内に足を踏み入れカウンター席へと腰を下ろす。


「ご注文は?」


三人分の水を置きながら店員が訪ねてきた。


「ホットミルクを」


俺は、酒を飲みたい誘惑にかられながらも我慢する。カノンとコウタも同じものを頼んでいた。

店員が飲物の準備を進めていると、近くの席から声がかかった。


「もしかして、クレハの弟さんかい?」


そこにはがっしりとした体格の男性が二人、酒を飲んでいた。


「はい、そうですが。兄さんをご存じで?」


クレハは恐る恐る話しかける。


「あぁ、俺らはクレハと同じ詰所だからな。夜勤明けにはクレハとよく飲んでいたもんよ」


どうやら今日も夜勤明けらしく、吐く息はかなり酒臭い。

「しかし、クレハも急にいなくなるとはな。これで家督はおれが継げるって息巻いてたのにな。もともとクレハの腕で騎士というのにも無理がある。あいつ頭は回るが腕はからっきしだからな」


彼らはかなり酔っているらしく、大声で笑いながら話している。


「もしや、兄さんがどこに行ったかご存じですか?」


カノンは男たちに問いかける。


「詳しくは知らないが、変な爺さんに薬の話しを聞いたとか言ってたな。あれはいつだったかな?」


「たしか、警ら隊の要請でスラムに行ったときじゃないか?」


もう一人の男が答える。


「その時の巡回コースはわかりますか?」


カノンは詰め寄って質問する。


「あぁ、えっと詰所に報告書があるはずだ」


男たちは驚いて答える。


「詰所ですね、わかりました」


思わぬ情報に、いてもたってもいられず、カノンは店を後にする。

俺とコウタは、口の付けてないホットミルクの代金だけ払うと、急いで後を追いかけた。


コウタと共に騎士団の詰所に到着したとき、カノンはすでに巡回コースの書かれた報告書を見つめていた。


「カノン、コースはわかったか?」


コウタが問いかける。


「うん、覚えた。それほど長い工程を歩いたわけではなさそうだ」


カノンは書類を元の場所へ返すと、さっそくスラムへ向け歩き出した。


スラムは貧困層がひしめき合って暮らしている。

生まれ持った素質によっては、稼ぎのばらつきが出るのは仕方ないことだ。

そういった者たちは、境遇を受け入れるか、違う道で生きていくかの二択になる。

もちろん素質がすべての世界なので、持たざる者はどう頑張っても上に行くことはできない。

そういった面では厳しい世界だ。


思うところは多々あるが、今はカノンの依頼を優先させる。

俺たちは、カノンを先頭にスラムの路地を進んでいく。


「そこのお兄ちゃん。あんただよあんた、育ちの良さそうなお兄ちゃん」


しばらく進んでいると、道端に座り込んだお爺さんが声をかけてきた。

カノンはその場で立ち止まり、耳を傾ける。


「私のことですか?何か御用でしょうか?」


お爺さんは薄汚れてシワシワの顔を上げながら


「用があるのはあんたの方じゃろ?ワシを探しておったみたいだし」


カノンはお爺さんの言葉にハッとする。


「もしや、兄たちに命の妙薬の話しをしたのは、」


「そうじゃ、ワシじゃ」


お爺さんは笑いながら答えた。


「今の口ぶりだと、この爺さんで間違いなさそうだな」


コウタはお爺さんを睨みながらカノンに伝える。


「疑り深いのぉ、お主も親のために薬が欲しいんじゃろ?いや彼らと同じく自分のためか?」


お爺さんは目を細めてカノンの表情を眺めた。


「父のため、そして兄たちの所在を確認するため、どうか教えてほしい」


カノンはお爺さんに向けて深々と頭を下げた。


「ふむ、お主ならたどり着けるかもな」


お爺さんは嬉しげに話し始めた。


