第18話 他の種族
賢者の彼女に事情を話すと、まず彼女は魔神と語らった私の行動に対して無茶をするものだと呆れると同時に、事前に私に色々と教えてくれた自身の判断が正しかったと自賛した。
ただ、言い訳をさせて欲しいのは、今回に限っては自発的に魔人に話しかけたのではなく向こうから話しかけてきたのだから、別に何かしらの無茶をしたわけではない。
それでも敵として生前の魔人と対面した賢者に言わせれば、魔人は口数の多い性分ではなく、卑劣ではないが寡黙故にその内面を伺う事が困難であり、手の内が読めない相手であったらしく、私が日常会話でもするように魔人と会話を行えた事について大いに驚いたようだった。
私が抱いた魔人に対する印象とは随分違うようだが、本来私が会ったような性質の持ち主なのか、それとも死後の長い倦怠の中で彼に何らかの心境の変化があったのか、それは彼自身でなければわからないことだ。
それよりも重要な事態として私達が向き合わなければならないのは新たな脅威である魔神の存在だ。
賢者の彼女に連れられて、私はこの街でもっとも大きな墓所に向かった。王族の墓の中でも特に古く、しかし作られた当時の雰囲気を色濃く残すこの墓は考古学上重要な物であり、博物館を兼ねる研究機関を併設し、日々過去の様々な出来事や古代の魔法について調査が行われているらしい。
考古学についてはジョブに関する理由ではなく、単純に私の学の浅さ故に一度聞いただけでは理解することが難しいものだったが、美しく、歴史を感じさせる博物館の展示品は非常に私の目を引いた。
それ以上にかつて姉と慕った彼女に再び様々な事を教えて貰えるのが嬉しくて心地良い。今がそういう時では無いとわかっているが、昔今よりも幼く、浅はかだった頃に文字の読み書きから日常の様々な事、簡単な計算や物の考え方まで多くの事を教えて貰った時期を思い出して口元が緩んでしまう。
彼女も同じことを思っているのだろう、特に意味もなく、しかし示し合わせたように私達は笑い合った。
今でもきっと、彼女にとって私は妹のようなものであってくれるのだろう。それは少しだけ気恥ずかしくてとてもありがたい事だ。
そういった穏やかな時間をすごし、博物館として公開されている場所の奥へ足を進める。関係者、その中でも限られた人物しか入ることが出来ないというそこは礼拝堂のようだった。この墓に眠る先人と能力あるネクロマンサーが語り合う場所であると賢者は教えてくれた。
確かに、ここには多くの魂が居る。賢者であってもネクロマンサーのジョブを持たない彼女には実感がないというが、私には明確にその存在を認識することができた。
物音ひとつ無く、静謐で重たい雰囲気が保たれているこの場所は魂達にとっては過ごしやすいのだろう、賑やかにすら感じるところだ。
そんな彼らと語らうというのが、ここで作業をしていた老齢の男性だ。権威あるネクロマンサーだという彼は、賢者から事情を聞いて私に値踏みするような視線を向ける。
確かにネクロマンサーとしては未熟な私ではあるが、彼に言わせれば魔人の魂と語り合うというのは熟練のネクロマンサーほど忌避する危険な行為だったと言う。それを躊躇無くやってのけたというだけでどうやら私は彼に気に入って貰えたらしい。
魔人の方から話しかけてきた、というのはこの場合黙っていた方がいいのだろう、多分。
肉体を持たない種族というのは私が思うより多く居るそうで、その中には肉体を持つ種族の精神や魂に影響を与え、洗脳状態に陥れたり、あるいは魂を入れ替え、肉体を奪い取る者も居ると言う。経験の浅いネクロマンサーの中には迂闊にもそういった存在にみいられて命を落とす者もある。
だから命を失ったとは言え魔人の魂に接触を試みるネクロマンサーが今までいなかったらしい。何しろ長年に渡って人々と争いあってきた存在だ、その魂の有り様がどう言うものであるか、死後にどういう呪いが掛かっているのか分かったものではない。
そう聞くと自分がいかに恐ろしい事をしたのかと自覚してしまう。ならばそんな場所を観光地にしないでいただきたい物だが、実際にネクロマンサーの多くはあの城の観光地化には反対であるらしい。
そこには私にはとても理解の及ばない政治的な理由があるのだろう。難しい事だが、そういった様々な偶然が絡み合った事で私はこういった事態に首を突っ込んでしまうことになったようだ。
運が良かったのか悪かったのか、今の私には推し量ることすら出来ない。
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