情景2 ヒツジが一匹

「ねぇ、先輩・・・。」

「んあ?」

「夜・・・眠れない時って、どうしてます?」

「なんだ、眠れねぇのか最近?」

「ぃやぁ、そうじゃねぇっすけど・・・どうしてます?眠れない時。」

「眠れねぇ時なぁ・・・まぁ、酒吞んで横になってりゃ眠れっけど、なぁ。」

「あぁ・・・まぁ、先輩はそうでしょうけど・・・。」

「・・・ん、なんだぁ?」

「あぁいやぁ・・・それでも眠れない時、どうします?」

「あぁん?ん~、そうだなぁ・・・あれだ、ヒツジでも数えてりゃ眠れんじゃねぇのか?『ヒツジが一匹、ヒツジが二匹・・・』って。」

「あ~、それっす。」

「あ?」

「それ、おかしくないっすか?」

「なんか、おかしいか?」

「えぇ。『ヒツジが一匹』っすよ?」

「あん?あぁ、アレか?シープとスリープの語感が似てるから『シープ、シープ、シープ・・・』言ってるうちにスリープに引っ張られて眠くなる・・・ってのを、そのまま日本語に訳しても『ヒツジ』と『寝る』じゃぁ語感が違いすぎるから眠くはならんだろ・・・って話か?」

「いやぁ、そうじゃなくって・・・いやっ、それもそうっすけど・・・そうじゃなくて・・・。」

「んぁ?違うのか?」

「えぇ。だって『ヒツジが一匹』っすよ?」

「あぁ。なんかおかしいか?」

「いや、おかしいもなんも・・・『一匹』っすよ?」

「あぁ・・・。」

「ヒツジって『一頭、二頭・・・』じゃないっすか?」

「あ・・・。」

「ね?絶対おかしいっすよ。ヒツジって『一頭、二頭』っすよねぇ。」

「あ、あぁ・・・。」

「じゃぁ先輩、聞きますけど・・・ワニはどう数えます?」

「あ?あぁ、まぁ『一匹、二匹・・・』だな。」

「でしょ?飛行機は?」

「あ~『一機、二機・・・』か?」

「えぇ。じゃぁ、このお箸は?」

「『一膳、二膳』だなぁ。」

「ん~。大根は?」

「ん?『一本、二本』か?」

「ゴマは?」

「ゴマ?ん~『一粒、二粒・・・』か?」

「じゃ、人間は?」

「そりゃぁ『一人、二人』だ。」

「でしょ?じゃぁヒツジは?」

「あぁ・・・『一頭、二頭・・・』だなぁ。」

「でしょ~?アレ間違ってるんすよ『一匹、二匹』って。先輩もそう思いません?物の数え方って、大事なんっすよ。そういうのをねぇ、ちっちゃい頃からちゃんと教え込まないから日本語おかしくなるんすよ・・・そう思いません?」

「あ・・・。なぁ、お前・・・最近ちゃんと寝てるか?」

「え?あ~、そんなん当たり前じゃないっすかっ。快眠と快便は皆勤賞っす。」

「あ、あぁ・・・そんなら、いいけど。」

「あぁい、そういう訳で・・・先輩おやすみぃ。」

「あぁあぁ、ここで寝るなっ。も~、すいませんねぇ。ほぉらっ、もう一本食ったら帰るぞぉ。」

「あ~い、じゃぁ『ねぎま』を塩でっ。」

「あぁ、俺も同じのを・・・。」

 はいよ~。

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酔客二人。 八木☆健太郎 @Ken-Yagi

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