ふかふかなソファーは家のベッドより柔らかくここで眠ってしまいたくなる。

俺はクライアット家の客間で寛いでいた。コウタも隣のソファーに腰掛け静かに目を瞑っている。

昼間、スラム街のお爺さんから聞いた情報では、王都を出た東の山脈に妙薬の手がかりがあるとのことだった。

すぐにでも出発したかったが、一度ケビンに報告と捜索の許可をもらいに戻って来たのだ。

カノンの兄たちが東の山脈に向かったのは間違いない、しかしそこから戻らないのも事実。


ケビンにしてみればそんな危険な地に、最後に残った息子まで行かせるのは忍びないはずだ。

そうなったら、コウタと二人で行くことになるがそれも仕方ないことだった。


「お待たせしました」


しばらくして室内にカノンの声が届く。

扉が開き浮かない顔のカノンが現れた。その表情だけで話の内容までわかるようだ。

嘘の付けない性格なんだな。


「親父さんの許しは貰えなかったみたいだな」


コウタも察して声をかける。


「あぁ、キミト兄さんは騎士団の中でも指折りの実力者だったから。その兄さんが戻らないのに、僕が太刀打ちできるわけないと。まったく正論だよ」


その言葉にコウタは立ち上がり部屋を出ていこうとする。


「どこに行くつもりだ?」


俺はコウタに問いかける。


「トイレだよ」


コウタはぶっきらぼうに答えて部屋を出て行った。

俺は、コウタの様子に不安を覚え、しばらくして後をつけるために部屋を出た。


「お願いします。アイツを行かせてやってください」


しばらく屋敷を彷徨うと、ケビンの部屋からコウタの声が聞こえた。


「私の気持ちもわかってくれ、意地悪で行くなと言ってるんじゃない。私にはもうカノンしかおらんのだ」


ケビンはコウタの言葉にも意見を変えずに言い放った。


ドン!!

その時突然大きな音と共に揺れる屋敷。

震源地はケビンの部屋だった。


「俺がアイツを死なせない。約束する」


部屋の中ではコウタ赤い煙を纏って剣を叩きつけていた。ケビンもコウタの異様な力に驚いている。


「確かに君なら大抵のモンスターは難なく倒せるだろう。だが、この世は力だけではどうしようもならないこともある」


ケビンはコウタの力に関心しつつも、落ち着きを取り戻して話す。


「この、わからずやが!」


コウタは吐き捨てると部屋から出ていった。

しばらくして音に驚いた使用人たちが駆けつけたが、ケビンは何事もないと彼らを追い払う。

皆が去ったのを物陰から確認した後、俺はケビンの部屋へと足を踏み入れた。


「どうやら息子がかなりご迷惑をかけたようで、親として申し訳ない」


俺は深々と謝る。


「ふふ、カノンもいい友人を持った。若い頃はあのくらい無鉄砲な方がいい。だからなんでも力で解決できると思ってしまう」


ケビンは落ち着いて答えた。その言葉はコウタに向けてのみの言葉ではなかった。


「えぇ、そのために親がいるんでしょうな。私も子供を守りたい気持ちは一緒です」


俺はケビンに伝える。


「わかっています、私の我儘だということは、足手まといかもしれませんが、息子のことお願いできますか」


ケビンは無理矢理に状態を起こし、上体だけで礼をする。


「息子の無茶も止めてくれる、案外いいコンビなのかもしれませんね二人は」


俺は、ケビンに休むように言い。静かに部屋を出た。

これは何としても無事に戻ってこないとな。


その後、カノンとコウタに許しが出たことを伝え明日出発する算段をつけた。


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翌日、準備を整えて王都を出発した。目の前に見える山脈は霧が立ち込め山頂は雲で隠されていた。

