新九郎 家訓は人生の参考書

ハナス……では引き続きインタビューに応じて下さりありがとうございます。新九郎さま、初めて食べたショートケーキの味はどうですか?


新九郎……上手い! 上手いぞ。ハナスどのはいつもこのような物を食べておるのか。羨ましいのお。コーシーも上手い。馳走になった。ハハハ。


ハナス……コーヒーですね。まっ、いいか。では今度は新九郎さまの家訓についてお話をお聞きしたいと思います。早雲寺殿廿一箇条っていうんでしたね。もう一度、そううんじどのにじゅういっかじょうですね。私、読みましたよ。


新九郎……ハナスどの、どうであった? 


ハナス……私の得意な早寝早起きとか倹約の事は従いやすいかなって思いました。毎日、夜の十時に寝て朝五時半に起きるんですよ。


新九郎…… で? 


ハナス……反応うすっ。あっ、気がつかなくてごめんなさい。もう一つケーキどうぞ。コーシーも良かったらおかわりどうぞ。……で、ほら、さっきもお伝えしましたが、いくら働いても貯金が増えないし、食料品の値段は上がるし、こまめに電気を消したり、ガス代を安くするために、工夫もしてるんです。


新九郎……どんな? 


ハナス……ふふ、言っていいかしら? 夫とお風呂に一緒に入るの♡ 新九郎さま、コーシーブレイクのあと、お背中流しますわ⤴︎ あっ、ごめんなさい。新九郎さまには時間がなかったんでした。急がなくちゃ。


新九郎……ワシはまだ大丈夫だぞ。コーシーのおかわりを頼む。それよりハナスどの、ワシの家訓は働き人にも役立つと言っておったが。


ハナス……そうでした。失礼致しました。で、私は第九条の『主人の言いつけに対し、まず素早く「はい」と返事し、近づいて謹んで聞きなさい。用事を果したなら、あったとおりのことを報告しなさい。分の才気をひけらかすような大げさな物言いをしてはならない』これはいいなって思ったんです。


新九郎……うむ。主君には従う事は大事じゃ。 


ハナス……上司から何か頼まれるときは面倒くさがらず、素直に従うんですね。さらに上司との間の報連相は大事だと思います。出来ないって嘘ついたり言い訳って良くないんですね。


新九郎……そうじゃ。あと失敗を取り繕ったり、成果を大げさに報告したりすると後で面倒なことになるので、正確に報告する事も大事じゃ。


ハナス……確かにそうですね。その方が信頼されますものね。新九郎さまも将軍や主君今川家に信頼されていましたものね。説得力あります。あとは付き合う友達ってよく選んだ方がいいってありましたね。


新九郎……そうである。良い友を求めるなら、学問の友人である。悪友として除くべきは、碁・将棋・笛・尺八の遊び友達だ。趣味は知らずとも恥ではなく、習っても害にはならない。人の善悪は全て友人で決まるのじゃ。三人よれば必ず師となる者があるから、その善人を選んで見習い、良くない者は吟味し、交際を断てばよい。


ハナス……自分にプラスになる友達選びって大事だと思います。人生が豊かになるかならないかって金銭面だけではないですね。付き合う友達で変わりますね。


新九郎……そうじゃ。ワシの竹馬の友はいい奴ばかりだったわい。文學を友にする事も価値がある。和歌にもたくさん触れてよかったぞ。侍たるもの、力だけではなく智力がなくてはいけない。懐に本を入れておくといいんじゃ。


ハナス……ですね。現代人はいつでも文学に触れる事ができますよ。スマホっていう便利な物が、あっ、記念に写メ撮りますか。新九郎さま、笑って。


 やだー、新九郎さまったらこんな所に生クリームがついてる。


新九郎……おっ、おい。もはやインタビューではないではないか! まあよい。ハナスどの、せっかくだからもう一泊して行こうかのお。コーシーより上手い物を所望する。


ハナス……新九郎さま、もっとお話ししたいのは山々なんですが、時間(字数)がないのです。あのですね、新九郎さま、あなた六十四才で亡くなるんですよ。新九郎さまは戦国武将には珍しく死因は老衰ですって。ぴんぴんころりですね。


新九郎……ワシの死期が近いと申すか! 


ハナス……はい。ぴんぴんころりの、二番目のぴんの時にお呼びしてしまいました。まことに申し上げにくいのですが、明日あたりです。早く韮山城にらやまじょうに帰って下さいませ。皆さま待っておられます。本日はありがとうございました。


新九郎……うっ、ハナスどの、なんて事を。まあよい。ワシも潔く散るかのぉ。ハナスどの、世話になった。楽しかったぞ。さよならじゃ。



───手を振って新九郎さまは帰っていかれました。さようなら。


 私は新九郎さまから頂いた色紙をリビングに飾っています。


 そこには『枯るる木に また花の木を 植えそへて もとの都に なしてこそみめ』とあります。

 

 その意味は、『枯れてゆく木にもまた花が咲く。つまり、木を添えて植えることで元通りの都にして見せるぞ』というものです。


 新九郎さまは焼けた戦地に花を、枯れた田畑に作物を実らせる事に尽力しました。


 新九郎さまが残したは五代続き、後北条氏として小田原市民に愛されています。


 次回、新九郎さまと竹馬の友との物語です。実話と逸話を混ぜたフィクションです。乞うご期待!

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