第2話

 高校2年生の春。4月下旬。


 昼休みに机に伏せて寝ていると突然『スパーン! 』と頭を叩かれる。


 俺は顔を上げると右手にハリセンを持ったダークブラウンの長い髪をふたつ結いにしているクラスの委員長で自称幼馴染の樋野ひのゆみが俺の横に立っていた。


「悠くん。早く席替えのアンケート出して!! 今日の昼休みまでだよ!! 」


 そうだった。忘れてた。


「すまんな。はいこれ」


 俺はアンケートを委員長に渡すと『スパーン! 』と右手に持っているハリセンで叩かれる。


「なんだよ? 」


「『なんだよ? 』じゃないよ! なに『この席でオーケーです。人と話さなくてすむので』って! ふざけてるの?! 」


「ふざけてないぞ? 至って真面目だが? 」


 小説の構想を考えている時に話しかけられるとアイディアが霧散してしまうからな。


「先生が認めるわけないでしょ?! 」


「誰が認めるとかじゃない。これには要望を書くんだろ? 俺の要望を書いて何が悪いんだよ? 」


 委員長は「悠くんの言ってることは正しいけどさ……」と何か言いたげな表情をする。


「なんだよ? 」


「もうちょっと遠慮しない? 」


「断る。俺の要望だからな」


 委員長は「はぁ〜」と深いため息をした。



 同日の放課後。


 俺は家に着くと誰もいない家の中に向かって「ただいま」と言うと俺の声が虚しく反響する。


 あの事故から約6年が経過したが、未だにこの瞬間だけ悲しくなる。


 よく妹が『おかえり! お兄ちゃん!! 』って言って出迎えてくれたっけか。


「あ〜、だめだ。玄関にいるとナーバスになるから自分の部屋で次回作のプロット作ろ」


 俺は自分の部屋に行くとパソコンを起動して次回作のプロット作りに集中する。



 プロット作りをしているとインターホンが『ピンポーン』と鳴る。


 時刻は午後8時ちょうど。


 こんな時間に誰だろう?


 俺はそう思いながら玄関の扉を開けると担当編集者の如月さんが


「犬猫先生! 小説家、やめませんよね?! 」


 と言いながら俺に抱き着いてくる。


「ど、どうしたんですか?! とりあえず近所迷惑なので家の中で話しましょう?! 」


 俺はリビングにあるソファーに如月さんを座らせると冷蔵庫から昨日コンビニのクジであたったペットボトルのお茶を差し出すと蓋を開けて飲む。


「ぷはっ! すみません、取り乱してしまいました」


「いえ。ところでどうしたんですか? 如月さんが取り乱すのって虫が出た時ぐらいじゃないですか」


「仕方がないでしょ?! 『空気の読めない妹は兄のことが好きなようです!! 』の最終巻を書いてから約3週間がたったのにプロットの1つ出さないんですもん! 」


「すみません。一応何個かプロットは出来ているのですが、自分の中で没にしてしまって」


「今すぐ私に見せてください! 」


 俺は一度自分の部屋に戻ってプロットを如月さんのメールアドレスに送り、リビングに戻ってくる。


 すると、「確かに。面白くはないですね」と没宣言される。


「私からのアドバイスですが、ヒロインを妹じゃなくすればいいと思うんですよ。例えば幼馴染とか、クラスメイトの女の子とか! 」


「そうですね。やってみます」


「書き上げたら没にしないで私のメールアドレスに送ってください! それでは夜分遅くに失礼しました!! 」


 如月さんは俺の家を後にする。


「書いてみるか……」


 俺はその日にプロットを書き上げるが、次の日には没宣言された。



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