コウタは前と同じ短剣を腰に刺し、大きな剣は馬に背負わせている。

カノンはコウタと違い細身の剣を腰に刺しているだけだった。

俺もナイフは持っているが、このナイフは主に食事と採取用といった代物だった。


「今日は山脈の麓にある村まで向かいましょう、兄たちもおそらく同じ村に立ち寄っていたはずですから」


カノンは馬を操りながら伝える。


「わかった、先導は任せるぞ」


コウタはカノンに言い同じく馬を走らせる。

俺はコウタの背中に捕まり、振り落とされないように必死だ。

コウタもいつの間にか騎馬を覚え、一通りの操作は出来ていた。

知らぬ間に成長しているなコイツ。俺は我が子の成長に目を見張る。


その後、順調に馬を進め、昼過ぎには目的の村に到着した。

到着した村はひっそりと静まり返っていて、村民は出かけているのか民家にも人の気配がしなかった。

俺たちは村の中ほどにある宿屋に向かい、馬を繋いで室内へと入った。


「これはこれは、お客さんとは珍しい」


室内には小人ほどのお婆さんが一人座っていた。


「三人なんですが、本日宿泊はできますか?」


カノンはお婆さんに尋ねた。


「お客さんなんて滅多に来ないから、部屋の準備が出来てなくてねぇ。納屋になら泊まれるがどうするかね?」


慣れない馬に揺られ疲れも溜まり、ゆっくりベッドで寝たかった俺は落胆した。


「こちらこそ急に押し掛けたんですから、贅沢をいう資格もありませんよ。納屋でも雨風しのげれば言うことありません」


「そうかいそうかい。ちなみに料金は前払いで一人金貨一枚だよ」


お婆さんはぬけぬけと言ってきた、金貨一枚といえば一か月分の食費にも相当する。納屋に泊まってこの金額とはボッタクリだ。


「おい、婆さんいい加減に、」


「待つんだコウタ!お婆さん、すいません、それでは金貨こちらに置きますね」


カノンは何か言いたげなコウタを制止し代金を払う。

本当にいいコンビだ、ここでゴネても徳がないからな。


「おや、気前がいぃねぇ。前来た騎士なんて剣を振りかざして暴れたってのにさ」


お婆さんは金貨を眺めながら話した。


「騎士?ちなみにお婆さんその騎士はこのような紋章をお持ちではありませんでしたか?」


カノンは鷹の模様が入った紋章を取り出した。青白く輝く金属板で年季を感じられる品物であった。

確かあれはクライアット家の紋章だ、家に行ったときに目にした覚えがあった。


「うん、間違いないね。先に来た二人の騎士も同じものを持ってたよ。片や納屋に泊まられるとは何事かと。片や金貨一枚も請求するとは何事かと言って出ていったね」


お婆さんはよほど酷い目にあったのか、その声は怒りに満ちていた。


「お婆さん、落ち着いて。先に来た二人は私の兄でして、代わりに私が謝ります」


カノンは素直に頭を下げた。

するとお婆さんはニッコリとして、


「うんうん、えぇ子じゃのぉ。ワシはお主が気に入った。お主も、命の妙薬探してるんじゃろ?ある場所を教えてやろう」


お婆さんは上機嫌で言うのだった。


翌日、強烈な風が吹き抜ける渓谷を慎重に進む三人。


「崖が脆くいなっています、足元に気を付けて」


カノンは後方の俺たちに注意を促す。

納屋で一夜明けた俺たちは、お婆さんから聞いた古城を目指し渓谷を抜けていた。

お婆さん曰く、命の妙薬はこの渓谷を抜けた古城にあるらしく、手に入れるためにはいくつかの試練が待ち構えているそうだ。


「城の入り口は固く高い門に閉ざされている。通りたければ三度剣で叩け。城内には恐ろしい番犬が潜む、無事にやり過ごすにはパンを与えよ。そして城の滞在時間は一時間、それ以上いると城から出られなくなるぞ」


なんだかよくわからない忠告である。

三度叩くって三顧の礼のことか。この世界にその故事があるとも思えないが。

城までの道もまさに山あり谷ありだった、お婆さんの案内がなければわざわざこんな危険な道を通る者もいないだろう。


俺たちはその後慎重に渓谷を抜け、深い森へと足を踏み入れた。お婆さんの話しではこの森を抜けた先に古城があるはずだ。


「ここで少し休憩しますか」


馬を降りてカノンは言う。


「城でどんな試練が待ち受けてるかわからないし、準備も整えないとな」


コウタも荷物を下ろしながら応える。

俺は軽い食事を用意するため、薪と山菜、キノコなどを探しに出かけた。


「見たことない種類の野草も多いな。毒かもしれないし迂闊に手を出せない」


ある程度集め終わるとコウタたちの元へ戻り、手早く火を付け温まるスープを作った。


「ゲンタさんありがとうございます。うん、とても温まります」


カノンはお礼を言って美味しそうに食べる。

一方コウタは、黙々と口に運んでいた。


「さて、腹も膨れたし出発するか。」


十分休息を取ると、荷物をまとめて俺たちは再度歩き始めた。


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「大きな門だな。」


いま俺たちの前には数十メートルはあろうかという門がそびえたっている。

森を抜けると、いきなり壁が現れて行き止まりかと思った。しかし、左手のほうに門がありここが古城であることがわかったのだ。

門の前に行くと、重そうな鉄の扉が閉まっている。


「引いても押してもびくともしないな」


俺は、扉を押しながら話した。


「危ない!」


扉と格闘していると、声とともにカノンに吹き飛ばられる。

さっきまで俺のいた場所には巨大な石の塊が投げつけられていた。


「大丈夫ですか、ゴーレムです。柱に擬態していたみたいですね」


カノンはそう言い、三体の石でできたゴーレムと対峙する。


「カノン!お前の剣では相性が悪い。ここは俺に任せろ」


ゴーレムの後ろから、大剣を構えたコウタが声をかける。


「単純な力試しなら、ごちゃごちゃ悩まなくていいから気が楽だ」


コウタは笑いながら剣を振るう。

赤い蒸気を纏った剣は石で出来たゴーレムの体を難なく切り裂き次々とゴーレムを岩の塊へと変えていく。嬉しそうに戦う姿は、騎士というか鬼みたいだな。


そして、ゴーレムをすべて倒し終わると、扉は自然と開くのだった。

まさかこれが三顧の礼か?


