新九郎 あの日の約束〜立川原の戦い〜重時の死
1504年〈永正元年9月27日〉
「立河原の地に集まった者達よ、扇谷上杉家のためによう戦ってくれた。この大勝利はこれから関東全域に広まるであろう。氏親氏と
上杉朝良の猛々しい勝鬨の声が立河原に響く。数では劣った伊勢軍が顕定軍の馬印を追いつめ総崩れにしたのも、宗瑞の戦の見事な手腕であった。
「叔父上、此度の戦、叔父上の援護なしでは勝利出来なかった。とはいえ……」
「氏親様、甥であっても我が主君、お命守るのが私の務めに参ります」
伊勢宗瑞はゆっくりと頭を下げる。戦の世の慣わし、勝利したとて幾らかの人の命が犠牲となる。宗瑞は弟の弥次郎と家臣を亡くし、人生初めての白兵戦に喜びよりも虚しさを感じていた。
「生かされた我らは敵味方に関わらず丁重に弔いましょうぞ。叔父上、弥次郎と家臣達の供養を存分になされよ」
宗瑞は氏親の労いの言葉に深く頭を下げると、彦次郎を呼んだ。
「彦次郎、彦次郎はおらぬか!
宗瑞の元に呼ばれた五人の家臣は、おずおずと宗瑞の足元に平伏した。
「重時の最期を見届けた者はおらぬか」
「宗瑞さま、私めがそばについていながら、申し訳ない事を」
「彦次郎、申すな、全てはワシの責任じゃ。重時を兜首にしたワシの……」
宗瑞こと、新九郎は彦次郎の肩に手をやり、涙しながら言う。
「重時は、立派な最期でした。弓矢が無くなると、槍で敵方に立ち向かい、伊勢軍の本陣を守ろうと……立派な最期でしたゆえ。それより弟弥次郎さまの弔いを。宗瑞さま!」
弟より家臣を大事にする宗瑞に荒木彦次郎は畏れながら言うと、宗瑞は首をゆっくり振り、男泣きした。
「伊勢宗瑞、いや新九郎はお前たちを家臣と思ってはない。あの時の約束を果たした同志、友である。多目権兵衛、そうであろう、そうであろう」
「宗瑞さま、いや新九郎、覚えていますとも。我ら若かりし頃の約束を。六人で修行に伊豆に下った時の約束を。言い出したのは重時だったはず」
───この中で誰か一人が大名になったら、他の者は家臣となってその人を盛り立て、国をたくさん治めよう!────
「そうじゃ、みんなで誓い合ったのが昨日のことのようじゃ」
「新九郎、みんな新九郎が大名になると信じて、伊豆討ち入りに伴った。それは間違いなき生き方ゆえ、重時の死を己のせいにするな」
才四郎の言葉に皆頷き、あの時の約束を果たした喜びを分かち合う。
「一番稽古に励み、一番強かった重時がいつも言っていた。俺が新九郎を、命をかけて守ると……。重時も勝鬨の声を聞き……本望だろう」
「重時なき後、我らが新九郎を守る。これがこれからの誓いぞ!」
「いや、これから関東全土を平定し領民を家臣を、そしてお前たち友をワシが必ず守り抜く。重時よ、聞こえるか! これがワシの誓いぞ!」
伊勢宗瑞新九郎と竹馬の友たちは、互いの誓いの言葉に静かに頷いた。
※ 大道寺重時 山中才四郎 多目権兵衛、荒木兵庫頭、荒川又三郎、在竹兵衛尉は
それを元に、逸話と混ぜての創作です。重時がどの戦いで討死したかは定かではありません。あしからず。
最後までお付き合い頂きありがとうございました。
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