疑問に思いつつも門を潜り場内へと足を踏み入れる三人。

城の中庭は広く、噴水や彫刻、豪華な花壇などがあった。しかしどれも荒れていて見る影もない。


「人形の次は犬を倒せばいいのか?」


コウタは剣を構えて中庭にいる二つ頭のモンスターを見据える。

見た目は犬だが、象くらいの大きさがあるぞあれ。


「待って下さい。お婆さんの話しを思い出していましたが、先ほどのゴーレムが剣で叩くが正解だとすると。このモンスターはパンを与えるべきです」


カノンはコウタに声をかける。しかし、パンなんて持ってない。


「途中の森で手に入れたキノコでもいいかな?」


俺は、カバンから怪しい色のキノコを取り出す。

珍しもの好きの雑貨屋の婆さんにあげようと取っておいたものだ。


大きな犬は鼻をヒクヒクさせて俺の手に持つキノコの方まで近寄ってきた。


パクッ!


「大きな口を開けるから、食べられるかと思った!」


俺はバクバクに鳴る心臓を抑える。すると、もう一方の頭もすり寄ってきて牙を向いて唸っている。


「あぁ、お前も欲しいのか?」


俺はカバンから再度キノコを取り出して犬にあげた。

犬はキノコを咥えると満足そうに元の場所に戻っていった。


「これで通れるのか?」


恐る恐る犬の横を通り過ぎる、どうやら無事城に招かれたようである。

城内も予想以上に広く、玄関ホールにはいくつもの扉が並んでいた。


「制限時間もあるし、ゆっくりしていられない手分けして命の妙薬を探しましょう」


カノンは声をかけ、俺たちは散り散りに捜索を開始する。

お婆さんの話しでは、妙薬は宝物庫に厳重に保管さているとのこと。

まずは宝物庫を探さねば、俺は手あたり次第扉を開けては中を確認していく。

室内には埃を被っていたものの、金の食器や見事な刺繍のされた布、高そうな鎧など高価なものがいくつも並んでいた。

持ち帰りたい衝動に駆られつつも、今は妙薬探しを優先させることにした。


バタン!


近くの部屋から物音がして、俺はその部屋に駆け付けた。

そこにはソファに倒れこむコウタの姿があった。


「おい、コウタ?大丈夫か?」


俺がコウタの体を揺すっていると、小さな寝息が聞こえた。


「おいおい、この状況で寝るなよ」


何とか起こそうとするも、なかなか起きない。ここまで寝起きは悪くないのにと少し不思議に思った。


「皆さん、ありましたよ!命の妙薬です!」


コウタを起こそうとしていると、バタバタとカノンが部屋に入って来た。

その手には水色の小瓶が握られている。


「カノンか、実はコウタが寝てしまってな。なんとか起こそうとしているんだが」


カノンも不思議に思いコウタに近づく。


「これはどうやら呪いにかかっていますね。呪いを解くには特別なアイテムが必要でなんですが」


そこまで言ってカノンは考え込む。


「あっ、そういえば妙薬を手に入れた地下の宝物庫に呪いを解くアイテムがありました!」


「よし、ならさっそく取りに行こう」


そして俺たちは宝物庫のある地下へ向けて駆け出した。

玄関ホールの前を通った時、俺は違和感に気が付いた。


「待てカノン!入り口が閉まりかけている!」


どうやら探してる間に制限時間がきたようだ。


「カノン!先に行け!コウタのことは心配するな。後から必ず追いかけるから」


俺は妙薬を見つめて悩むカノンに指示をだす。


「ここで三人囚われたら誰も救われない!お前はお前のやるべきことをなせ!コウタが起きればこんな逆境すぐ乗り越えられる」


足の止まるカノンを外へ突き飛ばし、行くように促す。

そして、カノンが外に放り出されると城の扉はゆっくりと閉まったのだった。

扉の閉まった城内は薄暗く、空気も一層冷えて感じた。

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